第3話 ああ、それ言っちゃうんですね
孫vs祖母は、その孫の親友のことを気にせずに続いていく。
「かぼちゃを克服しようと思って、何が悪いのよっ!」
「悪いとは言っていないだろう! ただ、もっと他にやることがあるって話さ!」
「やることって何よ!」
「あるだろう、魔法の勉強や、呪文の練習が!」
「そんなのやったって、意味ないじゃない!」
「何でそんなことを言うんだい!」
……どうしよう……。
言い争いを止めたいと思いつつも、その勢いに引っ込んでしまう、いなばさん。
「だってそういう設定でしょ、私!」
「設定なんて、関係あるかい!」
……ん?
「呪文の練習したって、私は滑舌が悪いって設定なんだから!」
「だからこそ、がんばるんだろう!」
んん?
「でも、そう簡単にうまくいかない展開になるんでしょ? 私が滑舌悪くなったのには、シリアスな理由があるんだから! 死にそうなおばあちゃんのために、私が長生きさせる魔法の呪文を唱えようとしたら、直前におばあちゃんが魔法で私の滑舌を悪くして、失敗させたっていう……」
「あんたが唱えようとした呪文にはペナルティがあったんだろ! あたしが長生きする代わりに、あんたが命を落とすっていう……」
「知ってる! で、結局おばあちゃんは魔法の神様にもう少し寿命を長くしてもらって、私は滑舌が悪いままで終わり!」
「それが、神様が与えた、あんたへのペナルティなんだよ。命がなくなるよりは、少し人生の課題が増えることの方がマシだ」
「ああ~っ! こんな流れになってしまったことを恨むわ!」
「ちょ、ちょっと良いですか?」
いなばさんは大きな声を出した。
「さっきから設定とか、何だかただ事ではないシリアスなお話とか、一体何なのでしょうか……?」
いなばさんの言葉にハッとしてグッと固まった孫と祖母。しばらく静けさが漂ったが、やがてその沈黙を破ったのは、祖母の方であった。
「……実はねぇ、いなばさん」
「は、はいっ!」
いなばさんは焦って返事をした。
「あたしたちはねぇ、一度かかれたんだよ」
「一度かかれた……?」
「そう、あたしたちは以前、小説の登場人物になったことがあるのさ」
「ええーっ!」
今までで一番の驚きの中、いなばさんは「ああ、だから細かい設定とか存在しているのか!」とスッキリしていた。
「あれ?」
また新たなる疑問が生じたようだ。
「でも……、それじゃあ何でまだ、この町に住んでいるんですか……?」
「それはね、作者の実力不足と、その作者の作り直そうという意思が理由よ」
さっきまでの争いとは180度違って、さっちゃんは冷静に説明した。
ドリコさんは再び、まくし立てる。
「情けないったらありゃしないよ! 大体ねぇサトミ。あんたがもう少し『自分には大変な欠点があるけど、そんなのにめげずにがんばるわっ☆』というような姿を見せていれば、結構良いセンいっていただろうに……」
「えー、私がそういうキャラじゃないのは、元はといえば作者の責にn」
「ストーップ!」
いなばさんが、さっちゃんの言葉を遮った。
「……何となく……これ以上は、やめた方が良い気がして……」
「……はい」
むなしくなって(いや、もうだいぶ前からなっていた)、孫も祖母も素直に、そして力なく返事をした。
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