第9話 決断
翌朝早く、エルフのマーナと蛇種族のレンカもとに、トリプルバーンズのイケメンエルフ、クリスが訪れる。暫し三人で話込んだあと、ちょっとの間、と言ってチビッコ達を迅に任せて出ていく。
◇
迅は、昨日聞いた冒険者の仕組みについて、頭で整理していた。
冒険者、魔獣ともにランクがつけられており、そのランクに合わせてに冒険者に国、もしくはギルドと呼ばれる組織から依頼、派遣されるということ。冒険者は国を跨いでの活動が許されていること。
上級冒険者には技量の他に、人格者であることも条件になり、『討伐の自由』という権限が与えられている。
それは依頼以外でも脅威となる魔獣、その他盗賊等を依頼なしに冒険者判断で、討伐執行が出来るということ。
何故ならば、目の前に住民を脅かす何かに遭遇した場合、手続きをする時間を省き、臨機応変に対応可能とするために。
この世界の通信と交通事情を考えれば、当然のことになる。
ないとは云えないが、小金稼ぎのため必要のない討伐をすることを防ぐためにも、人格者としても問われているということ。
A級冒険者トリプルバーンズの場合、
まとめると通常、国、ギルド→依頼→派遣→実行→調査→報酬。
それが、討伐の自由の場合、
脅威遭遇→討伐実行→ギルド、国に事後報告→調査→報酬。調査の多くは信頼上省かれる。と言う流れだ。
冒険者ランクトップがラクラン。その下がABC以降続く。
魔獣ランクトップがディストラ。したが同じくABC以降。
ともにトップは際限なく一括りにしている。A以上を測ることは出来ないことと、細部に区分けしても意味のないことでのようだ。
迅はチビッコ達を連れて、木造家屋が立ち並ぶ村を散歩していた。
なんか昔の日本ぽいんだよなぁ。
最近の迅はチビッコ達には、虫が群がる木の状態にしばしばなる。今はラオが肩車状態で両手にキクリとミクル。
チビッコ達が軽いとはいえ、この姿勢は堪える。迅は鍛練、鍛練と思い頑張っては休み、を繰り返していた。
この肩車が、チビッコ達の最近のお気に入りだ。『今日はわたし』と順番制を勝手に作り出すほどに……ただ、ラオの場合は痛い。
そんなこんなで、出店とかもあるので、田舎の村の散歩を楽しんでいる。道行くすれ違う村人や店の皆、チビッコ達に笑顔や声を掛けてくれる。
のどかでいい村だなあ。じゃあ。なんか食べるか。
お昼前に差し掛かり、出店も食べ物類を出し始める。
「ミクルはあれっ。ジン、あれたべよ」
手を強く引き、指差したのは何かの串刺しを焼いていたものだ。確かに香ばしい臭いも漂ってきた。
「わたしも……たべる」
「おいもおいも」
どーれ。では、串焼きと、あとなんだこれ、おでんみたいのと、蒸かした芋のような物を、適当に見繕ってもらった。
村を平行するように流れている川に向かい、丈の長い芝生状の土手の上から、川を眺めながらメシを頬張る。
あいかわらず、メシに夢中になってるチビッコ達は愛らしい。
川をなま暖かい風がそよぐ。
ラオが手をベタベタにしていた。その手で服をガッシガッシされたんではたまったもんじゃない。と食べ終わりに、川で手を洗わせるため下に降りる。
ふとみると、土手下に魔獣の革らしきものが、流されたのか、捨てられたのか。旅館の床貼りに使われていたものと同じような物。
あれ出来っかな。
迅はその落ちている革を二、三枚拾い、チビッコ達を呼び寄せ、土手スキーを始める。どちらかというと、ソリなのだが迅が父親に聞いた話では、土手スキーと呼んでいた。
単純に土手の上から革をソリに見立てて乗り、土手を滑り下る。
これがガキの頃楽しかったらしい。
父が懐かしみながら話していたことを思い出す。案の定チビッコ達に評判いい。
「きゃはははっ」
「ほら。キクリも」
キクリを前にして迅が後ろに乗って滑る。
「ジン……こわい」
「大丈夫だぁ……」
「わああっ……」
ラオは、たまに革をつんのめらせては、そのまま転がって落ちていく。
「ラオっ。大丈夫か? 」
「おい。へーきだ」
「あっははっ」
「キャハっ」
終いにはミクルは何も敷かず、そのまま前転してタイヤのように落ちていく。マジか!さすがにまずいだろ!
