7

俺の携帯に担任から連絡があったのはその日の夕方だった。

 問題用紙が見つかった。疑ってすまなかったとのことだった。

話によると俺の潔白を菅谷が証明してくれたそうだ。

次の日の夕方、学校の正門で菅谷を待った。

 十五時半になり、チャイムが鳴るとパラパラと生徒が通過していく。しばらく待つと、菅谷がの姿が見えた。

「黒木君」

 俺の姿を確認するなり、菅谷が近づいてくる。

「今日学校来なかったんだね」

 当たり前だろ。犯人扱いされ、それを疑わなかった奴らの顔なんて見たくなかった。

 彼の制服の右ポケットに白い粉で作られた汚れが目に入る。それを見た瞬間、素直になれなくなった。

「どうしてだよ」

「え?」

「どうしてそんなことをしたんだよ」

 違う。そんなことを聞きたいんじゃない。

「お前馬鹿か。お前、俺を助けたんだぞ」

「それは困っていたし」

「だからって俺がやったかもしれないんだぞ」

「え? そうなの? 知らないって言っていたじゃない?」

「確かにそうだけど」

「それにちゃんと探したら犯人も見つかったしね」

 どうしてそこまでしたんだ。その行動は理解しかねる。

「馬鹿かお前」

「馬鹿?」

「お前にとって俺は悪だろ? 来ないで欲しいんじゃないのか?」

「そんなこと一回も思ったことない。それに悪い人なんていないと僕は思っている」

「え?」

「みんな、愛のある存在だよ。だからこうして僕の前に来てくれたんでしょ?」

 救われた。その言葉の意味こそ理解できなかったが、不覚にも涙があふれてきそうになる。その自分の反応に思ってもないこと口走る。

「何だよそれ? 俺はただ余計なことをしたお前に文句を言いに来たんだよ」

「そっか。余計なことだったか」

「そ、そうだよ。余計だよ」

「黒木君にとって迷惑なことだったのか。僕はそう思っていなかったからさ」

「何だよそれ。自分がいいことをして、俺に頭を下げてもらいたかったのかよ」

「それはない。自分がやりたくてやっているから」

 顏こそ笑顔だったが、そこはきっぱりと否定された。

「話にならねえな。やっぱり前、頭おかしいわ」

 そういうことにしておいた。そうじゃないといろんなことが納得できない。そして、こいつのいる学校ならばもう少しいてもいいかと思った。

「そうかもね」

 彼も否定しなかった。そして何故か嬉しそうだった。

「そうだ。それで学期末テスト大丈夫なの?」

「は?」

 その言葉に穏やかな雰囲気が一変した。

「ああ、大丈夫ならいいけど」

「何だよ。馬鹿にしているだろ?」

「違うよ。困っていなければいいんだ」

 困っている。正直、次のテストは赤点を取れば問題行動を取る取らない以前に留年だ。

「あとは? 困っていることない?」

「どういう意味だよ」

「どういう意味も何もないよ。そのままだよ。あ、困っていると言ってもお金はちょっと勘弁してほしいけど」

「なにも困っていねえよ。どうしてだよ?」

「ならいいけど。だって、黒木君、学校だと僕以外とはクラスメイトの子たちと話さないから。学校も休みがちだし」

 何なんだこいつは。俺が一人ぼっちで頼る人がいないから可哀想だとか言いたいのだろうか。事実であるから余計に腹が立った。俺のことをどう思おうが勝手だと思っていたが、見下しているならば別だ。

「舐めんな!」

 気が付くと菅谷の顔面を殴っていた。そのは反動で彼は後ろへ吹っ飛ばされて倒れた。

 その彼に背を向けてその場を離れた。怒りはとっくに静まっていた。一発しか殴っていないのに彼を殴った右の拳が無性に痛かった。

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