三百四話 光4

カクバの攻撃によって

腹にぽっかりと穴が空いた

バーゼンは、大量の血を吐きながら

後ろに倒れていく。



「......」



それをタチアナは無表情で

受け止めた。



なんてことない。

ただ、人が死ぬだけ。

魔王にとってそんなことは

些細なことに過ぎない。



なのに何故かその時、タチアナには

経験したことの無い感情が

こみ上げていた。


苦しそうに呼吸をするバーゼンの

表情を見ると、その感情はますます

高まってくる。



なんだこれは!?

何故我はこんなにも動揺している!?




タチアナ──いや、タチアナの体を

奪った魔王はわけのわらぬ感情に

支配されていく。



「......兄......様......」



そして、タチアナはそうポツリと

呟く。



「......っ! やはり......まだ完全に

奴の体は支配できていなかったか......」



すると、何と先程まで倒れていた

はずの魔王の体が突如として

動き出した。



カクバは今の現状が理解できずに

ただ呆然としていた。


その時!!



「キャアアアアアッ!!!!!!!」



タチアナは耳をつんざくような悲鳴を

上げたのだった。











ここはどこだ。

私は誰だ。


出口の無い暗闇の中に私は

閉じ込められていた。


今までの記憶など一切無く、

私はただ光が見えるまで走り

続ける。


助けてくれ......誰か......


やがて私は弱音を吐き始める。


ただ誰かに会いたいという一心で。

このまま消えたくないという思いで。

私は走り続ける。


その時、何かが私の体に触れた。


その感触はやけに懐かしく、

そして暖かかった。


その温もりを私は前にも感じた気がした。

その時も私は同じように暗闇の

中を走り続けていた気がする。

その時の私を助けてくれた物と、

今私に触れているそれが同一である

ことがわかると、私はとある名前を

口にしていた。



「......兄......様......」



と。



すると、私を閉じ込めていた暗闇が

突如として消え去り、私は私に

戻った。

だが、私を待ち受けていた現実は......

わたしが助けを求めた兄様は......

私の胸の中で今にも息絶えそうだった。

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