百九十五話 再開を夢見て9

「てっきり俺はタチアナと一緒に

いるのかと思っていましたが、

長老さんの姿が見えなかったので。」



「......」



「そんな顔をするなら、会いに

行けばいいでしょう。」



隼人の言葉に長老は何も返さない。



「勝手なことを......」



「勝手......まぁ、あなたと人魚姫が

どんな関係だったのかすら知らない

俺が、こんなことを言うのは勝手

ですよね。」



長老はそれを聞いて、隼人が

諦めたかと思ったが



「でも」



と更に続けて言った。



「人魚姫のあんな顔を

見たら、そんな顔を

させるあなたに会ってほしいん

ですよ。ナギさん。

あなたからしてみたら、

百年ぶりなんでしょう?

そんなに悲しい顔をするくらい

あなたも人魚姫と会いたかった

のではないんで──」



「もういいんじゃ!」



するといきなり、長老は

声を荒立てる。



「もういいんじゃよ。隼人君。

ありがとう、お主のその

気持ちだけで十分じゃ。

わしには......わしには......

あの人を守れなかったこんな

老いぼれにはもう会う資格なんて

ないんじゃよ。」



「......ナギさん。どうしてそこまで......」



「......少し、昔話をしようかの......

聞いてくれ。とある美しい人魚姫

と、何も守れなかった無力な人間の

話を......」















今から百年くらい前、エレディア村に

いじめられていた弱い少年がいた。

彼は泣き虫で臆病者で、いつも人の

言いなりだった。

その日も、人の雑用を押し付けられ、

とある場所にお使いを頼まれていた。

その道中で彼はあの人に出会った。

彼はそのあまりの美しさに一目惚れ

をしてしまった。

彼女はそんな幼い彼に気さくに

接してくれた。

自分が人魚姫という神にも等しい

身でありながら、いじめられっ子で

情けなかった少年に対して。

少年はそれがうれしかった。

初めてだったのだ。自分に

こんなにも優しく接してくれる

ことが。

それから、彼は彼女と接して

いくうちにこう思うように

なった。



もしも、この人に危機が訪れたときは

僕が全力で守ってみせる。

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