【“お兄ちゃん”と、ずっと一緒】の人物の幼少期:迷子

樹時歌(じゅじか)

プリシラ、迷子になる

「わーん!リムお兄ちゃーん!パパー!ママー!」 


 ブレジアの中のとある農村で、ある日、陽が落ちかけて、空が赤く染まってきた頃、人家が少なく、人通りも少ない通りの真ん中で、幼い女の子が泣き叫ぶ声がした。


 その数時間前、蒸し暑さはない暑い日の午後、農家のヤン家の3才の1人娘プリシラと、彼女の親戚や、この辺りに住んでいる仲良し5人組は、いつものように連れ立って、村の子ども達に親しまれている、ヒマワリ公園で充分に遊び、陽が落ちかけてきたので、それぞれの家に帰ることにした。


 彼らの家路は、田畑の側や途中に、所々に赤レンガの平屋や2階建ての人家が2軒か3軒ほどずつ集まって建っていて、坂道になると、家々が坂に沿うようにひしめき合って建っている所もある。


 家と家の間には果樹園があったり、舗装されていない砂利ばかりの道や、家の窓からは、気さくで温厚な村の人達が声を掛けてくれたりする所があるなど、子どもが夕方帰宅するには、危ないことや寂しいことが無く、安心して帰宅する事が出来、親もそれほど心配することはなかった。

 しかし、たまに何も無い所があり、そこを子どもが1人で通ることはあまりなかった。小さい村なので、小さい子ども達のことは、村全員で見守っているという感じであった。


 仲良し5人組は、そのような道を、それぞれ話したり歌ったり、道端の草花や綺麗な石や虫を、見つけては取ったりしながら歩いて帰り始めた。


 最年少のプリシラは、いつも彼らと遊んで、ヒマワリ公園から家に帰る時は、途中まで、面倒見の良い、小学生のお姉さん達である、リージャやマイムと手を繋いでもらって帰っていた。たまにマイムの2つ下の弟ロックが気まぐれでプリシラの手を繋ぐこともあった。


 少し歩くと道が逆方向に分かれる所に来た。プリシラは、家が反対方向の彼ら3人と別れ、そこからは、隣家のである、一番慕っていて可愛がってもらっている、兄のような存在で、2つ年上のリムと手を繋ぎ直して帰っていた。今日もそうだった。


 そこからすぐ行けば、リムの家とプリシラの家が連なって建っていて、奥の方にあるプリシラの家の柵に母親が取り付けた、

赤い花の植木鉢が小さく見えるので、幼い2人でももう安心だ。


しかし、プリシラは、いつの間にか、リムとはぐれてしまい、

人けのない所に来てしまった。


 まだ保育園の年少組であるプリシラは、4人のお兄さんお姉さんの名前を呼びながら、道を戻ったり進んでみたりしたが、頼りになるお兄さんお姉さんや、知っている道や公園が見つからず、すでに、陽はほとんど落ちており、さまよい疲れて、小さな見知らぬ公園の道路に面した一角に体を押し付け、嗚咽し、怯えたように身を寄せて座り込んだ。


 そこは、周りは畑ばかり広がっており、人家や商店などが近くになく、夜は人もほとんど通らない車だけがたまに通る寂しい所だった。

大人なら、徒歩3分程度の簡単な道も、幼いプリシラが1人で家に帰るには複雑で遠過ぎた。


 さらに日が暮れてきて、淡い橙色のぼんわりとした裸電球の街灯が灯り、プリシラの心細さは増した。

プリシラは、リム達の名前や、両親達を大声で呼べば、

誰かが自分の声に気付いてくれるのではないかと思って、

道路に向かって、思い切り泣き叫んだ。

 

 目をぎゅっと閉じ、顔は、首を真後ろに折るようにして空の方を向き、しゃくりあげて肩を上下させ、鼻水が出て、頬にはじわじわと涙が伝い、それが開いた口に入って、口の中が塩辛くなった。鼻水や涙は拭っても拭っても次々と溢れだし、それを拭く幼い両腕と手が濡れた。


 背中に小さなリュックサックを背負っていたが、リュックサック自体と、もちろん、その中にティッシュやハンカチが入っている事も忘れていた。


 さて、マイムとロックの姉弟とリージャは、もうそれぞれの家に帰っていた。


 しかし、リムは、その3人とは家が反対方向なので、3人と別れて少しして、家が隣同士のプリシラがいないことに気付き、

はっとして、青ざめ、目を大きく見開き、辺りを焦って見渡した。こんなことはあったことがない。


「あれ、プリシラは?公園から出る時、リージャ姉さんやマイム姉さんと手を繋いでいて、ボクとプリシラが、姉さんや兄さんと別れる時、ボクが手を繋ぎ直したはずなのに。どうしよう!」


 リムは、小さいプリシラの事は、プリシラになつかれていたし、家も隣同士で、いつも、妹のようによく面倒を見ていたのに、今日に限って、しっかりと見ていなかったので、頭を抱えて悔い、焦った。


 みんなと遊び終えて、公園から出てからの記憶を辿ったが、

年上の3人と別れた後は、街灯に止まっていたセミを捕まえようとしたが飛んで行ってしまい、それを追ったが追いつかなかったり、歌が好きなので、何となく流行りの歌を鼻歌か、大きな声でプリシラに聴かせていた気がしたが、はっきりとした記憶がなかった。





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