第8話  異世界風呂を満喫

 賑やかな雰囲気もそこそこにして、ジンは鬼人ラオと風呂へ


「ラオ、風呂いこっ! 」

「おいっす。へへっ」

「うちらもいこう」

「そうね」


 夕飯前に風呂突入だ。


 迅は、この世界の初の風呂に胸躍らせる。

 ほほう。露天風呂だよ。ってことは温泉か。

 まさか異世界で温泉とは。さすがに男女は分かれているが、なんか日本ぽいな、造りが。なんかルールとかあるんだろか。ないだろね。


 池状の堀に温泉が流れている。壁側が木の柵になっていて恐らく下は隣の女湯と繋がっているのだろう。効率的に考えてもやむを得ないだろう。隣からはミクルらの声が若干漏れている。


 ラオの体をサッと洗い湯船につかる。『沁みるぅ』足と体を伸ばし空を見上げる。外は夕時の薄明るい空。ただ何も考えずにお湯に身を任す。ラオも騒ぐかと思いきや迅と同じ姿勢で湯に体を委ねていた。ふふっおっちゃんかよ。


「ジャマするぜー」

「ああ、空いてますねえ」

「あっどうも」

「おう、兄さん、ここの泊まりだったんかぁ。さっきは情報あんがとよ」


 入ってきたのは昼間会った冒険者のトリプルバーンズの虎獣人ランドルと、もう一人も同じパーティーのメンバーだ。


 大きな体の虎獣人と長身のイケメンなエルフだ。

 二人とも体を流し、無造作に湯船につかるランドルに対し、エルフは指で温度を確かめながら、『ヒャッ』とか声なのか何かの音を発し、足を入れては戻し、入れては戻しを繰り返しやっと全身つかる。対照的な二人に吹き出しそうになる。


「はぁ~しかし良かったよなぁ。危うくバルザンまでいくとこだった。お宅らパーティーのおかげだわなぁ」

「そうですね。私からもお礼を言わせてください」

「いえ、とんでもないですよ」


 エルフってみんなこんな丁寧な方ばかりなんだろうか。でも、俺が言うのもなんだが、エルフのマーナと蛇種族レンカの話だけを鵜呑みにしてもいいものか。確かにディストラ級はもういないが。


「いろいろ他の情報聞き回らなくていいんですか」

「必要ないさ。お宅らの言葉で十分よぉ。なあ」

「これ以上ない情報と信憑性ですからねぇ」


 どうゆうことだろう。


「しかし、おどれーたねぇ。最初は気づかなかったけどさぁ。先に言ってくれってなぁ」

「私もです。それにまさかお連れがあの方とはね」

「いったい何のことですか? 」

「ああ。何って、なーにすっとぼけやがってよお。このぉ」


 と虎獣人が肘でつつく。そのとき隣から高い声が響く


「ちょっとー、虎の獣人さーん。男がベラベラあることないこというのカッコ悪いわよぉー」


 突然の声はレンカだ。どうして割り込んできたかはわからないが、隣をみるとバツ悪そうにしていて、それから手を口に当て隣に向かって声を上げた。


「ちがいねぇーな。ハハハっ。こりゃ失礼」


 そのあと小さな声で『いるなら教えてくれよ』と口パクみたいにしていた。

 よくわからないやりとりだったが、迅は気になっていたことを訊いてみた。


「それでカマンディスのつがいの片方はいるんですか」

「うん。まあそうだな。それがオスかメスかにもよるんだよなぁ。メスならいるな」


「どうやって見分けするんですか」

「ケツみりゃ一発でわかんだけどよぉ。いちいちみてらんねえからな」

「お尻ですか。どうなってんです」


それからその虎獣人に特徴を聞き、自分の記憶と照らし合わせてみる。


「メスですね。生きてる方は」


「はあん? …………もしかして……兄さんなのかい。片割れ倒したってのは? 」

「はい。俺です」


 迅は最初に会ったムカデの魔獣は既に死んでいるし脅威ではなくなっているのに対し、カマキリに関しては現在進行形の脅威であることで、惜しむことなく協力しようと思っていた。被害が起きる前に。

 ここでこの冒険者に会ったことは、迅にとっても願ってもないことだった。


「やけにグイグイ特徴聞いてくると思ったらそうかい、兄さんかい。俺ぁ、てっきり……」

「すみません。つがいで行動するなんて知らなくて、ホントはもっと早く周りに伝えなくちゃいけなかったんです。」


 『バチィっ』と風呂場全体を響く音がし


「なにいってんだぁ。あれ一体倒しただけでもどんだけの被害が未然に防げると思ってんだ。兄さん、あんた英雄だぜ! それに今んとこ被害の報告は上がってねぇ。心配するねぇ。俺らがやっつけたるぜぇ」

「ランドルさん、簡単にいってくれますねぇ。ディストラ級じゃなくてもカマンディスぺラドはA級ですよ。しかもメス。私たちでも油断できません」

「ああ、気合と根性よ。何腐った卵みたいなこといってんだょ」

「意味わかりませんよ」


 そのあとエルフの方からも、改めて特徴を再確認のため二、三質問を受けた。やはり対照的でこちらは慎重派なのだろう。


 思いっきり背中を叩かれた跡が気になるが、迅はこの虎獣人のざっくばらんな性格に一気に好感をもった。


 それにしても、と迅は男として、虎獣人のカラダをみて惚れ惚れしていた。


 太い首から流れるように全身を纏う筋肉。そのものが鎧のようであり、それでいてしなやかさも感じる、無駄のないカラダ。しかも虎。誰かの名言が迅の頭をよぎる。

 たしか『虎は鍛えるのかね』とかなんとかそんな感じのフレーズだった。生まれながらにして持ち合わせた体躯と強さに鍛錬など必要なし。暇あれば稽古に勤しむ迅にしてみれば矛盾なのだが、ここは男として思わず


