第34話 日常……
リーデッジ王国から帰還して、2週間が経った。
順調に交渉は進み、つい先日、リーデッジ王国は陛下の名で、連合および統一政府への参加を表明した。この役目が果たせたことで、思わぬボーナスが出た。リーデッジ王国の交渉成立に対する貢献度に応じて、臨時収入が各人に割り振られる。
で、一番貢献したのは、もちろんセラフィーナさんだ。だから、それ相応の金額が振り込まれた。
「か、艦長殿!私の電子マネー講座に突然、とんでもないお金が入ったんですけど!な、何かの間違いじゃないですか!?」
僕でもびっくりな金額だからな。驚くのも無理はない。
「いや、間違いではない。リーデッジ王国を同盟交渉に組み入れたことへの貢献を評してのお金だ。問題ない。」
「そ、そうなのでありますか!?でも、どうしよう……こんなにお金があっても……ハンバーガーが何個食べられるのかな……」
もらったお金をハンバーガー換算するあたりが、もはや庶民的過ぎる。本当にこいつ、元王族なのか?
しかしあの時の振る舞いは、まさに王族にふさわしいものだった。こいつ案外、やればできる娘じゃないのか?
それに次ぐ金額をもらったのは僕だ。セラフィーナさんに次ぐ金額が、昨日振り込まれていた。
もっともこれは、僕というよりはイーリスに対して出された金額と言うべきか。さらにエックハルト大尉が続くが、これもパウラさんに対する貢献へのお金だろう。
要するに、イリジアス王国の貴族に対して支払われたボーナスということになる。こんなところで、イリジアス王国の名が貢献するとは思わなかった。
「おい、ランドルフ!せっかく入ったボーナスだ!何か食うぞ!」
相変わらず、食い物にうるさいイーリスだ。
「いいけど、何を食べるのさ。」
「そうだな……ステーキはもういい加減飽きたし、スイーツも食べ尽くした感があるな……うーん、何か開拓していない食べ物は、ないだろうか?」
珍しくイーリスが迷っている。別に食い物じゃなくてもいいんだけどなぁ。
が、ふと僕は思い出す。
「……それじゃあ、『鉄板焼き』に行ってみるか。」
「なんだ、その鉄板焼きとは?鉄板を食うのか?」
「そんなわけないだろう……だいたい、食えないじゃないか、鉄板なんて。うーん、なんていうか……まあ、行けばわかるよ。」
などと誘った僕自身、鉄板焼きは未体験だ。
だが、佐官クラスの人で「鉄板焼き」を経験している人は多い。宇宙港に隣接するホテルにその鉄板焼きの店があって、皆、一様にその料理に感動しているようだった。未体験なのは、僕ぐらいのものだ。
というわけで、せっかくもらった臨時収入だし、僕とイーリスはその鉄板焼きの店に行ってみることにした。
場所は、宇宙港に隣接するホテルの中。50階建てのそのホテルの32階に、その鉄板焼きの店はあった。
窓の外には、王都の夜景が広がる。電化が進み、中央部はまるで星空のように無数の明かりが光る。
そんな夜景を眺めながら、僕らはその鉄板焼きというものを初めて体験する。
想像以上だった。
見るからに上質な、分厚い肉。それを目の前でナイフだけで器用にさばき、手際よく焼かれていく。
そこに、ワインをかける。ワインに含まれるアルコールが発火し、一瞬、紫の炎が現れる。
仕上げには上質な香辛料をかけ、小分けにして皿に乗せ、僕とイーリスの前に差し出される。
「な、なんだ、今のは……まるで魔法だな。」
本物の
鉄板の上で、ナイフやヘラだけで器用に食材を操り作り出される料理。それを堪能する僕とイーリス。
以前はあれだけ海産物が苦手だったというイーリスが、この料理を絶賛する。
「美味い!エビやタコ、それに貝が、こんなに美味いものだったとは……」
その食材には、元イリジアス王国から取り寄せられたものも多い。だが、かつての祖国で味わったものとはまるで違う次元の味に、イーリスは大満足のようだ。
おまけに、その鉄板での調理風景がイーリスの興味をそそる。器用にナイフやヘラを操り、肉や野菜、海産物をさばく光景は、イーリスにとっては、いや僕にとっても、不思議でならない。イーリスは「魔法」と称したが、あながち言い過ぎではない。
王都産の8年物の赤ワインとともに、それらの料理を堪能する。セントバリ王国南部で採れたブドウの酸味と、ほのかな樽の香りが混じったその香りを堪能しながら、
そんな夢のような食事を堪能したのち、僕らはその店を後にする。
「うーん、なかなかいい店だったぞ、ランドルフよ。またボーナスをもらったら、来ることにしよう!」
すっかり酔っ払ったイーリスは、僕の腕にしがみついたまま、今日の料理を思い出しながら歩いている。というかイーリスよ。ちょっとひっつぎ過ぎではないのか?
僕もすっかり酔ってしまった。酔い覚まし薬を飲んだが、まだ効いていない。酔っ払い同士しがみついて歩いてて、不安定極まりない。
宇宙港のホテルから、歩いて5分ほどのところにある我が家なのに、なかなかたどりつかない。気づいたら、ビルとビルの間の路地に迷い込んでしまった。
いかんいかん、これは多分、逆方向に歩いているぞ。僕は酔っ払って上機嫌のイーリスをたぐり寄せて、なんとか家の方に向かう。
と、その時だった。
僕の耳の奥で、ピーンという、あのいつもの音が鳴り響いた。
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