Like an Iron of rusty and sharp
Forest4ta
錆まみれの女と鋼鉄の少女
―1―
扉の向こう側から歓声と銃撃、そしておおよそ鉄によって構成された装甲同士がぶつかり合う音が届いていた。この試合が終われば次はアタシ達の番だ。このスタジアムの中に作られた役立たずのガレージに響いているのはおよそ百年ほど前の戦争の反戦をテーマにした割にノリノリなロック音楽の乗せたヒットチャートだ。あたしはこの古臭いボンクラな音楽が好きだけど、今目の前に居るこのお嬢ちゃんの好みには似合いそうにない。昔はそう思ってたけど実際聴かせたら案外ノリノリだったんでその時代のジャンルのプレイリストを作ってやる羽目になった。
んで、ここと同じように―たぶんここよりボロクソで鉄製の作業台は整理されず脚には錆が生えているほど―汚い有り様のウチのガレージでもこの子はなんてこともないように過ごしてくれたり分かりやすくしてくれる為に整理整頓までしてくれた。しかも元の雰囲気を崩さず私が落ち着くような配置にしてまで。
このリーシアを没落貴族の身から拾ってあげた時は一発ヤル目的だったのに、いつのまにか飼い猫に飼いならされているようだった。そんなことを意味無く唐突に思い出していた。ラスティングファイト―要はマシーン同士の壊し合いだね―の試合の前だって言うのに。
向こうはマシーンの最終調整にAIのロジックを調整したり互いの以前の戦闘データを基にどう行くのが最適なのかを図っているところだろう。まぁ、アタシがそれをする必要はないんだけどね。ウチの元お偉い嬢ちゃんがやってくれるから。
あたしは『この子』の最終調整に反応のチェックや弾薬とバッテリーの確認、あとは『脳みそ』をちゃんと守れるかのチェックを済ます。
「どう?シックリ来てる?」
《問題無しです!シンシアさん、もういつでも行けるよう暖まっていますね!》
まったく、いつもどんなことがあろうが日常の中だろうが自分だけ腐らないように生きてるように見えるのに「これが自分だ」って主張してる態度は毎度のことムカつく。
「いい?相手はガトリングと速射砲だけで攻めてくるけど今回はアンタにシールドとスナイパーキャノンを積んでやった。アウトレンジからなら相手にならない尻穴アセンブルだって思い知らせな」
尻穴なんて用を足すくらいにしか使わないとしか思ってないような子にあんたの心にぐちゃぐちゃ怖い思いさせるのはアタシだけだという願望を乗せながら激励をした。装甲がボロクソになろうと戦争で死なないように作られた鉄に包まれている思考回路のコアのバイオコンピューターもとい脳みそが無事ならリーシアの心はなんとでもなるんだから。
―2―
「アンタさぁ、アウトレンジから攻めろって言ったのになんで突っ込むかな……」
AIなら状況への融通が利くが心があるとなるとそうは行かない。この子に言えない様なクサい且つキモいことを思ってはいてもウチの金銭事情で頭を抱えるのとでは話が違う。リーシアの身体の整備や修理にはいくらでも使ってやるが金がなきゃどうにでもならない。
《すいませんシンシアさん。もしかしたら突っ込んで相手のマシンに銃口を突っ込んで穴を作ったほうが早く終わるかと思って。尻穴って言うからそこからヒントを得て……》
可愛げあるねぇ。もしこれが『クソみたいな男』向けの漫画や小説ならたぶん外見が可愛い女の子型の人型ロボだろう。でもこっちは戦争に使われる人型に近いがそれにしては不恰好なメカナイズドトルーパー(MCT)だ。頭は角っこい、腕は太い時もあれば細かったり死霊を狩るスーパーマーケット店員よろしくチェーンソーと一体型だったり。脚は逆関節で人間でこんなことが出来たら今すぐ雑技団に入るべきだ。まぁ、もちろんそういうリーシアみたいな子のニーズがあるのは知ってるけど、養うお金を知ったら果たして同じ目で見れるかな。
