12

まただった。

 学校へ登校した帰り道、あのいじめグループに絡まれている菅谷を目撃した。

「だから、いじっているだけだって!!」

「いや、僕は半田君が蹴られているのを見たよ」

「うるせえな。じゃあお前を蹴ってやるよ!」

 菅谷は後ろから背中を思い切り蹴られ地面に倒れる。

 あいつは何をしたいのだろうか。人助けをして蹴られて何が面白いのか。

 その倒れた彼をグループの男たちが袋叩きで交互に蹴り始める。

「おい」

 見てられなかった。また余計なことをしているとわかっていながら声をかける。

「あ」

 グループの一人が俺に気づく。

「いやあな、別にボコボコにするのはいいんだけどさ。なんていうか」

「あのさ、だったら黒木も放っておいてくれないかな」

「はあ? 何だって?」

 言ってきた男の前にゆっくり歩み寄る。

「だからさ、こいつが悪いんだって。こいつが俺らにいちゃもんつけてくるんだ」

「だな。俺もそう思う。だから、こんな変な奴放っておけばいいと思うんだけど」

「そうだけど、でもまた言ってくるからさ」

 俺は菅谷を見つめる。彼はゆっくりと立ち上がっている所だった。

「なあ、菅谷。こんな無意味なこと止めろよ」

「いや、僕はこの人たちが半田君をいじめなくなるまで止めない」

「だってさ。どうする?」

「だから、俺らはいじめていないっば!!」

 これではらちが明かない。そこで俺はあまり俺らしくない提案をする。

「わかった。じゃあ、そっちの代表と菅谷が今からタイマンして勝った方がそっちの言うことを聞くっていうのはどうだ?」

 タイマンはフェアで好きじゃないが、これで菅谷がボコされれば少しは自分のやっていることに目が覚めるだろうと思った。で、あのグループが倒れている彼にさらに暴行するようならば俺が割って入ればいい。てか、どうしてこんな人の世話を焼くような面倒なことしているのだろう。

「おお、おもしろい。こっちはいいぜ」

「菅谷はどうだ?」

「僕は暴力は嫌いだけど、もし僕が勝ったらいじめをなくしてくれるというなら仕方ないやるよ」

「よし決まりだな」

 お前が勝つのは万に一つなさそうだけどなと160㎝に満たない小柄な身長と華奢な体型を見下ろしながら心の中で呟く。

 いじめグループは予想通り四人の中で一番背が高くて体格のいいデブが選抜された。そして菅谷とそいつのタイマンが始まる。何の戦力もなく仕掛けたのはデブだった。しかし大振りだったのか、小柄で素早い菅谷に簡単に懐を潜るように避けられる。すかさずデブは菅谷に殴りかかる。菅谷は構えていなかった手を上に挙げてファイティングポーズを取る。その瞬間、彼の雰囲気が変わった気がした。

 軽く相手の攻撃をかわしたかと思うと、相手の顔面と腹に複数回パンチを繰り出して相手を地面に倒れさせていた。

 デブは起き上がれずただ身体を痙攣させているだけだった。

 驚いて言葉が出なかった。

「大丈夫? 手加減はしたけど」

 その相手に菅谷は優しく声をかけている。相手は起き上がる様子はまだない。

「でも約束は約束だね。守ってもらうよ」

 と言って彼は他のメンバーと俺とを交互にあの笑顔で見つめる。俺は何も答えられなかった。

 グループは倒れたデブを連れて何も言わず俺たちの前から去って行った。

「良かった。これでいじめなくなるかな?」

 そう言って菅谷は両手を組んで背伸びをする。その姿は普段の彼の姿に戻っている気がした。

「あのさ、お前、何だよ」

「ん? 何だよって?」

「強いのに俺にやられていたのかよ」

「強い? 僕は強くなんかないよ」

「いや、強いだろ? そうやって俺のこと馬鹿にしていたんだなやっぱり」

「馬鹿になんかしていないよ」

「じゃあ、どうしてやられていんだよ。やりかえせよ」

 急に自分が情けなくなっていた。弱いと思っていじめていた奴が本当は俺よりもはるかに強くてわざとやられていた。遊ばれていたのは俺の方だった。

「僕は暴力が嫌いなんだ」

「嫌いってさ、お前、嫌じゃないのかよ。やられていて」

「それは嫌だけど、でも結局、嫌って思うのは自分が嫌って思うからそう思うんだよね」

「はあ? またわけのわからないこと言いやがって」

「そうだね。全部の出来事ってただ起こっているだけってことだよ」

「はあ? わけわかんねえな。まあ、そあれはいいとして、こんなことして意味あるのかよ。だいいち、お前がいじめられっ子をいじめから救ったとして、本人がいないところでこんなことして、突き飛ばされて、お前のやってことなんて気づかないかもしれないんだぞ?」

前回もそうだったが、さっきのグループにいじめらている奴というのは違うクラスの奴で、そいつがいない時に彼は止めるように抗議していた。

「そんなの関係ないよだって、、、」

「自分がしたいからしている。だろ?」

「そう」

「わけわかんねえ」

 感謝もされない、本当に何も返ってこない善意の塊でやるような行為。そんな無意味なことを続けて何になるのか。

「わけわからないかもね。確かに、いじめもただ起きているだけだから、止める必要ないのかもね。でも、人が困っているのを見るとつい助けたくなるんだよね」

「そういうことを言っているんじゃなくて」

 話がかみ合わない。でもどうしてか、この男が少し面白いと思ってきていた。 

 そう。あと彼とまともに会話をしている時はいつも天気は晴天だ。今日も雲一つない。彼を知ると何かある。何か面白いことがあるのかもしれないと感心を持ちはじめていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る