「おいっ。ミクルっ」
「に゛ャーっ」
大丈夫……なのか?
何ごともなかったかのように、ミクルは繰り返す。
風が土手を走り、草が連鎖するよう揺れる。
食後の運動を堪能し、帰りはミクルを肩車して旅館に戻った。
旅館に戻ると、マーナとレンカも帰っていた。
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「ただいまっ。ご飯は済ませてきました。それで、なんだったんです? 」
「隣の村で見かけたらしいの」
「カマンディスですか? 」
「あの魔獣は飛んで移動しますから、それでオスがいないと、探して狂暴になってる恐れがあるって」
「そんな魔獣で夫婦愛みたいなのあるんですか? 」
「ないんじゃなーいー。喰っちゃうからね」
レンカの応えに訊き返す。
「はい? 」
マーナが応えを続ける。
「交尾のあとメスはオスを食べてしまうんですよ。栄養補給らしいのですが」
「こえええっ。そんなのあるん。天国から地獄じゃんか」
「ふふっ。それで、私たちにも協力できないかって話なんです」
なんでもカマンディスペラドは、メスの方が一回り大きく魔法も使い、脅威度も高いらしい。
「それに、どうやらそれだけじゃないらしいんです」
マーナに続いてレンカが説明する。
「迅さん、あのエルフに紋があったって言ったでしょ。それね。使役の紋っていって……つまり、何者かに使役されて来たってことなの」
そうなのか。あの黒い模様はそういう意味か。しかし、なんの目的で。迅が考えていると、マーナも同じ考えだったのか、
「わからないんです。目的と何者かが」
「でも誰でもできるもんじゃないでしょ? 」
レンカがマーナの代わりに応える。
「そうね。あのクラスを操るんだから相当な魔法を使う者がいるってことだね」
「ですから、念のため私たちに後衛のさらに後ろの、後方支援を頼めないかって。交戦中に第三者が現れないかとか、そんな感じです」
そうゆうことか。それで、どうするつもりなのだろう。
「それで、迅さんどうすればいいと思いますか? 」
ん。俺に訊くか。チビッコ達もいるから判断を躊躇してるのか。
「俺が来る前でしたらどうしてました? 」
「いってたと思います」
「だよねー」
そうなんだ。意外だな。てっきりチビッコ達の危険を考えると行かないかと思った。じゃあ何で俺がいて躊躇するんだ?
「えっ? それでいいんじゃないですか。行きましょう。ちなみになんで俺に会って迷ってんですか? 」
んん。戦力にならないとか足ひっぱるとかか。確かに。だが舐めてもらっちゃ困るよ。
「それは迅さんといるとみんな毎日が楽しいからなんです」
なんですとぉー。どゆこと。わからん。
「いや、ごめん。わからないなぁ」
「ふふっ。だよねー。うちらもわかんないんだよね。迅さん来る前だってめちゃ楽しかったし、色々経験してきたんだけど、なんだろね。今一番壊されたくない時間っていうか空間っていうか……」
「私も説明は難しいんですが……」
なるほど……じゃない。わからない。でもこれは俺にとっては最上級の誉め言葉と、存在意義が認められたってことでインだな! よし。
「わかりました。大丈夫です。この形は壊れないですよ。討伐参加しましょう」
そう。俺には奥の手がある。奥の手がね。ふふふっ。
そういえば、なんでレンカさんとマーナさんに声掛かったんだろうか。確かに緊急時であれば、近場の戦力は少しでもほしいところか。
でもなんか、レンカさんのこと知ってるっぽいんだよなぁ。センパイ。マーナさんのことも。
あの二人有名人だったりして。
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