第2話 憧れに近づくこと

 ただ今いなばさんは、さっちゃん宅でティータイム中である。


「いなばさんは、憧れの方みたいになるために、何か心掛けていることって、ある?」


 さっちゃんに問われた、いなばさん。答えはすぐに出た。


「一日一善! 親切心を忘れないことかな」

「すごいね~。……でも、いなばさんは真面目な子だから、できてもおかしくないかぁ」

「そんなことないよ~」

「それに比べて私なんか……。はぁ~……」


 誉められて満更でもない様子のいなばさんと、それとは真逆で元気がなくなっている、さっちゃん。


「さっちゃん、どうしたの?」

「……私、頑張っていることがあるんだけど、なかなかうまくいかなくって……」

「え、それって何?」

「……かぼちゃ……」

「へ?」


 さっちゃんの小声に、いなばさんは首を傾げた。


「かぼちゃが! 全っ然! 食べられないのぉ~っ!」

「わぁっ!」


 絶叫するさっちゃんに、いなばさんは驚いて、ひっくり返ってしまった。


「あ、ごめんね!」

「いたた……。いいよ、大丈夫」


 いなばさんは、よっこいしょと立ち直り、謝ったさっちゃんに質問した。


「さっちゃん、かぼちゃが食べられないことが、どうかしたの? それが憧れの方に近づくことと、何か関係しているの?」

「だって……」


 ぐずっぐずっ、と泣きべそをかく、さっちゃん。いなばさんは心配そうに、親友の顔を見つめる。すると、


「いつまでも、くだらないことで泣いているんじゃないよ」


 何だか厳しい声が耳に入ってきた。ハッとした約二名、その音源へと視線を向ける。


「おばあちゃん!」


 彼女たちの目の前に姿を現したのは、さっちゃんの祖母、ドリコさんであった。


「さっちゃんのおばあちゃん、こんにちは」

「はい、こんにちは。いなばさん」


 いなばさんにあいさつを返すドリコさんは、それはそれは優しい老婆に見えた。しかし、孫を前にすると、


「サトミ! あんたにはもっと、やるべきことがあるはずだよ!」

「ひぃっ!」


 鬼のように厳しい祖母へと変化するのであった。この状態の中、いなばさんは恐る恐る質問した。


「あの~。さっちゃんが、かぼちゃにこだわる理由って……?」

「本当に、くっだらないことだよ」


 どうやら、回答者はドリコさんが務めるようだ。


「この子はねぇ、『シンデレラ』のイメージが強いってだけで、苦手なかぼちゃを食べられるようになろうとしてんだよ。何度もかぼちゃにチャレンジしているけど、嫌いになってからは、口に入れられたことが一度もない! その残りを処理するのは、もちろんあたしさ。小さいころに、かぼちゃの煮つけを喉に詰まらせたトラウマが、いつまで経っても離れないんだよ。まったく、好き嫌いの一つや二つあったって死ぬわけじゃないんだから、そんなことにいちいち頑固になる必要ないんだよ!」


 まくし立てるドリコさんの横で、さっちゃんは今もメソメソしている。いなばさんはポカーンとしている。それは、さっちゃんのかぼちゃの件についてではなく、ドリコさんの勢いについてだ。

 その勢いに圧倒されるだけではなかった。孫についてこんなにも熱く語るドリコさんの様子を見て、いなばさんは彼女の孫思いな部分に、密かにほっこりしていたのであった。

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