第29話  邂逅

 なんでここにチビッコ達が……迅が放心状態でいると驚くことが続く。


「ほらっ。どこ行ったのぉー……あっ。やっぱりいた! 迅さーん、イエイっ! 」


 どゆこと? チビッコ達に続きレンカも登場する。今度は後ろからダグリールの声が聞こえる。


「ほほう。こうゆうことね」

「ダグさん、ついて来てたんですか? 」

「うん。魔界じゃないことはわかってたから。ほら魔力感じないじゃんこの中。確かにあの門はヤバい魔力だけどねぇ」


 魔力を全く感じない迅に対し、飄々と話すダグリールに続いて、マーナらもあとについて来ていたようで、うろたえながら言葉が出る。


「えええっ!? なんなの? 」


『マーナ姉ちゃんだ! 』『わああ……』『おいも』


 先程のジンと同じ状況に


「どゆこと? 」


「レンカさん、これって? 」


「うん。なんかね。うちらの前にでっかい門出てきて、ソッコウ逃げようかと思ったんだけど、……キクリが大丈夫っていうから入ったの。軍隊と一緒にね。そしたらキクリが今度、迅さんいるって走り出したのよ! わけわかんないよねーっアハっ。とにかくみんなついてきてっ!」


 レンカも興奮隠しきれないように、矢継ぎ早に話すと迅らを手招きする。

 マーナの指示により、続々とエルフ旅団一行も連れられてくる。深い霧の中、見失わないようレンカについていくと神聖国の軍団と合流する。両軍ともに困惑の色を隠せない表情になっていた。



 一体どうゆうことなのだろう。迅はマーナとレンカに疑問をぶつける。


「さっぱり意味わかんないんですけど。やっぱり神様じゃないですか。……それか帝国がここまでおびき寄せて、一気に畳み掛けにくるとか。……うーん。でもキクリが大丈夫って言ったのなら大丈夫なのか? ……準備だけはしておいた方がいいかもしれないですね」


