3

ああいう目で見られたことは今までなかった。

 恐怖を感じるとは少し違う。どこか俺たちのことを汚いモノでも見るような軽蔑とも違う、興味がない、そこに存在するのを認めようとしない石ころを見るような目だった。

「絶対許さねえ」

 珍しい。こんなに怒りが収まらないのは初めてだった。普段、短気な性格であるのは自覚しているが、その怒りは一時間もすれば治まり、一日経てば忘れてしまうくらいだ。なのに、今回はそうは行かなかった。

「よっぽどだったんだな」

「何? そんなに美人だったのか?」

「ブスではないけど、地味な感じだったぞ。俺は好みじゃないな」

「げ、オタク系?」

 学校が終わり、仲間に加わった林が浜屋と話をしている。

「うるせえな! で、わかったのかよ」

「お、ご機嫌な斜めだな。それが私服だったからわからないんだよな」

「たく、役立たず」

「おいおい。そう言うなよな」

「まあ、仕方ないな。待つか」

 誰かをしめると決めたときは、確実に仕留めるため通っている学校や喧嘩の強さなどを大まかな相手の情報を浜屋に集めさせて実行するのが通常の流れだ。

「来るかなあ」

「寒いんだけど」

「てか、女ボコして面白いかなあ」

「うるせえ! 文句言うなら帰れ!」

 仲間に八つ当たりしても仕方ないが、情報が掴めない分、こうして出会った場所でひたすら待ち伏せするしかなかった。

 あの女がこの時間にここを通る保証はない。ましてやあんな身なりからして滅多に家から出ないタイプかもしれない。それでも待ちたかった。待って襲って、女が恐怖におののく顔や悲鳴を上げる姿を観たかった。

「あ! あれじゃね?」

 土屋が指さした先に歩いているあの少女がいた。メガネとパーカー。会った時と同じような格好をしているからその場にいた三人は一目でわかった。

「あれかあ。何だ。メガネしているけど細くて可愛いじゃん」

「おい、林。お前は彼女いるだろう」

「それとこれとは別だろ?」

「おい、付けるぞ」

 俺たちは人気がいないところに女出るまで後ろから付いていくことにした。

「で、どうするんだよ。ホントにボコすのか?」

「当たり前だろ」

「俺ら、女をボコすの初めてだな」

「強姦でもする?」

「とりあえず、腹何発か殴って、動けなくしたらそのあとは成り行きでいいんじゃないか?」

 別に、あの女とそっちのやりたいとは全く思わなかった。女のあの目を変えられればそれでいい。あとは三人に処理を任せるつもりでいた。

 しばらく歩いて、住宅街に入り完全に人気がなくなった。

「よし。この辺でいいな」

 俺の合図で少し駆けて四方に分かれて女に近づく。

「よ! また会ったね」

 この目だ。女の前に立った俺は、またあの目で見つめられる。夜ということもありその目は以前よりも一層際立っている気がした。

「ごめんね。ちょっと痛いけど」

 拳を作り女の腹に向かってパンチを繰り出そうとすると、直前で手でガードされて拳が振り払われる。勢いで少し横へよろけてしまう。

「ヤロウ・・・」

 以前腕を掴まれたときに感じた違和感が確信に近くなる。この女は強い。喧嘩慣れしている。

「ちょっと大人しくしようか」

 土井と浜屋が両側から女の腕を取る。強いと言っても女だ。負けることはあり得ない。

「しつこいなあ!!」

 女が叫んだと思った次の瞬間、素早く女が動いたかと思うと土井、浜屋に蹴りとパンチを何発か繰り出し二人が地面に倒れる。後ろにいた林も同じで何か攻撃を受けて倒れた。その攻撃は不意を突かれたこともあったが早すぎて三人が何をされたか目で追うことができなかった。

 残された俺は恐怖を感じる余裕もなく何も考えず女に殴りかかる。そして、目の前に色白の拳が現れ、ゴツ! という音を立てて花火が散って目の前が真っ暗になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る