第7話  新しい村での出来事

 迅はようやく初めての村に、一行と到着していた。

 けっこう大きな村らしく街に近い。一通り、生活に必要なお店、薬屋とかもあるとの事。


 まず、村長に挨拶に向かい村の近況と、獣人ミクル、鬼人ラオの親の件も含め情報交換をして、そのあと今夜の宿を決め、マーナ達は収穫物を卸しに向かった。迅とレンカは二人で剣を探しに村を歩いた。


 レンカは先の魔獣との交戦で替え時だったらしく、ついでに迅もいつまでも木刀では、ということに。近くに武器を売っている店があったので二人は入る。


 この世界の武具にも興味あった迅は、狭い店内にぎっしりと並ぶそれらをじっくり眺めていた。品ぞろえの豊富さが、身近な危険と隣り合わせの世界を想像させた。

 

 レンカは自分に合う剣を、店主と会話しながら探している。迅も使いやすさで日本刀に近い物を探す。


 ふと、店入り口に佇む人影が見え、目をやる。どこか紳士的で初老な感じのその人と目が合うと、口角を上げ微笑んでいる。

 迅も軽い気持ちで会釈をした。それを確認するかのように、紳士が迅の方へ歩み寄ろうとしたその時、店の奥から


「迅さーん」


 とレンカから声がかかり、返事とともにレンカの方へちょっと向き、もう一度入口を見ると紳士はいなくなっていた。あれっ……


 何とかレンカと迅の剣を手に入れることが出来、あらかじめ待ち合わせ場所に決めていた食堂に向かう。

 

 タイミングよく皆と合流すると、初の異世界食堂へ突入した。

 入ってみると時間も丁度なのか、結構な賑わいに溢れていた。奥の六人掛けのテーブルに座りメニューのようなものを見る。


 さっぱりわからないので、マーナから説明を受けて注文する。待ってる間、店の中を見てると、反対側の奥に剣士を含めた者達が三人いた。



「あそこは? 」


「はい。おそらく冒険者ですね」


「冒険者いるの? 初耳なんだけど」


「もちろんいますよ。彼らは魔獣討伐の専門家ですよ」


「そうそう、国の兵士だけでは賄いきれないからね。助かってるよねー」


「そうなんだ」


 存在が当たり前すぎて聞きそびれたのか。



 食事が次々と運び込まれる。いやぁ。どれもこれも見映えが食欲をそそる。揚げ物に炒め物。サラダにスープにこれはパンみたいなものか。期待以上の料理に舌鼓を打つ。


 食事を終え、宿に戻ろうとすると、先程店内にいた冒険者達が道脇で談笑していた。


 こちらをみて一人の男性が近寄る。

 もしかしたら、食堂から出てくるのを待っていたのかもしれない。

 男性はガタイの良い体つきで獣人だ。虎なのか、そんな面影と威圧感がある。


 背中にバカデカい剣を背負って、三十代くらいだろうか。めちゃくちゃ強そうな感じに若干怯む。


「こんちゃーす。旅してる方々だよね。俺ら冒険者トリプルバーンズのランドルってもんなんだけど、ちょっと聞きたいことあってさ。いいかい」


 見かけによらずフレンドリーな感じで、怯んだ自分を恥じる。


「あっどうも。こんにちは」


「どーもー!」


「こんにちは。それで、なんでしょう」


「ああ。実はね。俺らこの先のバルザン山脈に向かうんだけど、お宅らそっち方面から来たって聞いたんでね。あの山脈麓辺りに出たらしいんだよ。ディストラ壊滅級が。なんか知ってるかい? 」


「ディストラ級ならば三人では無理じゃない? 」


「そりゃそうさ。全く焼け石に水だな。そんなのいたら十倍の人数でいかないとな。ハハハッ。それが、ある日を境に情報が消えた。ってゆうか、いなくなっちまったらしいのよ。ほんとかどうかわからんからさ。いたら大変じゃん。それで偵察にきたわけよ」


