ここが陰陽寮

 幸い、よく分からない魔法か何かで大きな傷は無くなり、少年が座るには大きいベットに正座する事が出来た。

 切り傷から血がまだ滲み出ているけど、女性が丁寧に包帯を巻いてくれたおかげで特に痛みは無くない。


「えっと。つまり貴方は、私達の知る闇命あんめい様では無いという事でしょうか」

「はい。俺自身、なぜこのようになっているのか分からないのですが……。あ、俺の名前は牧野優夏まきのゆかと言います」


 お互い今の状況を整理しながら恐る恐る会話をしているが、初対面なこともあるし、距離感がわからない。

 幸い、二人は普段から冷静な人達らしく、俺の話をしっかりと聞いてくれた。普通なら話すら聞いてくれないような展開だから、そこは凄く嬉しい。


「……それを信じろというのですか? イタズラですか?」

「イタズラではなく本気です。本当に俺は何も分からず、今この世界に放り投げられたんです」


 渋い顔を浮かべ、二人はお互い顔を見合わせてる。信じられないのは無理もない、俺も信じたくないよこんな状況。


「本当に俺は牧野優夏って名前です。お兄さんとお姉さんは誰なんですか?」


 聞くと、二人は少し戸惑いながらも名前を教えてくれた。


 女性の方は月希夏楓つきかえで。男性の方は月花琴平げっかことひという名前らしい。


 二人は闇命様の従者で、一番近くにいたみたい。

 従者はもう一人いるらしいが、今は巫女の仕事に出ているため不在、残念……。


「なるほど。それで、ここは一体どこなんですか? 狩衣なんか着て……」


 琴平という人が怪訝そうな顔を浮かべながらも、俺にもわかるように噛み砕いて説明してくれた。なんか、お兄さんみたいな人だった。


 ☆


 今聞いた説明を俺流に解説すると。


 俺が今いるここは陰陽寮。

 ここでは男性が陰陽師、女性が巫女として様々な仕事をしているみたい。


 主な仕事内容は"占い"や"鑑定"、"お祓い"などなど。これについては闇命君は一切やっていなかったみたいだから割愛されてしまった。


 そんな闇命君が一番行っていた仕事は"悪霊退治"らしい。


 悪霊には様々な強さがあり、一人で倒す事が出来るモノから、大人数でやっとなモノまでいるらしい。悪霊と一言口にするだけでも多種多様。

 倒さずに封印するしかない時もあるらしく、皆悪霊退治の際は、必ず一人では行かず、数人で行動するのを義務付けられている。


 悪霊退治は呪符、霊符を利用したり、形代を作ったり、式神で倒したりなど。

 人によってやり方は様々。そして、悪霊退治だけは陰陽師の仕事で、巫女はやらない。

 そのため、巫女は悪霊退治をしない代わりに、この陰陽寮の掃除やご飯の準備など。身の回りの事をやっているんだという。お母さん的役割だなぁ。


 今俺がいるこの陰陽寮は、他の陰陽寮の中で一番大きく、信頼における陰陽師が集まるらしく、ここに入るには優秀でなければならない。と言っていた。


 最後に、この世界では陰陽術の他に、もう一つ力が存在する。それは、陰陽術よりは弱いが、誰もが使える力。


 精神力を利用し使う事が出来る力。それをこの世界では"一技之長いちぎのちょう"と呼ぶらしい。

 これは一般的な言葉らしく、世界共通語。


 属性がいくつもあり、炎、水、風、氷、雷など。

 それぞれ一人一つの属性しか使えず、物を利用しなければ発動すらできない。


 例えば刀を持ち、それに炎を纏わせ相手に切り込む。などは出来るけど、炎の属性だからといって、手から炎を繰り出し相手を燃やすなどは出来ず、あくまで武器に纏わせ戦う。そう言った物らしい。


 一技之長のメリットと言ったら、精神力さえきれる事がなければ誰でも使用可能。逆にデメリットは、武器を利用しなければならない、使い勝手が悪い。


 みたいな感じらしく、琴平さん達みたいな陰陽師は、基本陰陽術で対処していくみたい。それでも、しっかりと一技之長も利用出来るらしく、そちらも極めようと日々努力をしている。


 ☆


 琴平さんが分かりやすく噛み砕いて説明してくれたおかげで、少しだけこの世界について分かった。


「これって、現実世界で言う異世界転生ってやつか……。ただのタイムスリップではなく、和風の世界に飛び込んでしまった感じって事だよな……」


 俺の呟きは琴平さん達に聞こえなかったらしく、首を傾げていたので「なんでもない」と返した。

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