15

 幸せってなんだろうと考えた時。

 それはくだらなくてありきたりで尊いものなのかもしれない。

 そんなくらだらないモノを受け取り、これを他の奴にもやってみたいという衝動に駆られた。そしてちょうど、そのターゲットとしてふさわしい相手を見つける。

「なあ。メガネちゃん、どんな反応するかなあ」

 俺が持っている袋を見つめながら浜屋がニタつく。

「わからん。全くわからん」

 数日前、俺と幼馴染四人は靴専門店で誕生日プレゼントとして黒いスニーカーを買った。そして今日、俺たちは俺の時と同じようにサプライズをしようと彼女を待っている。

「にしても、お前の誕生日の二週間後だったとはな。運命感じちゃうな」

 浜屋が茶化す。

「あんな奴が運命の奴なんて最悪じゃねえか。ふざけんなよ」

 そんな浜屋を睨みつける。

「でも、誕生日を祝ってやるんだ?」

 その林の一言に言葉が詰まる。

「うるせえな。いいネタになるかなと思ったんっだよ」

「それに最近会っていないしな。きっかけがないとこのままずっと合わなそうな気がするし」

 土井の言った通り、襲われなくなってから彼女と会うことは殆どなくなった。俺が前会ったのは数週間前あの血を流して歩いていた時以来だろうか。

「別に俺は会わなくてもいいけどな」

 土井が付け足す。それに同意するように他の二人も頷く。

「俺はあいつを仲間だと思ったことない」

 真顔でさらに土井が付け足す。他の二人も一気にさっきまでの表情が暗くなる。

「そうだな」

「お前がやりたいと言ったからやったけど、こんなことするのはあまり気が進まなかった」

 林がため息交じりに言う。

「まあ、助けてもらったしいいじゃねえか。ネタだよ。ネタ」

「お前は助けてもらったよな」

 土井が見下すように吐き捨てる。

「なんだよ!!」

 反論できない。その通りだったからだ。どうしてこんなことをしようとしているのか、思いついたのか、やるならもっと面白いこともあるはずなのに。

 だからその態度に俺はキレることしかできなかった。

 その時、俺たちの前に彼女が来る。

「お、おおう」

 決まづい雰囲気が漂う中、彼女をとりあえず横に座らせた。

「げ、元気だったか?」

「うん」

 俺が訊くと彼女は顔を観ずに答える。

「何か頼んでいい?」

 彼女がメニューボードを見てすかさず店員を呼んで食事を頼む。

 数分で彼女が頼んだ食事が運ばれ、それを黙って食べ始める。その姿を俺たちは黙って見つめている。

「何?」

「え?」

「どうして呼んだの?」

「それは、、、」

 何も言えない。

「黒木がお前に用があるってさ」

「土井、お前」

 嫌味たらしい土井の言い方にまたキレそうになる。

「いや、どうしているかなって」

「どうしているかって?」

「それはあれだよ。な」

 周りに助けを求めたが誰の俺と目を合わせない。

「おい、お前ら」

「私、用がないならこれ食べたら帰るけど」

「おい、ちょっと前てよ」

 と、辺りが暗くなる。始まった。

 俺時と同じようにハッピーバースデーの曲が流れて店員がケーキを持ってくる。

「お誕生日おめでとうございます」

 従業員がケーキを彼女の前に置いて去っていく。再び店内が明るくなる。

「何これ」

 彼女は目の前に置かれたケーキを直視している。

「お前、今日誕生だろ? で、これは俺たちから」

 スニーカーの入った袋を渡す。

「何これ」

渡されて彼女は袋の中身を確認する。表情は変わらなず無表情だ。

「お前が何好きかわからなかったから、ボロいダサい靴履いていたから買ってやったんだよ」

 袋を閉じて彼女はしばし無言になった。

「おい、何か言えよ」

 しびれを切らした俺が乱暴に舌打ちする。徐々に彼女の反応が乏しいことに、つまらないことをしたと少し苛立ってきた。

「どうしてよ」

「どうしてこんなことするの?」

 彼女の目は左右に泳いで動揺していた。

「どうしてって、助けてもらったし、誕生日だし」

 俺がそれをしてもらって嬉しかったからと言おうとしたが途中で止めた。

「また期待しちゃう」

 小さくつぶやくと、彼女の目から涙が流れていた。

「思い出しちゃう。また期待しちゃって、傷つくのが嫌だよ」

 幼い子供の様だった。涙声で鼻をすすりながら訴える彼女はいつもの姿ではなかった。

「おい、泣くなよ」

「どうしてそんなにしつこくするの? 誕生日なんて忘れていたのに」

 そして俺の方を睨む。

「でも嬉しい。ホントに嬉しい。だからもうホントに嫌だもう!!」

 わーとその場で泣きじゃくる彼女に俺たちは完全に戸惑う。周りの人たちもそれを見てそわそわし始めている。

「おいおい」

「どうしようか」

「意外すぎる反応だよな」

 とりあえず、ポケットからまたポケットティッシュを取り出して彼女に渡す。

「ありがとう」

 それを受け取り確かにそう彼女が言う。

「ありがとう」

 今度は誰にでも聞こえるような声でしっかりと言う。

「あ、うん」

 どう反応すればよいかわからない。

 ありがとうなんて誰かに言われるのは久しぶりだった。いや、初めてかもしれない。

「何だよその顔」

 とりあえず、鼻水を垂らして泣いている彼女の顔を笑っておいた。

 それにつられて他の三人も爆笑していた。

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