「その魔獣の名前は?」

「ブラックザクローマ」



 迅はレンカが向けてきた視線を落とす。


「その魔獣はもういないよ。なんか海に向かっていったよ。ねぇ。マー姉」


「そうね。海に入って海果てまでいったんじゃないかしら」


「はぁ。マジか。まぁ。そうならそれでいんだけどよ。ただ、あーゆう級が、出るときってそれ以外にもあるからな。道中気をつけるこった。あんがとさん」

 

 訊くだけきき話すだけ話したら、片手を上げ『じゃあな』って感じで、速攻で待ってるパーティーの元へ戻っていった。


「あれのことですよね」


「そうね」


「最後の言葉ですけど」


「強大な魔力に当てられた他の魔獣が活発に動くとか、そうゆうことね」


 迅は、ふとカマキリのことを思い出しレンカに話す。するとレンカは顔色を変え、先程の冒険者の方へ走っていった。一瞬どよめきが起こったが、暫くしたら戻ってきたので


「どうしたんですか? 」


「カマンディスはつがいで行動するの。もう一体いるかもしれないから」


 と告げたそうだ。そうだったのか。内緒にするつもりはなかったが、話しておけばよかったと少し後悔した。


「迅さん、ほんとにカマ倒したの? あれヤバイ奴だよ」


 迅の肩を両手で掴んで、無事だったのが信じられないって感じて揺さぶる。

 知ってる。死んだと思ったから。


 宿に向かう途中、マーナとレンカに魔獣にはランクがあること。対峙したカマキリはA級でムカデはディストラ級らしい。

 A級でも上級騎士、上級冒険者四人は必要とのことだった。


 あのカマキリは偶然俺のとこに来たのだろうか。それなら問題ないが……



 旅館のような宿に到着した。。夕飯は宿が用意してくれるそうなので、それまでゆっくりしていた。それになんと風呂がある。素晴らしい。


 十二畳位の広いスペース一部屋で、畳ではないが、靴を脱いでくつろぐタイプの部屋だ。床には無造作に魔獣らしき革が敷き詰められている。これが、適度な弾力をもっていて悪くない。


 チビッコ達は部屋でゴロゴロ寝そべり出す。

 めずらしくマーナ、レンカも足を伸ばし横になっていた。無防備な姿に、みんな自分に気を赦してきた証ともいえ、迅も倣って横になった。


 迅は天井を見つめ、も少ししたらラオ誘って風呂行こうって思っていた。そいえば風呂ってどんなん。露天風呂なのか。混浴ってことはないよな。と変な妄想が広がりそうだったので、体を起こした。


 皆すでに起き出していて、マーナは部屋隅に置いてあるテーブルでお茶を入れていた。迅はマーナ、レンカの対面の椅子に腰掛ける。


 迅はお茶を頂きチビッコ達を見ながら考えていた。少し前から思っていたが、キクリの見えないチカラって超能力のことじゃないだろうか。それとなくレンカに話を振ってみる。


「キクリのチカラって、魔獣を見つけることじゃないですか? 」


「そんなことできないわよ」

 

「いやだって、ナナ坊みつけたのキクリですよ」


「たまたま見つけたんじゃない? 」


「いやいや、ミクルとラオもわかってるような連携でしたけど」


「……ちょっとみんなきて」


 レンカがチビッコ達を呼び寄せる。


「ナナ坊みつけたのってキクリなの? 」


「そだよー。キクちゃん見えるときは何かあるよ」


「んだんだ。へへっ」


「ちょっと何でその話言わないの? 」


「なんでー? 」


「キクリ、そうゆうのなんか見えたりするの? 」


「うん……」


「訊いたことなかったんですか? 」


「なんか……触れないようにしてた。訊くのが怖いっていうか」


「レンカ……こわいの? 」


「ううん、そうじゃないのよ」


「マーナさんもですか」


「私は……レンカにまかせてるというか、レンカ差し置いていろいろ聞くのは違う気がして……」



 事情があったんだろう。確かにキクリは繊細な感じがする。


 そうかなるほど、チビッコ達には当たり前のことになっていたんだろう。単純に、当たり前のことすぎて、訊かれなかったからいわなかった。さっきの冒険者を知らなかった俺と同じだ。勝手に、そうゆうことは言ってくれると思い込んでいた。



