第3話 ウイルスの歴史

  "それにしても、静かな街だな。コロナウイルスって、こんなに恐れるようなウイルスだったなんて。今なら、どこにあるかわかるから、普通に生活できるのに。"


閑散とした街並みを見ながら、俊は思った。この時代のコロナウイルス対する知識と科学力の低さに改めて、時代の格差を感じた。そして、授業で学んだウイルスの歴史を頭の中で浮かべながら、歩いていた。




 俊がいる22世紀の時代にも、コロナウイルスは存在していた。ただ、根絶はしていないものの、既にワクチンもあり治療可能なウイルスの一種になっていた。また、他のウイルスもほとんどが、発明された機械により可視化することができていた。だから、どこにウイルスがあるのか、っということが毎日の天気予報と共に、各個人IDへ発信されるようになっていた。


 だから、人々はその情報に従い、行動すればひどい病気になることも無くなっていた。そして、無用な心配もしなくなっていた。ウイルスが見えることは、人に安心をうみ、安定した生活を送れる土台となった。


 22世紀に至るまでたくさんのウイルスが出現したが、その度に医者や科学者たちは、その根絶を目指して闘った。確かに、その一部は彼らの成果でワクチン開発に導かれて、数多くの人たちを救うことになったのは歴史の事実だった。


 ただ、その一部にはどうしてもワクチンが作れないウイルスも存在していた。それらの特徴は、ワクチンを作るたびに、耐性を持つ構造になっていた。どんな強力なワクチンを供与しても、数か月後には、また新しいウイルスが派生するということが発生していた。


 度重なるウイルスと人類のワクチン開発は、当初人類のワクチン開発が勝利するとAIが予測していた。だから、人間はそれを信じて、ワクチン開発に取り組み、目の前のウイルスが根絶できることを期待し努力を積み重ねた。


 しかし、ある時、学会で「ウイルスとの共存」という論文が発表されることになった。それにより、AIが弾き出した予測が、ウイルスの根絶は不可能であり、人間はウイルスと共存すべきという結論が下されることになった。


 その論文にはこう書かれていた。「ウイルス自身にも生命体としての生存権があり、人間は、それを尊重すべきである。人間が、ウイルスを克服するために、費やした努力と時間に敬意は示すものの、もし、これ以上ワクチンを開発し続けウイルスの生存権を脅かす場合、ウイルス自身が自分たちの生命を守るために、将来人間の対応できないものに成長する可能性がある。だから、ウイルスとは一定の距離を置いて、人間がウイルスを住める環境を作ることが必要である」


 その論文を書いたチームの一人が、俊のおじいさんである片平智樹だった。俊は、このおじいさんに小さいころから医学関係の知識を教えてもらっていたから、俊が特に詳しい分野でもあった。


 この論文は、医師会の中で大きな反論を生んだが、数年にわたる議論の結果とAIの判断により、不必要なウイルスとの闘いをやめて、憲法にてウイルスに生存権を認めることが定められた。そして、その憲法に基づき、ウイルスが可視化できる機械が発明され、それが全世界の個人IDカードに届けられ、人々は、その情報に基づきウイルスが存在する時間や場所には立ち寄らないという法律も定められた。そうして、22世紀は人間とウイルスは、一定の距離を保ちながら生活するようになっていたのであった。




 俊は、そんなことを考えながら、この時代に来る前に、おじいさんが頼まれたこともあったので、一直線にそこに向かおうと、色んなものを見ながらとりあえず歩いていた。

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