百九十四話 再開を夢見て8

崖の上で、人魚姫が争いを

止めているのを遠くで見ているものが

ヨーテル達以外にもう一人いた。

その者はまるでもうそこには

行けないかのような、悲しい目で

人魚姫を見ている。



「昔と変わらず......お美しい......」



その者がそう呟いたそのとき。



「いた。やっと見つけましたよ。」



その者ははっと声のした方を

振りかえる。



「どうしました? こんなところ

に一人で。」



「お、お主は......」



「そんな寂しそうな顔して

ないで。長老さん。」



後ろにいたのは、異世界から

来たという転生者だった。



「おお、隼人君か。無事、

人魚姫を目覚めさせることができ

たようじゃな。しかし、何故

こんなところに......」



「いや、ちょっとサッちゃん隊長に

あなたの居場所を聞きましてね。

一人でふらっとこちらの方に

行ったと。」



「......何かわしに用かね?」



「用というか......まあ、少し

あなたに聞きたいことが

ありまして。」



「ほう......転生者のお主が一体何を

わしに聞きたいのかな?」



「......どうして会いに行ってあげな

いんですか? ナギさん。」



冷たい風が隼人と長老の

間を吹き抜ける。



「......お主......なぜそれを──」



「そりゃわかりますよ。

あなたが頼んだ言伝を

聞いた時の人魚姫の反応を

見れば、あなたと人魚姫が

親密な関係だったということ

ぐらい。

まあ、あなたがナギさん

なのではないかというのは、

ただの俺の憶測でしかなかったん

ですけど。」



「......」



「小さな海は完成しましたが、

約束を果たせそうになく

申し訳ない。これ、どういう

意味なんです?」



隼人は長老に頼まれた言伝を

言った。



「......言ったじゃろう。

あまり詮索はしないでくれと。

お主には関係のないことじゃ。」



「......会いに行かなくて

いいんですか?」



「......」



「ここに来る前に、人魚姫は

俺に何度も聞きましたよ。

本当にその老人は今、陸に

いるのかと。」



「......それでお主はわざわざ

わしのところまで来たのか。」



「えぇ、まあ。」

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