さっきはヤリ目(もく)―ってナウい言葉なのか?―で拾ったとは言ったけどもちろんあたしは機械に欲情する性倒錯者ではない。実際は女の子に欲情してその晩限りの関係を持とうかと一方的に思っただけ。どちらにせよ世間一般からすれば子供に見せたくないタイプの人間だね。まぁ、アタシがだらしのないのは女の子だけでも女性だけでもないけど。流石にジュニアスクール通いくらいの男子女子は倫理的に越えちゃアウトの一線だから発情しないけど。いや、そもそも未成年の子に手を出す時点でヤバイな。
アタシはよくある気だるげな野郎がするようなやれやれと頭を掻く仕草をしてリーシアに呆れながら輸送用トラックの貨物コンテナに彼女を乗せてから、アタシは運転席で一服吸う。
「いっそアタシがあの子をめちゃくちゃに壊せたら……?」
もちろん聞かれないように無線はオフにしている。こんな好意を伝えるには彼女には早すぎる。知り合って3年ほど経っているとはいえ没落貴族になっていなければ今頃カレッジに通うような女の子。こんな下から出るような汚い液に塗れてる話を彼女にはしたくない。じゃあ歳をもう少し取ったらこのことを話すのかって言われたら答えには躊躇うだろう。
そもそもあの子の元の身体は華奢でスベスベしそうな肌。アタシ好みのおっぱいの大きさに、手入れに怠りがないような長い髪の毛。しかもアタシより14歳離れてるそんな子をそこらへんのパブで見かけたらそりゃ口説きたくなる。特に日夜暴力に塗れた街で自分より弱そうな子を力ずくで言うこと聞かせたい野郎にとっては。そんな奴が一瞬でもアタシの目に入ったらムカつくもんなので彼女を囲んでた8人全員まとめて相手にして退かせたがミソクソに殴られた。けどリーシアは初めましてなアタシへ献身的に下手くそながら絆創膏や包帯を巻いたり消毒してくれた。その時だった。彼女をめちゃくちゃにしてやりたいと思えたのは。
―3―
・・・・・・・・・・・・・・・・
「アンタ、歳はいくつ?」
「17です。えっと……シンシアさん?」
なんともまぁお年頃だ。アタシも人のこと言えないけどますます興奮してきた。綺麗な花をいくつも添えている職人の手で作られた花瓶のような子。この街にここまで綺麗な女の子今まで居たっけ?自分がアンダーファベーラ(ギネスに載せられるレベルで治安最悪のブラジルの地下都市)に住んでもう10年くらいだけどこんな子は仕事で行く都市の観光地でしか見たことが無い。もちろんそんな子を誘うことはない。誘うのはアンダーファベーラに住んでいるもしくは入ってきた男女だけだ。こんな薄汚い人間には薄汚い世界に住む奴かわざわざ入ってくるような変わり者がお似合いだ。
押し倒されてからもなにをされるか分からないような顔つきでアタシを仰向けに見上げている。押し倒して逃げられないように彼女の手をやさしく押さえつけ、アタシは久々に締め付けられるようにドキドキしている。顔を近づけたその時、彼女はようやく怯えた顔になった。これでアタシが「待ってました」と言わんばかりにガッつければ良かったのだが。
なにもわからない世界でどういうことをされるか分からず怯えていた頃の、昔のアタシだ、これ。相手がアタシのような美人じゃないだけで弱者を貪るだけ貪ってあとは放って捨てるような屑に自分がなろうとしているんだ。そんな目に遭ってからアタシは強く在ろうと、厳しく在ろうとしたけど世の中そういう人間だけで成り立っているか?違うだろ。あたしは吐き気を堪えきれずすぐに便所に向かった。
自分の心のように汚い排水溝へぶちまけるように出るもの全部吐いた。自己嫌悪、恐怖、惨め、グロテスク、不安などなど。ほかにもあるだろうけどたぶんその中に混じっている。そんな感情以外に嘔吐してる時特有の不快感のせいで涙が出てきた。涙とこびり付いたとしゃ物を拭おうとして隣のトイレットペーパーに手を伸ばした矢先に冷たく細い腕に接触した。どうやらこの子はあたしを介抱してくれるのかな。
やめて、またアタシを惨めにするの?今度は吐き気こそ湧いてこなかったが胸が痙攣するような息苦しさと堪えきれない涙が込み上げてきた。どうにかこの子を守ってあげたい。どうにか無事に幸せに生きていけるようにさせたい。そういう身勝手な庇護の使命感をこの瞬間抱き始めた責任とその重さに。
