また会えるといいな
あれから二年過ぎ、ユカリは中学三年になる。ユカリは中学三年になっても、地元の山口県ではオシャレをすることがなかった。二年前におばあちゃんに買ってもらったワンピースは、山口県に戻ってから着る機会がなくなってしまった。
(やっぱり、知っている人たちの前で、あのワンピを着るのは恥ずかしいな……)
ユカリはこの二年間で身長がぐんと伸びて、おばあちゃんに買ってもらったワンピースや靴のサイズが合わなくなってしまった。ただ身長が伸びたと言っても、クラスで平均的な身長になり、今まではクラスで一番低かっただけのことだった。
今、学校で昼食時間のとき。
ユカリは、クラスメイトから話しかけられている。
「ねえねえ、ユカリ。隣の男子校のバレー部、あと一回勝てば全国大会だって。放課後、一緒に応援に行かない? バレー部、イケメンばかりだよ。きっかけできるかも!」
「うーん、あたしは、美術室で絵を描いているから……」
「ユカリってあいかわらずだねえ。でもそんな消極的では、いつまで経(た)っても彼氏できないわよ」
クラスの女子生徒たちは、ユカリは男子生徒の話題にはまったく関心がないと見られていた。実はこのとき、ユカリの思いの中では、次の夏休みを楽しみにしていたのだ。
(夏休みまで、あと三週間か……)
先日、ユカリは、母にオシャレな新しい洋服を三セット、そしてコンタクトを買ってもらった。しかしコンタクトは、学校では着用せず、眼鏡のままだった。
(以前に彼の前で着ていた白のワンピースは、小さくて着られなくなったけど、今度はたくさん、洋服、買ってもらったな。あの麦わら帽子はまだかぶれるし、バッグも使える……靴はいつものでいいかな……)
そして夏休みになる。
ユカリは、美術コースのある高校への進学を考えているようだ。
中三の夏になると部活を引退する時期だが、ユカリは、美術コースを希望しているため、そのまま美術部に在籍していた。そして夏休みに、風景画の宿題を美術部の顧問の先生から出されていた。
二年ぶりに行く永森神社。ユカリは、二年前に見つけた永森神社から見渡せる風景を描こうと思っている。
永森神社は、彼と出会った場所であり、ユカリにとって思い出の場所でもあった。
(ひょっとしたら、また彼に会えるかな? 今度は子どもっぽく見られないように、ヘアスタイルを大胆にイメチェンしてみよっかな……)
ユカリは、おばあちゃんの家に着いた次の日、永森村の隣にあるつくね市に行き、女子学生の間で話題となっている人気のヘアーサロンに行った。そこでショート・ボブヘアスタイルと呼ばれるナチュラルショートにしてみた。このヘアスタイルは、今、人気の有名女優と同じ髪形だ。ユカリは、カットが終わった後、鏡を見てみた。
ユカリ「これがあたし……」
サロン店員「はい、随分とかわいくなったわよ!」
(これなら、彼も振り向いてくれるかな……)
ユカリはヘアーサロンに行った次の日、スケッチと絵の具セットをもって永森神社に向かう。ユカリは、永森神社に行く計画をたくさん立てていた。ユカリは自然が大好きだ。そのため、自然の風景画を描くのが一番好きだった。絵が描ければ、ユカリは長時間、同じ場所にいても平気だ。むしろ時間の流れさえ忘れてしまうくらい、ユカリにとって夢中になれるときでもある。ユカリは、そこで日々、絵を描きはじめる。
——そして一週間が、経(た)ったときのこと。
(ふうー、やっぱり彼、来ないのかな?)
時間は十七時、夕方になった。
ユカリは、絵を描き終えようとしたとき、一人の男性がこっちにやってくる。たまに犬の散歩や神社の見学のついでに、ここに来る人がいる。またそういう人かなと思っていた。でも今度は、少し違う様子。その男はユカリから十メートル離れた場所に立って景色をじーっと見ている。地元の人には見慣れている風景のためか、この場所で風景を眺める人は今までにいなかった。ユカリは気になってちらっと見てみた。
「あー!」
考えるより先に声が出てしまった。ずっと待ち望んでいた彼だ。ユカリは彼の方に指を指して言った。
「おにいちゃん! 久しぶり!」
彼はこっちを向いたが……なんだか考えているようだ。どうやら誰かわからないらしい。
ユカリは、彼の方にゆっくり歩きはじめ、彼の目の前でピタッと止まった。そしてじーっと彼をのぞき込むように見つめて、一言だけ語った。
「フウセン……」
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