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「メガネ君。止めて……」

体育館倉庫で襲われたのを助けてもらってから数日経った。

 正気を失った彼は怖かった。でも、人に助けられるのはあんなに嬉しいモノだとわかった。そんなふうに感じていた私も正気の沙汰ではなかったのかもしれない。

 それにしても彼のズボンに嘔吐した時は恥ずかしかった。それに対してただ、彼は泣いて抱きしめてくれた。そして彼は数日間学校にもジムにも姿を現さなくなった。

 彼のいない世界は寂しい。

 学校の帰り、四人で一緒に帰るのもついこの間まで当たり前だったのに、一人いないことが違和感がありすぎた。

「どうしたんだろうね」

 森が口を開く。

「ごめん。私のせいだ。私が襲われてしまったから」

 それしか考えられなかった。勝手に来なくなった日から責任を感じている。

「黒島のせいじゃないよ。とりあえず、元気であればいいけどね」

 土屋がそっと呟くように励ましてくれる。

「ねえ。さっき教室で聞いたんだけど」

 と、忘れ物をして教室へ戻っていた浜辺が駆け足で私たちの前へ走ってくる。

「クラスの子がメガネ君がガラの悪い生徒と体育館裏に行ったのを見たって」

「え?」

 嫌な予感しかしなかった。

 私は駆けだしていた。その後を三人も追いかけてくる。

 体育館裏の倉庫に付き、そっと倉庫の鉄のドアを開ける。

 そこには棒を持った男四人と、頭から血を流している彼がいた。床には彼のものと思われる血が所々飛び散っている。

 状況はすぐに把握できた。

 馬鹿。どうして逃げないんだ。どうして戦わないんだ。死んじゃうよ。

 考える余地はなかった。気づいた時には男四人に殴りかかっていた。

 せっかく一緒になれたのに、馬鹿。こんなのってないよ。

 無我夢中で動きながら泣きそうになっていた。

 一体、私がどんな気持ちでいたのかわかる? もういい加減に思い出してよ。

 何を思い出してほしいのかはわからない。一つ言えることは彼の今の行動は私たちが望んでいるものではないということだ。

 ウ! オエ!

 倒れたところを男の一人にサッカーボ―ルのようにお腹を蹴られた。また熱い物が喉の奥から逆流しそうになる。それを必死でこらえながら蹴り続ける男の足にしがみつく。

 守らないと。私が守らないと。

 守る?

 女である私が守れるはずないのにそんなことを思いながら必死で戦う。

 もう失いたくないから。

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