そしてアタシを献身的に支えてくれそうなこの子をめちゃくちゃにしていいのはアタシだけだという矛盾した独占欲から抜け出せてない情けなさから今度は口に出せず鼻からと寫物が出てきた。一目ぼれなんかが免罪符にならない大罪。
―4―
もう2年が経ってるのかな。帰る家が無いならここで暮らせと言ってしまったら本当にここに住まれてから。初めて出会った時の脆さは消えて―そこに最初は惹かれちゃったんだけどね―今はクソみたいな輩が9割占めているこのクソみたいなクソ街で生きる術を教えてあげては鍛えてすっかり舐められない体つきと顔つきを持っている。自慢の育ち方だ。
だからってアタシのだらしの無さは変わらないけど。でも仕事は汚れ仕事だろうと死にそうな仕事だろうと選り好みせずにしてきて大人として力技ながら真っ当になれてきたのはこの子のおかげだけどね。
怪我したり入院したらリーシアに怒られるけどまぁ悪くない。むしろ心地よい。これはしつこく持ってる独占欲みたいなのではなく家族としてだ。今まで仕事仲間は居ても家族は居ないようなモンだった。両親は金銭関係でカルテルを怒らせ父はドラム缶の中で溶かされ、母は日夜クスリ漬けにされ男のチンポの相手をして廃人のまま死んだ。んでアタシは機械の鉄と銃弾と火薬に塗れる仕事で強く在ろうと仕事している。両親のようにならないために。リーシアにはそんな目に合わせたくないし、いっそう負け犬だった両親を無理やり思い出してなおさらアタシは強くなろうとしている。
家族とは仕事仲間と飲むようなそれではない日向ぼっこしてるような穏やかさ。実際、ここはアンダーファベーラの中で日が当たる市街地の一つだ。ここは今の時間帯なら最高の日の当たり具合だ。
「シンシアさんまたタバコ吸ってるんですか!死にますよ!死ぬ気ですか?!」
「いいじゃないの、アンタが興味本位で吸ったのと訳が違うの。慣れてるから咳き込むことも頭がクラクラすることもないのよ」
そんな物思いにふけたり親子のように注意されてるあたしの中でのリーシアに対する独占欲は出会った時より薄れて、今は心地よい感情の共有で繋がっている気がする。
アタシはもう一本吸おうとしたらどうやらタバコが切れていたので車を降りて少し離れたコンビニに向かう。別に車で行けるが目的地と正反対の方向でそこまで車を移動させるのが面倒だった。それがアタシたちの一生を変えるだなんてね。
爆発と銃撃音。アタシはそれが聞こえた方向からとっさに身体を向けていた。これが違う方向から聞こえてたらカルテルのやつらと取締局が懲りずにまだやってんだな、とあしらうがこの場合そうは行かない。リーシアが危ない。例え現場から遠くても駆けつけないと。あたしはつり銭とたばこをレジに置いたまま一目散に走ったが、既に手遅れだった。
リーシアの腹に流れ弾が当たっている。彼女はリフレッシュしたかったのか車の外に出ていてそこに巻き込まれていた。あたしは保護者失格だ。
―5―
不幸中の幸いだなんて慰めにならない。こん睡状態に陥り、さらに内臓の移植をしなければ助からないとも言われている。つまりゆっくりとこの子は静かに死んでいく。たぶんこれでいいのかもしれない。散々泣き喚いた後に疲れて寝てしまったせいか今はとても怖いくらいに冷静だ。なにもかも断捨離したような気分でこの子に対しての愛情や独占欲も今や遠く離れている。
移植出来る臓器が無いし付けることの出来る医者すら居ない病院に似合う粗末なベッドと汚い患者部屋で童話のお姫様のように眠っているリーシアを静かに眺めていたその時に、見たことがある顔が隣から挨拶してきた。いつも護衛任務で依頼してくるアントンエレクトロニクスのお偉いさんだ。前回の難度の高い救出任務のお礼をしたいとのことでここまではるばるやってきたらしい。それはどうも手間をかけましたね。とっとと帰れ。空気を読めねぇのか。
そう追い払いたかったがどうやらこの子をどうにか助けられると言い放ってきた。臓器を提供してくれるのかと思いようやく緊張から解き放たれ今までの欲が戻ってきて胸の鼓動が落ち着きをはじめそうな時にあまりにも予想の斜め上の提案を持ってきやがった。