 レンカがあらためてキクリの目を見て訊いてみる。


「キクリ、見えるってどんな感じ」


「なんか……わかる」


 透視みたいなものか。超能力って詳しくないけど、あとなんだっけ、もの動かすサイコキネスとかテレパシーだっけかな。

 迅は一考し、テーブルの上のコップを手前に寄せ話しかける。



「キクリ。これ動かせる? 」


「うん……どこに? 」


 マジか?!



「うん。じゃあマーナの前に」


 するとキクリは迅のもとに小走りに寄り、コップを手に取りマーナの前に置いた。



「………………いや」


 ごめんよぉキクリ、俺の話し方がまずかった。


「ちがうの? …」


 いわれたとおりのことをしたキクリが迅を見つめた。レンカとマーナからもそれぞれ


「迅さん、何ですか今の? 」


「ジーンさん、わかんない。どうゆうこと? 」


「いや、ごめん。間違い。っていうか説明不足」


 キクリの頭を撫で、それから頭を下げ、一から超能力というものを、マーナとレンカに知る範囲で説明した。


「そうゆうチカラがあるのね」

「不思議ねー」


 いやいやいや、魔法とか、あんたらのほうがめっちゃ不思議だから!


 結局キクリは、チカラでコップを動かすことは出来なかった。条件とか年齢とかもあるのかもしれないが。



 迅は、一旦気持ちを落ちつかせ、次に核心をつく質問をしようと思っていた。

 

 その前に、この場をもう少し暖める必要がある。それは質問の答えが、迅の思っていることと合致してた場合、万が一にも責任というものを感じさせてしまうことは、本意ではないからだ。責任を感じる年頃なのかはわからないが、少しでも要因を省く方法を選んだ。


「いやあ、それにしても、俺はここの世界に来て恵まれてるなぁ。こんな綺麗な人とこんなグラマラス美人の二人と、こんなめちゃんこかわいいチビッコ達と楽しい旅ができるんだからなぁ。ほんとこの世界に来てよかった」


 突然始まった小芝居に


「ふふっ。どーしたの? 」


「まぁ。本当ですか? ってグラマラスは私のことではないですよね? 」


「ミクルもーっ」

「おいも、へへっ」


 とミクルはその場で飛び跳ね、ラオも四股を踏むような感じで踊り始める。


 迅はまた勘違いのないように、次は身ぶり手振りで訊いてみる。


「ははっ。それでさぁ。この楽しい世界に呼んでくれたのはキクリかな? 」


「わたしが……呼んだの? 」


 んーむ。伝わってないか。


「いや、ここに。みんなの前に。……あのとき怪獣の前にポンっと俺を出したのはキクリなのかなぁって! 」


 いや、俺がテンパってどうする。怪獣っていっちゃったよ。



「ちがうよ……わたしじゃない」


 伝わったか。って違うのか?! えーっほとんど確信に近いくらいの予想にその答えか。ますますわからん。

 と一人思い耽ってると、キクリはずっと迅を見つめていたようで


「ジンはみんなと一緒で……嬉しいの? 」

「ん。ははっ。もちろんさ」

「わたしも……」


 その言葉と一緒に抱きついてきた。


「あら。キクリかわいいっ」

 レンカがキクリの頭をなでると『ミクルもー』『おいもおいも』とまたチビッコ二人が突撃してきて


「だから、ラオ痛いんだって! 」


「もう迅さん、びっくりしちゃった。キクリが呼んだなんて」

「ほんとうよねー」


 笑顔をみるに勘のいい二人は、小芝居の意図を察してくれたようだった。


「それでグラマラスがなんですって。好きなんですかそうゆうの」

「好きだよね グイグイしちゃうからー」


「ははっ」


 察してくれたんとちゃうの?!

 

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