「センパイ」


 声が漏れていた……


「んん? 」

「ぃやあ、センパイ。すげえ体っすね。背中流させてください」

「はあ!? 英雄にそんなことさせらんねぇよ」

「なにいってんすかぁ。こんな鋼の体みたら誰だって道行く魔獣、土下座しまくりっすよぉ」


 自然と迅のお調子者スキルが発動していた。


「そうかあ」


 まんざらでもないようで、すこぶる上機嫌になる虎獣人


「はあ。ただの筋肉ばかですよ」

「ああん? 」

「いえ、なんでも」



「センパーイ。めちゃくちゃ背中広いっすねー。あこがれるなぁー。ほらっラオも背中流してさしあげなさい」

「おっほほほっそうか。まあな。兄さんもいずれ、そうなるだろうさ」



 ひとしきり風呂を満喫し、ラオと一緒に出ようとすると去り際に虎獣人から


「兄さん、深紅の姉御によろしくいっといてくれや」


 ん? っと思ったが


「センパイ。ジンです」

「おう、ジン、待たなあ」


 と挨拶を交わして部屋に戻った。


 部屋には皆戻っていて、風呂上がりのくったりした感じを、楽しんでいるようだった。そしてなんと、夕飯が部屋に運ばれ用意されていた。

 まんま旅館じゃん。浴衣がないのだけが残念だったが。


 部屋に戻るのを確認すると全員が料理を囲むように座った。


「今日もお疲れ様でした。はい、迅さんどうぞ……」


 とマーナからコップと何かをつぎ足される。


「お疲れ様でした。酒? うわー久しぶりだよ」

「ふふふっ。そうです。宿が用意してくれました」

「うちらも久しぶりだよね」



 するとレンカが先導して


「はい。じゃあ、みんな今日もお疲れ様でした。そして、うちらの英雄、ホントはブラックザクローマも倒した大英雄さんにカンパーイ」

「はい。カンパーイ」

 チビッコ達からも飲み物片手にマーナにならうように


「「「かんぺーっ」」」


「ははっ。聞こえてたん……でしたっけね」


 それぞれが料理を楽しみにぎわいをみせる。大人たちのお酒がすすむころ、迅がそういえばという感じで



「虎のセンパイが、しんくの姉御によろしくって。レンカさんのことですよね」

「あの虎公。余計なこと……思い出させんなよぉ」

「迅さんっておもしろいのね。せんぱいって。ふふっ」




 しばらくしてレンカがキクリを呼ぶ


「キクリ、迅さんにお酒注いで上げて」

「うん……」


 大分酔ってきたのか、まぁキクリにお酌してもらうのも悪くないが……ぎこちない手つきでキクリがコップにお酒を……あれっ

 レンカが不敵な笑みを浮かべ


「ふふっ迅さん気づくのおそいっ! 」


 なんか違和感あるなと思っていて、その正体がわかった。


「どうしたの? それ」


 キクリの瞳が迅と同じ黒目になっていた。


「はい。キクリ」


 レンカの側によるとレンカはキクリの目の下に片方の手を広げ、もう片方の手で軽くキクリの瞼をさする。するとハラリと落ちるものがあり、元の青い目に戻っていた。


 ……カラコンかよ。あるん。この世界に。


「びっくりした? これは一体何でしょう」


 と、やや得意げにレンカが訊いてくる。わかるわけはない。



「蛇って瞼ないのしってた? 瞼にみえるのは透明な鱗。蛇は脱皮するからその鱗もとれるんよ。……こんな感じで」


 とレンカが瞼と目の間から、透明の膜のようなものを抜いた。 

 今あたしには普通に瞼あるんだけど、名残なんだろうね。それでここに熱を加えると、じゃん。キクリの黒目の出来上がり。


「すげえっ。それでエボーってわからないようにすんのか」

「まぁそんなとこ。今はまだ大丈夫だけど、これから街とかもっと賑わうとこ行くときはね。必要かもね」


 もともと目に入ってるものだから、違和感なしに装着でき使い捨てか。ははっ。なんでもありだな。


「やっぱり、あたしとキクリは縁あるんだよね。全種族でこんなの出来んの蛇種だけだから。へびしゅ・・・・だけだから」


 二回いって強調していた。


「ねーキクリ」


 とキクリをハグする


「レンカ……ママみたい」

「キャー。聞いた? 聞いた? きいた・・・? 」


 よっぽど嬉しかったのか、周りの迅らに確認するかのように相づちを促し、更にキクリにすりすりし始める。


「ミクルもー」

「おいも」


 と例の突撃アタック。


「そうそう、みんなもだーい好き」


 今日はレンカがモテモテ状態に、マーナも笑いが止まらない。迅も咳払いをしつつ


「んん。じゃあ俺はマーナさんに」

「えっ迅さん。やだ……じゃあ……」


 とまんざらでもないように頬を赤らめ手を広げ迎え入れる姿勢になる。

 えっ。マジか。冗談で突込み待ちだったんだが、成り行きでハグした。


「ちょっとー迅さん。じゃなくてマー姉。抜駆けなしでしょー。ほら、チビッコ達はもう寝なさい。これからは大人の時間よぉ」


 レンカも酔ってるのか。何とも男として嬉しい展開に調子乗らせてもらいましょうか。


「そうそう、大人の時間。二人で俺を奪い合いなさい」

「やーっ迅さん。ヘンターイ」

「はははっ」

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