脳を試作バイオコンピューターに移植。この会社が始めた独自の開発らしくその被験者を探していたようだ。ふざけんなと怒号を上げる前にこれを提案してきた野郎の鼻っ面を拳の形が残るくらいに一発殴った。彼らは移植するための臓器を買ってくれるつもりも提供の気もない。つまりこういうこと。最悪は人間の尊厳を抱けなくなる心を持った機械になるか珍しくもないアンダーファベーラの死体の一つになるかだ。
リーシアに残された時間はもって数時間。ここで決断しろとのことだ。彼女の寝顔を見てこう思っていた。
心を持っていても人としての尊厳を保てなければ人でなくなる。それに機械としての身体をこの子の考えを挟まず勝手に選ぶのならこのまま逝かせてあげて。
だと良かったのにアタシは「一人にしないで。アタシの身体を満たさなくていいから傍にいて」と不覚にありのまま想った。リーシアの身体や心を考えたわけでも独占欲からでもなくリーシアにアタシを守って欲しいという情けない願いのために。
―6―
これで何度目の面会かな。なにもかもを恐れながらアントンエレクトロニクスの研究所に訪問していた。彼女の調整が終わるまでアタシは近くの高級ホテルに住んでいる。面会以外の日はここで身を滅ぼすように飲酒や喫煙をして貪るようにセックスをしている。
こんな無機質な日常にも理由が分からない恐怖感を常時抱いている。それでもリーシアの下へ訪れるときは身だしなみを調えその数日前はなるべく身体を整えようと運動もする。その日暮らしってやつだ。
アンダーファベーラと比べるなら綺麗か臭いが蔓延してるかの違いである無機質な空間に窓越しからはMCTの製造風景が見え、次には機械の頭脳部分を開発しているであろう職員がキーボードをタイピングしていたり一つに集合してどのように動かすかの話し合いをしておりアタシからすればなにかジャングルにすむ先住民を見ているような気分だ。そんな世界にリーシアを預けていたら本当に何もかも変わってしまいアタシから離れていくような恐れが身の回りを漂う。
そんな異質な風景をいくつも越えて彼女の居るハンガーに。もっと異質な光景を再び見ることになる。人の高さほどあるコンピューターがいくつも立って、アタシが提供したMCTにはMCTの戦闘機動以上の高度な計算と複雑な動きの調整のためにいくつも繋がっているケーブル。そして目の前には何度見ても慣れないリーシアの心の容器を遠隔で移してくれるラップトップとスピーカーが机の上に飲み物とか計算やメモの為のノートと筆記用具やタブレットと同じように置いてある。彼らの仕事の中に彼女が並んでいた。
アタシはいつものように調子はどうだとかなんたらかんたらと並べ立てて日常の会話を成り立たせようとしている。肝心のリーシアと来たらなんてこともない調子でいつものように調子のいい、笑顔が見えそうな声でアタシと話してくれている。無理をして笑顔を作ってるアタシに比べてなんでそこまで強くなれるの。
初めて出会った時からそうだ。アタシが強引に迫ろうとした直後でも吐いているアタシを介抱したり、厳しく鍛えていても弱音は吐かなかったし、アタシが普段どおりだらしなくても叱ってくれる。なにより親戚に預けられより良い場所で暮らせると言われても自分は死んだことにしてくれと心から強くお願いされた。
彼女からしたら身体なんて別にどうでもいいらしい。大切なのは心。むしろ身体がここまで逞しくなったことは守れるものが増えて嬉しいんだそうだ。アタシからしたらそんな道理と彼女の心の頑丈さが馬鹿げている。ようやく頑丈な心が鉄の身体によってマッチしたかのような狂った結果。アタシとは正反対だ。アタシがもし彼女のこの頑丈な心をベコベコに出来たり汚すことが出来たらどれだけ恍惚となれるんだろ。
会話はアタシたち以外聞こえないから本音を打ち明けてもいいって言っても本当になんてことのない調子でアタシとまた一緒に暮らせるのが待ちきれない、今度はアタシの力に慣れるのが嬉しいだの。そういう明るいところをますます汚したい。アタシと同じところまで一度墜ちてきてよ。
