運命の赤い糸に憧れて~第二章 ユカリの中学時代の思い出
時は、ユカリがヒロトとはじめて出会う一カ月前に遡(さかのぼ)る。
ユカリは山口県に住んでいて、地元の女子中に通っていた。今、ユカリは中学一年生。クラスでは地味で目立たず、控えめな性格の女の子。中学に入学してから目が急に悪くなり、眼鏡をかけるようになった。成績は普通より少し上くらい。クラスメイトとの関係が悪いわけではなく、良好だ。ただ、クラスの友達と街に買い物に行くとき、クラスメイトから言われることがある。
「ユカリも街に買い物に行くときくらい、ちょっとはかわいい服とか着てオシャレしたら? ユカリって、いつも地味なんだから」
「そうかな……あたし、あまり気になんないけど……」
ユカリは、引っ込み思案の性格だ。元より小学生の頃から男子生徒と話すことはまれで、さらに女子中に入ったので、ますます男子生徒と話す機会がなくなった。クラスに必ず何人かいる、目立たない女子生徒と言ってもよい。そんなユカリが、はじめてお洒落(しゃれ)をしようかなって思ったのが中一の夏休み。ユカリは、母の実家、おばあちゃんの家に宿泊しているときだった。
ユカリの母の実家は、永森村の隣にある宮脇町。小さい頃から、ユカリはおばあちゃんのことが大好きで、夏休みになると、母と一緒におばあちゃんの家に遊びに行っていた。
ユカリのおばあちゃんは、このとき、まだ五十八歳。母は三十五歳でユカリは十二歳。比較的、早婚の家系だ。
おばあちゃん「ユカリ、もうおまえも中学一年なんだから、かわいい服が欲しいでしょ。一緒に買い物に行くかい?」
おばあちゃんが買ってくれたものは、中学生の小遣いではとても買えない、高いものばかりだった。おばあちゃんは大奮発した。白いワンピースやリボン付きの麦わら帽子、バッグや靴など、女子中高生の間で大人気のブランド品で買いそろえてくれたのだ。ユカリはウキウキしている。本当はお洒落をしたかったのだ。そしてユカリは、恋愛に強く憧れるごく普通の女子中学生だった。しかしいざ、男子の前に出ると話すらできなくなる内気な性格。学校内では、今までが地味だっただけに、急にお洒落をするのができない性分だった。
「ここなら学校の人にも近所の人にも見られない。早く、お洒落なファッションをして、外を歩きたいな……」
ユカリは、おばあちゃんから赤い糸、運命の人を見つけられるという永森(ながもり)神社の伝説の話を聞いていた。永森神社では、古来よりふたつの言い伝えがある。ひとつ目の言い伝えを現代風に訳すと次になる。
人は生まれる前、高天原(たかまがはら)で、結婚する相手と地上で無事に会えるように、
赤い糸を互いの小指に結び合い、地上に生まれてくる。
運命の赤い糸は普通の人には見えないが、恋愛(れんあい)成就(じょうじゅ)の女神の祝福を受ければ、
運命の赤い糸が見えるだろう
そして、もうひとつの有名な言い伝えが次である。
心清く、人の幸福を願って祈願し、恋愛成就を司(つかさど)る女神の
心に叶(かな)うならば、女神は目の前に現れる。
女神はきっと願いを叶(かな)え、幸福に導くであろう
このふたつの言い伝えは、千数百年以上も前から伝えられ、地元では有名だ。そして永森神社には、恋愛成就祈願がある。おばあちゃんは永森神社で祈願して、今の夫と出会ったことをユカリに話していた。
それを聞いたユカリは、「永森神社に早く行ってみたい。運命の赤い糸、すてきな彼に巡り合わせてくださるように、恋愛(れんあい)成就(じょうじゅ)の女神様にお祈りに行きたい」と思っていた。
ユカリは、あまりにもワクワクしていたため、洋服を買ってもらった翌日の朝、五時前に目が覚めてしまう。ユカリは、さっそく麦わら帽子とワンピースを身に着けた。そして大きな鏡の前で、イメチェンした自分の姿を見て、「少しはかわいく、大人っぽく見えるかな?」とウキウキ気分だった。ユカリは小柄で童顔(どうがん)だ。そのため小学生とよく間違えられた。ユカリは、子どもっぽく見られることに強い劣等感を抱いていた。
「今日は、眼鏡(めがね)は外していこうっかな。コンタクトもほしいな……」
ユカリは、外出する準備ができた。
「よし! これから神社に行ってみよう!」
ユカリは新品のバッグを持ち、新品の靴を履いて神社に向かった。永森神社は、おばあちゃんの家から自転車で二十分ほどの距離だ。ユカリは自転車に乗って出かけ、永森神社に着いた。そして山の麓(ふもと)の駐輪場に自転車を置き、長い階段を上って神社内に入って礼拝殿の前に立つ。
——ユカリは祈った。
「運命の赤い糸と出会いますように。星の王子様のようなイケメンで背が高く、誠実で優しい。いざというときに、あたしを守ってくれ、スポーツマンタイプのたくましい彼が現れますように……」
意外に欲張りで高望みのユカリだった……。
——ユカリはお祈りを終えた後、神社内を散歩した。すると物陰に糸のようなものが落ちていることに気づく。それをよく見ると、なんと赤い糸だった。
「あ、赤い糸だ!」
ユカリはびっくりしてしまう。ユカリは、赤い糸が落ちてあるところまで歩いていき、赤い糸を拾った。すると赤い糸の先には風船がついていた。
「なんだ、風船か。びっくりしたー。そういえば、二日前に永森神社の夏祭りがあったっけ……。きっと片付けられずに残っていたんだ……でも赤い糸がついた風船を拾うなんて縁起がいいなあ。これってきっと、運命の赤い人に出会えるっていう女神様からのサイン、天使の導きだね!」
ユカリは赤い風船を拾って、すっかりルンルン気分になってしまい、風船を持って神社内を散歩した。
——するとユカリは、奥の方に小道があるのを見つけた。
「あれ? こんなところに道が……」
ユカリは、小道を歩いていくと小さめの広場に出た。そしてその広場からは、永森村の景色が見渡せた。
「すごーい、本当にきれいな眺めだなー」
ユカリは、景色にすっかり感動してしまった。
「今度、ここの景色を描いてみたいな……」
ユカリは、中学では美術部に所属していて、絵を描くのが好きだった。小学生のときも、みんなとは遊ばず、一人で湖や山に行って景色をよくスケッチしていた。
「よし! そろそろ、帰ろうっかな」
ユカリは、山頂の永森神社から麓(ふもと)に向かって階段を下りはじめる。
——階段を下りて、やがて長い階段の中間地点にある広い踊り場についた。そのとき、赤い風船が手から放れてしまった。
「あっ……」
風船は上空に飛ばされたが、運よく踊り場の脇にあった大きな木の枝にひっかかった。
「ふー、よかったあ。せっかくの赤い糸、いや赤い風船を手放すところだったあ」
ユカリは風船を取ろうとした。しかし背の低いユカリでは、届かなかった。今度はジャンプしてみたが、とても届きそうにない。
「どうしよう、私の赤い糸……」
ユカリが風船を取れずに困っていたそのとき——。、
ばしっ!
一人の少年が現れて、ジャンプして風船をキャッチする。風船を取った後、少年はこちらを見た。
ユカリは、その少年を見てポーっとした。
(え、うそ……)
少年「ほら、今度は風船を放しちゃだめだよー」
ユカリは一目ぼれをしてしまった。なんと、さっき神社で祈ったとき、イメージしていたような少年がすぐ目の前に現れたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます