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今、冷静に考えてみて、おかしな行動をしたと思う。どうしてそんな発想になったんだろうかと自分が不思議でならない。さらに、それにあの女が乗ったのか不思議でならない。
ただ、その行動は後悔どころか、正解だったと思わされることになる。
浜屋の言った通り、逃げた俺への怒りを持った奴らが襲いに来たのだ。
そいつらは、俺たちがファミレスを出たときにちょうど団体さんでいらした。
「この前はよくも一人逃げたな」
「誘っておいて、一人だけ逃げるなんてよ!!」
ざっと数えて十五人くらいはいた。中には明らかに成人しているガラの悪そうな奴もいた。
「ちょっと来いよ!」
だが、俺は動じなかった。俺にはこいつがいる。
「いいけど」
そい言って、俺は後ろを振り向く。俺の後ろにはあの女がいる。
「お、お前、どういうことだよ」
「どういうことって、仲間になったんだよ」
細かく言えば用心棒だ。彼女はほぼ毎日俺たちと行動を共にすることになった。ちなみに、彼女の生活を聞くとずっと一人で行動して、それでいて学校にもほぼ行っていないとのことだった。だからと言って、毎日遊ぶこともなくただフラフラと街を歩いて時々チンピラに絡まれると喧嘩をするのだそうだ。
「わけわかんねえよ。お前」
俺だってわけなんかわからない。ただ、自分身を守るということに関してはいてくれてこれほど心強い奴はいない。
「ふ、ふざけやがって」
ふざけていると自分でも思う。思った通り、男たちは挙動不審になる。相手だって、彼女に一瞬で一方的にやられた手前、そうなるのは当然だ。
「で、やるの?」
「あ、当たり前だろうが! 来いよ!」
そう威勢よく言いながら、相手の声が震えていた。喧嘩を吹っ掛けて、引っ込みがつかなかったのだろう。馬鹿な奴。勝つか負けるかわからない勝負何て挑むべきではない。この時点で勝ったと確信した。
決闘は人気のない公園で移動して行われたが、一瞬で勝負はついた。
学校でいない林を除いた浜屋土井も参戦し喧嘩をしたが、俺たち三人はほぼ殴りあわず、彼女が殆ど戦って勝ってしまった。
横たわる男たちを見て哀れだなと思った。同時に優越感を味わう。この確実に勝つ喧嘩を確実に勝った時のこの感覚を味わうために喧嘩を止められないのかもしれない。
「凄いなあ。やっぱり」
浜屋が彼女に近づく。
彼女は無言で近くに倒れている男を何度も蹴り始めた。男は抵抗できずうめき声をあげながら体のあらゆる所を蹴られていく。やがて、声が聞こえなくなったかと思うと今度は男の胸ぐらをつかみ無理やり立たせると今度は何度も顔面を殴り始める。
相手の顔はどんどん腫れていき、口から血が噴き出し、しまいには口から血にまみれた歯みたいなものも吐き出していた。
「おい、いくら何でも」
その光景に俺でも声をかけるほどだった。それでも彼女は止めずに無表情で殴り続ける。男はもう意識はない。
「ヤバイって。止めろって」
見かねて土井が止めに入る。そのおかげで殴るのを止めたが、今度は他の男の方へ向かっていき蹴り始めた。
「始まった。これだよ」
浜屋が呆然と立ち尽くしている。その顔は絶望でどうしようもないという顔だった。
「おい、さすがにヤバイって。そんなの放っておいて行くぞ」
土井と俺で彼女を止めてその場を去ることにした。
とりあえず俺たちはファミレスに戻ることにした。
四人はしばらく無言だった。撃退できた優越感などとっくに忘れていた。
「あのさ、注文していい?」
口を開いたのは彼女だった。
「あ、ああ」
「私、お金持っていないんだけど」
「い、いいよ。俺が払うから。助けてもらったお礼だ」
俺がそう言うと、彼女は店員を読んで食べ物を注文する。
「いいの?」
注文し終わった彼女が俺たちを見渡す。
「あ、ああ。とりあえずは」
沈黙が続いた。一体、彼女は何者なのだろうか。口を開かないが浜屋と土井もそう思っているだろう。
そうこうしているうちに頼んだ料理が運ばれ、彼女はそれをゆっくりと食べていく。
「よく食べられるな」
そう言ったのは土井だった。
「どういう意味?」
彼女は箸を止めて土井の方を見つめる。
「いや、あんなに戦った直後なのにさ」
「直後だからこそお腹すく」
「でも、少なくても少しは殴られただろ? 腹とか」
「全然平気」
そう言って、彼女はまた食べ始める。
「あのさ、メガネちゃんはどうしたいの?」
聞けば教えてくれるが、彼女はあまり話さない。名前も知らなかった。用心棒として仲間になっただけで、そこまで親密にならなくてもいいと思ったからか誰も聞いていなかった。だから、呼ぶ時はメガネちゃんと自然と言うようになった。
「どうしたいって何が?」
「全部だよ。喧嘩の目的とか、普段こうして生活していることとか」
「特に、考えたことないよ」
「まあ、俺たちだって何も考えてないと言えばないよな」
浜屋が彼女に合わせるように頷く。
「でもさ、さっきのあれはないぞ」
「そうだよ。俺らだって倒れた相手に殴ることはあるけど、あれはやりすぎだ。下手したら死ぬぞ」
もしかしてと思った。こいつは人を殺したことがあるかもしれない。頭をよぎった。
「あのさ、あのもしかしてやっちゃったことあるの?」
「え? それって殺したってこと?」
「うん」
「それはない、、と思う」
と思う。とはやはり一歩手前まではあったということか。彼女ならやりかねないと思った。 .
「それはさすがにだぜ。どうしてそこまでするんだよ」
彼女は答えず無言で食べ続けていた。
「遊びならもう少し考えないとな。ぶっちゃけ、お前、強すぎるからさ」
「いいじゃない。死ななかったし」
「そうだけどさ」
そう言われると答えられなかった。
彼女が食べる音だけが聞こえる。二人が思ってることは同じだと思った。こいつはやっぱりヤバイ。仲間になんかなりたくない。
「とりあえず、俺らも食べるか」
微妙な空気を脱するために俺はメニューボードを取り出す。
「よし決めた」
スタッフを呼び出して食事を注文する。注文しながら絶対に全部食べきれずに残して帰る気がした。
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