第2話 歴史データ
俊は、一人で歩き出すと、また何かを触っていた。
それに触ると、一瞬にして2020年に何が起こったのか、自然に俊の頭にインプットされていった。
「なるほどね。やっぱり、最終的にはそうなるのか」と頭の中の情報をさぐりながら、納得し始め、独り言をつぶやくと、せせら笑いながらこう思った。
"歴史データがあるのに、わざわざこれを使わないなんて、ホント馬鹿な大人たちだよな。何が現場が大事だって。そんなの、勉強しなかった親世代が僕たち子どもたちに勉強させるいい口実じゃないか。"
歴史データというのは、2080年頃に科学者たちが長い研究の末に発明した検索機能のデータベースだった。2030年頃から、情報を持つ人と持たない人の情報の格差が、世界的な経済格差を生み出す大きな原因であると指摘されるようになった。そして、まず全人類に平等な情報を提供できるようなデータベースを開発しようと、全世界で様々な機関が研究し始めて、紆余曲折があったものの、2080年の初頭に発表された。
そして、全世界でそれぞれが持っている個人IDカードにそのデータベースのソフトを入れこまれると、それまで起こった事件や有名な人物、言葉の情報を基礎にして、更に何か起きるたびに、中央本部というサーバーを通じて、アップロードされ、それは全世界の富がある人も貧しい人も同じ情報を得ることができるシステムを構築することができた。
この歴史データは、当初全世界の情報格差をなくす画期的な発明としてもてはやされた。それにより、今まで権力のある人しか持ちえなかった情報が、経済的に劣る人にもいきわたることにより、彼らの中から、様々な発見があり、社会的な格差がなくなると当時のAIも未来を展望していた。
しかし、その数年後にハイパーコンピューターという未来を予測できるAIが登場した。そのAIがこの歴史データを人類が使用し続けた場合、人類の脳は50年後に2/3に縮小され、新しい発明や技術革新ができなくなり、AIから人間が軽視され、関係性が悪くなり、AIに支配される世の中になるという驚愕の予測が出された。
この予測を出したAIは、アフリカのまだ10歳程度の子供が作ったAIで、当時軽視されていた。だから、このAIに対し、世間の研究者たちはしょせん子供が作ったおもちゃだと思っていた。そこで、それを証明するために、試しに一年間かけて、成人の脳を検査することになった。
そうすると、そのAIが予測したように、わずかながら歴史データを導入する前と導入後の脳に違いがあることがわかった。最初、歴史データの研究学会はその事実を隠していた。しかし歴史データにより、学習しなくても自動的に頭の中に情報が入るという状況により、人は考えることが少なくなっていき、少しずつ成人の思考回路が画一的な人たちが出始め、新しい発見ができにくくなるという社会現象も起き始めていたため、仕方なくその研究発表を行うことになった。
その後、この歴史データを使用する際の全世界の法律が作られた。
第一条にはこう書かれていた。
「歴史データは、人類の成長において、必要不可欠である。然しながら、誰もが使用する場合、逆に人類の発展をとめる恐れのある物的存在であることを認識し、必要不可欠な場合を除いて、使用を禁ずる」
そして、その後の条文には、不正に歴史データを利用した場合の罰則や必要不可欠に当たる場合の事例が一つ一つ書かれていた。そして、時が流れ、22世紀に入って、タイムマシーンが発明されると、その法律に「教育機関において学生がタイムマシーンで過去に見学する場合は、担当教諭が当局に申請の上、学生の両親の許可の元、使用を許す。ただ、その時代の情報のみに限る。もしそれ以外の情報を読み取ろうとする場合、特別許可を申請し、申請後とすること」という一文も追加されるようになった。
今回、俊たちが歴史データを持ち出すことができたのも、学校から個人IDのパスワードを作ってもらい、2020年の時代の情報しか頭に入らないように制限がかけられていた。ただ、学生はあまり必要以外は、見てはいけないように注意されていた。だから、一緒にきた張華に怒られていたのだった。
ただ、俊はばかばかしいと思っていた。そもそも、歴史データがあれば、勉強なんて必要ないし、わざわざタイムマシーンでこんな時代に来る必要なんてない。もう仮想空間で何でも考え出せる時代なのに、本当にばかげてる…。
それに、アフリカの子供がせっかく未来をより正確に予測できるAIを作り出すことができたのも、歴史データがあったからなのに、それがきっかけで歴史データが使えなくなるなんて、本当に矛盾してる。結局は、大人の都合のいいように、世の中が動いてるような気がして子供が損をしている気分になった。
俊は、その勉強をすることが嫌いではなかったが、その歴史データやアフリカの子供がAIを作り出した、時代背景を学習してから世の中に、違和感を覚えることもたびたびあった。俊は、しばらく立ち止まり、情報を頭の中で整理しながら考えていた。
暫く考えながら歩いていると、ふと止まって思い直した。俊は、まあおじいちゃんからも、ある頼まれごともされてるから、それを済ませて、後はこの時代のレポートを書いたら、単位ももらえることだし、適当に見学してみよっかなっと思い、それらしい話題を歩きながら探し始めた。
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