 その場の者が各々最悪の事態を想定し始める中、またしても霧の中から気配を感じ、それは両軍の方へと向かってくる。


 唐突にダグリールが叫ぶ。


「ヤベーっ。この魔力は危険ぜよ。一旦下がれっ! 」

「マー姉。この禍々しい魔力って」

「ええ。とんでもないものがくるわ」


 この言葉に全員が罠だったのかと前を見据え、魔獣がくることを想定する。


 迅も緊張するとともに視線の先には、思いも寄らぬ懐かしい顔を見る。


「あれっ! センパイじゃーん」


「おおっ、おうジンか!! 元気だったか! 」


 思わず走り出し向かう迅に、想像もしていなかったものが目に入る


「ええっ!? なんで……」


 虎獣人ランドルの隣に向けて迅が言葉を続けようとすると、マーナが遮るように声をだす。


「迅さんっ! ちょっと待って! ……」


 つられて追いかけてきていたレンカとダグリールが、迅を抑えながら二人それぞれ言葉が出る。


「ってこっちからもハンパないのが来るよ」

「マジか。こりゃ無理だぜよ」



 もう一つの方角の霧が晴れるとともに、そこから一組の男女が現れ、それを見るなりレンカが叫ぶ。


「?? ソラリスっ! その男は!!? 」


 続けてマーナとダグリールがほぼ同時に驚愕の声を上げる。


「そんなっ。まさかっ! 」

「うわっ。ここに来るかよ! 」






   ◆ ◆ ◆





 遡ること二、三週間前。



 ザルバール龍王国玉座の間。





 部屋内の一角の空間が突然歪む。


「何奴じゃっ! 」


「フフ。しばらくぶりだね」


「!!! お前は」


「突然すまないね。不躾を承知で失礼するよ。警戒しないでくれたまえ。……いやなにね。本来なら詫びの一つも言わなければならなかっのだがね」


「詫び……じゃと……」


「うちの悪漢がね。お宅の国に放ったんだよ」


「ザクローマの件じゃな」


「そう、聞いていたかい。全く由々しき事態になるところだったね。お互いに。詳細はまだなんだろう。今あなたのお嬢さんが調べてるようだから、すぐ話は伝わるだろうがね」


「それで。なにしに来た? 」


「だから警戒しないでくれよ。旧知の仲じゃないか。……私はね。争い事が嫌いなんですよ。……避けられない立場ですがね。…………それで気になる話を聞いたのでね……」


「いったい何が言いたいのじゃ……」


「王よ。どう判断するかはあなたの自由だ。ただ一言いいたくてね。彼は気持ちの良い男だよ。…………また後でお邪魔するよ」


「会ったのか? 」

「フフっ。友達だよ」


 そう言うと男は歪んだ空間と共に消え、王は額に浮かぶあぶら汗を拭いながら呟く



「大魔王マグナ……」






  ◆ ◆ ◆






 その男は柔和な目で微笑みながらしゃべりだす。


「ほほう。皆さんそろい踏みですかな。ハハハっ。あっ、いましたね。約束より早まりましたかな? 」


 迅がレンカとダグリールに抑えられながらも、聞き覚えのある声に反射的に振り向き、たまげるように声が出る。


「えっ!! 社長ーっ!!!どしたんすか!? 」


「「「えーーーっ」」」


 その場のもの全員が、馴れ馴れしく男に声掛ける迅に仰天の声を上げ、レンカが迅の服を引っ張り寄せながら諭す様に言う。


「何言ってんの迅さんあの人……魔王マグナ……」


「違いますよ。クロフォード社長っス」


「そう魔王マグナクロフォードよ。そしてあの女が一番の側近エリザ……」


「だからセンパイの隣の女性は同僚のべスさん」


「そう、終焉の魔女エリザベスよ」



「………………」



「ハハハっ。彼女は私のように魔力を抑えられなくてね。あのマスターには悪いことしたね」

「フフっ。あの時は驚かしちゃっみたいね」




「………………はいっ?! 」


 …………なんですと? あんときのマスターの顔はそゆ意味? ……んー。……確かに初日、社長に何か最後に言われたなぁー。んー。そうだ。うちのあつかんをとめてくれてありがとう。熱燗て飲んでなかったけどなぁって思って適当に返事しちゃったけど。あつかん。あっかん。悪漢? 魔人のこと?


 迅が、ことの経緯を整理している間にも、ぞろぞろとエリザベスとマグナクロフォードに引き連れられ、亜人国軍と龍国軍は集まってきていた。



「ジン君、私が出来る事はここまでです。あとは任せてもいいですかな。霧が晴れると帝国は目の前です。すぐにでも散開してください。狙われたら逆に一網打尽にされてしまいますからな」


「社長。でもどうして? 」


「……冒涜ですよ。彼らがしていることはね。私たちが魔力を持っているように、彼らが身を守るために工夫して火薬を持つのはいい。ですがね……彼らは境界を越えた。世界の。理の、ね。」


 亜人への事件を指しているのか、エボーへの様々なことを指すのか……全てひっくるめてか……魔王は迅の表情を見て取り、考えがわかるかのように続ける。


「そうです。……ですがこれ以上は干渉にあたるのでね。ここまでは導きということで。……女神風にいうとね……フフ」


 と全てお見通しのように、にやけつつ、それでいて最後は包容のある笑みを持って話した。


「では失礼するよ。あっそうそう。べスは残していくね。干渉にならない程度に手伝いたいそうだ。……あとこれ渡しておくね。全て終わったらこれを。……その日の夜、あのバーで逢いましょう」


 と迅にあるものを手渡すと、空間が歪むと共に魔王は消え、迅たちら各国の軍を包んでいた霧も同時に晴れていく。




 目の前に広がる広大な土地と遠くに見える城を確認する。迅のそばで魔王の話を聞いていたものたちから、次々と波打つように歓声が拡がる。


 迅は魔王の消えていったあたりの空間に深く深く頭を下げ、時間と距離の問題を一気に解決できたことを感謝した。つい先ほどまで焦り、敗戦の予感さえみせていた気持ちを払拭させ、拳を握り締め言葉を上げる。



「マーナさん、レンカさん、皆さん。いけますよ! 帝国倒せますよ! 」



 その言葉と共に、その場にいたもの全員が拳を強く振り上げた。



「「「おおおおーっ!! 」」」

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