―7―
・・・・・・・・・・・・・
「リーシア……リーシア、お願いだからこっちに来てよ……ねぇ……お願い!!」
《あーはいはい。わーかってますから。ここに居ますよ、うん?》
どれくらい寝てた?まるで3年を暮らしていたような感覚だ。でも運転席で眠ってた割りに身体が痛くないしなぜかリーシアは貨物コンテナから出てるしタバコの吸殻は腹に落ちてる。そんな長くは経ってないらしい。
《こんなタバコの吸い方してたら火傷しますよ?本当にタバコやめるつもりないのならせめて安全に吸ってくださいよ》
「んぁ~?そんな親切なこと言ってくれるのならまず修理費を減らしてから言ってね」
それとこれは話が違うと思うけどまず冗談を返さなければならない。実際、毎日彼女には注意されたら冗談で返すし。
さぁ、ウチに戻って直されたいんならコンテナに戻ってと言いながらトラックのエンジンを点けた。発進する前に賞金が振り込まれたかを確認し、ちゃんとあるのでようやく心置きなく帰れる。道にのったらいつも通り周りを見ながら彼女と会話を交えて車を走らせるだけ。他愛ないそんな日常を毎度のこと壊すのがこの街だ。トラウマにはなってないが彼女と離れていたらと落ち着きがなくなる爆発音と銃撃。今走っている道路の近くどころか真ん前だ。目の前にはMCT4機が警察署を襲撃している。スピーカーから聞こえる襲撃者の話を聞くに仲間の報復だそうだ。
はた迷惑な話ではあるが気持ちはわかる。でも迂回しようにも車と車で道が詰まりどうにも出来ず面倒臭さからハンドルに身を押し付ける。しばらくすると聞こえてきたのはヘリのローター音だが民間のそれとは違う。そもそもこの街に輸送ヘリや民間のヘリは飛べないはず。飛べるのは戦闘ヘリだけだ。
下手くそなパイロットのせいで流れ弾による死人が目の前に出た。行儀良く道を封鎖していた武装組織の人間はともかく、車に乗っていたであろう民間人まで。リーシアが身体を失ったのも似たような状況だがそれに遭遇したからといって身体が固まるわけでもない。寧ろするべき行動に移ったアタシたちだ。
試合の直後、なにがあってもいい様にリーシアの身体には応急のリペアを済ませていたので速やかにスタンバイモードからの戦闘モードに移せた。アタシはこの状況を伝え彼女はシールドを外しブレードを取る。スナイパーキャノンはそのまま。
アタシは席の後ろからグレネードランチャーを銃口真下にアタッチした対MCT弾をマガジンに抱えたライフル、予備マガジンを携えたチョッキを速やかに装備し席の後ろに置いた粘着爆弾を速やかに引き出しチョッキのポーチに入れる。ポッケに拳銃があることを確認したら即外に出た。まず、リーシアに武装組織を狙えるポジションまで運んでもらいポジションに着いたらはまずグレネードで武装組織のMCTの脚部間接部を狙う。敵はあいつら4機だけだ。警察に喧嘩を売っても意味は無い。売られたら買うが。
当てたMCTは脚がヨロついて怯んでいる。報復だの言ってた割に整備を怠っていたな。近づいて対MCT弾で敵機の脚部ブースター内部に損傷を与え飛ばせないようにする。、その隙を突いてリーシアがやつの脚を切り裂き、仰向けになった機体のコクピットにライフルで風穴をあけた。今日の試合で彼女がしたことだ。隙を狙われたが即座にブーストを吹かして急上昇。アタシは切りかかろうとしてきた野郎の機体頭部に向けて銃撃を行う。カメラアイに損傷を与えられたかな。
アタシに気づいたようだ。襲撃から逃げた際に捨てられたであろう誰かのバイクを使って前にジグザグと走るアタシを構っている場合かよアイツ。リーシアが奴の直上からライフルを浴びせていき最終的に踏み潰した。コクピットから脱出する奴を狙って奴の胴体を撃ちぬく。実質的にHEAT弾なので胴体を狙ったのは流石に謝りたい。せめて頭なら一瞬の痛みなんだけどね。
「リーシア!ナイスアシスト!残り2つだよ」
《ナイスキルじゃなくて!?》
残りの2機は警察のMCTと戦ってるが2対1でおまけに警察のは片腕が取れてる。巻き添えによって屑になりうる人間をいっぱい殺した戦果をあげた戦闘ヘリはいつの間にか撃ち落とされていた。再びリーシアに運んでもらい今度はあたしが敵機のコクピットに登ってそのままパイロットを殺す。市街地に近い分その方が被害は小さい。成功すればだけど。
死に急ぐような戦術なのはいつもと変わらないけどリーシアが戦場に出っ張ってきてから増えてきたな。それだけアタシは自暴自棄になっているのかそれともあの子に死ぬところを見て欲しいのか?でも彼女は愚直に信じている。アタシが死なずにこの無茶を成功させていくから手伝ってくれている。もはやなにがなんだか訳が分からなくなってきてる。
リーシアに目標のMCTまで運んでもらい脳髄あたりに載ることが出来た。あの子はそのまま警察の機体の援護へ。関節や装甲に挟まれないようにパルクールに使うようなボルダリングをしてるがこれがいつもやっても心理的に慣れない。あの子の心配を出来る程度には慣れたけど。防弾チョッキのポーチに入れてる粘着爆弾を手に、ライフルを背に抱えてようやく胴体前面部に。
「もしここで死んだら、彼女に死ぬところを見てもらえてるのかな」
はいはい馬鹿な事を言わない。どうせ今は激しく動いているんだから見えない。なんて考えてたらいつの間にかコクピットハッチに爆弾をセット出来ており巻き込まれぬよう既に横へ退避している。起爆後、穴の開いたコクピットに乗り込みパイロットを射殺。報復なんかしなければもっとマシに死ねたのに。
「リーシア!今行くよ!」
このオンボロでならオンボロを相手に出来るしなにより隣にはアタシの自慢のリーシアが付いてる。警察?知らないよ。
リーシアは射撃を一発放った直後アタシを飛び越すように切りかかる、アタシはマシンガンで徐々に近づきブーストと質量を活かしたショルダータックルをこのオンボロで行う。シートベルトしたよね?
相手は怯んで後ずさり、そしてリーシアのブレードでとどめを刺す。胴体は見るも生々しくコクピットを裂いていた。
―8―
警察には事情聴取を取られた。当然だ、自警団気取りで武装組織を相手にMCTを駆ればそりゃ色々聞かれる。あとは救急車で駆けつけた医者に怪我を見てもらったり。もう他人の世界はうんざり。リーシアはどうしてるのか気になった。
「どうしたの、上の空に見えるけど」
《シンシアさんまた無茶をしてたから、やっぱり私だけが頑張るべきなのかな……なんて》
「ちょっと、それってアタシじゃあんたに不釣合いってこと!?」
《タバコ吸う以上に怖いことしてるじゃないですか!》
ぐうの音も出ない。でもこれくらいならまだしも前なんて投げ飛ばしてもらって人質の集まってる場に突入したんだし今更なんじゃないの。
《アドレナリン中毒なんですか?!生身の人間なんだから無茶なさらないでくださいよ!》
「だいじょーぶだいじょぶ。死ぬかもって時に限って死なないんだからアタシ」
何度も死にたいって思えることはあったけどね。でもその度に生きていけたしアンタが居ない時は思わないようにしてるから。死ぬところを見て欲しいからね。
リーシア、頑丈なアンタの身体に釣り合うようなその心をめちゃくちゃにしたい或いはされたいって思うときはあるのは変わらないし、アンタがいつかその気になったら受け入れてくれるって信じてるよ。身体がアタシと同じ生身じゃない分どうなるかも面白そう。
《タバコやめないなら本当に殺しますよ?ブレードで肺を突き刺して》
「ブレードに煙来るまで吸ってやる~」
《じゃあ、あなたじゃなくて周りを皆殺しは?》
「最高の光景じゃん」
《タバコ捨てないとアナタ巻き添えに今すぐ自爆しますよ》
「肺がんにならずに死んだ実績持つけど?」
《じゃあアタシだけ死にます。お別れです》
「わかったわかった。折れたよ」
Like an Iron of rusty and sharp Forest4ta @mori_4chan
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