第28話  時間と距離

 迅の悪い予想が的中していたならば、それは魔力を持たない人族だから見落としたのかも知れない。魔獣やそれ以外の脅威なら魔力によってその存在は把握できていた。


 魔力を持たないことが、帝国にとって利に働いたとは皮肉だな……



 迅の言葉でマーナらは即座に大旅団を分断し、一方はエルフ国へ戻り、もう一方は帝国へ再出発する。おそらくレンカらも真っすぐ帝国へ向かっているはずだ。


 迅は周りを見渡す。


「マーナさん、あの二つの種族教えてもらえますか? 」


「はい。ああ、どちらもエルフなんですよ。色白がニンフで色黒がダークエルフです」


「いや……あのもっと詳しく……」


「ふふ。そうですね。ニンフはより妖精、精霊に近い存在で、その属性魔法を得意とします。ダークエルフは弓よりも剣を得意として、とても強いですよ。そして地底に住んでます。エルフが木の上なら、木の根の奥のほうですね。闇魔法と魔界にも詳しいんです。際どいんですよ。地底と魔界の境が……」


「その中でもマーナさん最強って、レンカさん言ってましたよね」


「レンカ大袈裟なのよ。ある条件のもとなら、そこそこ強くなれるということです」


「条件? 」


「妖精魔法です。あれはとっておき。というか……リスクがあるので、使えればある時間は無双しますね。ふふ」


「へぇー。どんな感じなんすか? 」


「私の場合、憑依させるんです。妖精を。そうすると変身しちゃうんですよ私。ふふふ」



 数刻前までみていた光景。砲弾が里に落ちていく。悲鳴があがり方々に逃げ出すエルフ達。今もなお里に続いているであろう攻撃。そんな不安を微塵に感じさせないように冗談をいう。強い人だ。周りのエルフ達も気丈に振る舞っているかにみえた。


 何とかしなければ……


 迅は馬車の中で深く考える。どう考えても良い展開が浮かばない。神聖国からエルフ国まで数日を要した。ということは神聖国の先にあるという帝国へは更に時間がいる。


 帝国着いた時には終わってるまでとはいわないが、取り返しのきかない局面まで進んでる可能性もある。


 この時間と距離を制している帝国。

 そうゆうことか……世界全部敵にまわしても十分勝算ありでのことか。


 出来ることはないのか。魔法では。俺のチカラでは。断罪の女神様は。……どれもこれもあやふやだ。確証を得られない。このままただ何日もかけ、向かうしかないのか。



 しばらく進んでいくと先頭の流れが遅くなり、全体もそれに合わせる。

 どうしたのか? と馬車の外に出てみる。昼の日光さえも遮りそうなほど強い霧が出ていて、それは一歩先さえも目を凝らしながらでないと進めない程に。


 くそっ。こんな時に……


 大旅団一行はその霧の中を注意深く進むざるを得なかった。

 すると前方に、霧の中からでも見て取れる、旅団の行く手を塞ぐかのように巨大な門のようなものが出現する。その不確かな存在に止む無く旅団一行は、門らしきものの手前で止まる。


 想像だにしていない出来事に、騒然とするとともに動揺を隠せないエルフ達。


「マーナさんあれは? 」

「わかりません」


「もしかして……」


 走り出す迅に


「ちょっとどうしたんですかっ? 」


 と追いかけるマーナ


「断罪の女神様が何かしてくれたんじゃないかと……」


 そう言葉を発しながら躊躇なく門に向かっていく迅に対し


「待ってっ!!」


 後ろ襟を強く掴まれ止められる


「えっ!? 」

「違います。女神様じゃありません。……迅さん、焦らないでください。感じませんかこのおびただしい程の魔力を。……ダグリール! ちょっときて! 」


 マーナが呼んだのはダークエルフの長。ダグリールは他のエルフらの間を、霧の視界の悪さをものともせず、軽快なフットワークですり抜け、目の前まで飛んでくる。


「はいよはいよはいよぉ。旦那様ぁっと! はいよっ! 」


 『バチィ』とマーナはその男の胸板を叩き


「黙りなさいっ! 」


 この男だったのかあの若干一人は……ははっ。

 色黒で精悍な面構えにユーモアもあり、背中に二本の幅広い剣を背負っていた。イケメンサーファーがそのまま戦士になった感じか。無敵すぎる……


「で、何だよマナ」

「ダグあれ見て」


 そう言われたダグリールは、頭上にそびえ立つ門を見るなり


「こりゃ魔界の門だな」

「やっぱり……どうゆうこと。帝国と魔族が組んだの? 」

「これ見ただけじゃわからんね。入るか? 」


 ちょっと待ちなさい君たち。俺を置いてけぼりに話進めちゃって! それにマナ、ダグとゆう呼び名。クぅーなんだこの切ない気持ちは……


「ちょっと待ってください。魔界の門って何ですか」


「そのままの意味で魔界に通じるんです。」


「ってことはこの門くぐると魔界なんですか? 」


「んーどうだろな。わからんけど」


『バチィ』


「まじめにやって」


「おーこわっ。タチケテ英雄様ぁ」


「ははっ。とりあえず俺見てきますよ。こんなところで時間使ってる場合じゃないでしょ」


「迅さん、いきなり魔獣でてくるかも……それも何百ってこともあるんですよ。魔界なら」


「だから俺行くんでしょ。他のだれかいったら危険じゃないすか。俺死なないすから」


「絶対死なないってことはないです! 迅さん慎重に、目的わかるまで様子みましょう」


「様子……そんな……」


「ジンちゃん。男だぜ。気に入った! 門のところで見届けるぜよ」


「もーう! あんたは! 」



 迅はマーナの説得を半ば強引に振り切り、門の中に足を踏み入れる。


 マジで時間惜しいんだ。何だか知らんけど……一体何があるんだ。


 深い霧の静寂の中、地面が変わっていることに気付く。暫く歩みを進めていくと……微かに音が聞こえてくる。耳を澄ます迅は思わず声にだしていた。




「うそだろっ! 俺もしかして死んだのか」





 一瞬の間に思考が交錯する。気が付かないうちに魔獣にやられたのか。違うのか。じゃあなんで聞こえるはずのないあの声が……近づく……




『きゃはははっ』『待って……こっち』『へへっ』



「えっ!!! 」


「ほらいた……」

「ジンだー」

「なんでお前たち……」



 随分と会ってなかったかのように、懐かしいチビッコらが迅の周りに抱き着いてきた。



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