第10話  激戦 ①

 カマンディスペラド討伐参加の意向を示したジン一行は旅館で待機していた。


 トリプルバーンズの、もう一人がガントといい、かなりの範囲の探知魔法を使えるとかで動きがわかり次第連絡をよこすことになっている。



 迅と蛇種族のレンカは手に入れた剣の具合を確認し、エルフのマーナも弓と矢の手入れ。

 そういえばマーナは治癒魔法を使えるらしい。精霊の加護らしいが。他に妖精魔法があるらしいが、詳細は聞けなかった。レンカは攻撃魔法を、複数もってるとか。


 その時が来る。連絡が来て馬車で迎えに来るそうだ。

 

 出発前にチビッコ達を一時村長さんか、宿に預ける案も出したが連れていくとのこと。


 どこにいても危険に遭うときは同じで、何かあったとき、そばにいなかったときの方が後悔する。チビッコ達もいずれは、この世界で生き抜くために、遅かれ早かれ必要だとのこと。


 それに精霊魔法で結界をつくり、いつ危険が及ぼうとも対応できるようにするらしい。


 確かに自然界では一、二年で親元離れるのは珍しくはないが。



 到着した馬車に乗り込む。迎えはエルフのクリスだけで、他の二人は探知場所に向かっているそうだ。




 村から大分離れてきたことがわかる。平地が少なくなり道も狭く荒くなってきた。


「そろそろ近いですね。皆さん準備を」


 馬の手綱を引きながら、クリスが一向に告げる。


 迅が緊張とともに、チビッコ達に目をやる。

 チビッコ達なりにわかってるようだ。子供ながらに真剣な表情をみるのは初めての事。

 守る。と力強く念じた。


 馬車も走れないような場所につき、そこから雑木林を歩いて向かう。




 聞こえてくる。センパイの声だ。


「オラオラオラァーっ」


 金属同士がぶつかる音が響く。


 見えた。真っ只中のその戦いに迅は目を見開く。



 虎獣人のランドルが、雑木林の向こう数十メートル先で、岩場を背にした魔獣カマンディスペラドと戦っている。

 ガントが、そのやや後ろで魔法を繰り出し、攻撃を放っていた。


 カマンディスぺラドの異形な姿に驚く。迅と戦ったものより一回り大きく羽を逆立て奇声を発し、全身が赤く紅潮していた。


 ランドルの剣撃は、カマンディスぺラドの両腕の高速の鎌にいなされ、その鎌を剣で受ける。ガントが放つ火球のようなものも、鎌ではない手足に防がれていた。

 奇声がとまる。


「来るぞ。さがれ」


 同時に、ガントから防御らしき魔法陣が、ランドルとガントの前に現れ身構えた。




 あれ魔法なのか?


 カマンディスペラドの口から、緑色の光線のようなものが放たれる。それはランドル、ガントの魔法陣によって弾かれた後、地面や草木を黒い焦げとともにエグる。


 この攻防の間に、迅ら一行とクリスは戦いの場に走り出していた。

 クリスは走りながら弓と矢に、魔法を纏わせ前方の二人に叫ぶ。


「ランドル、ガント、『三楔結鋲サンケツ』」


 叫ぶとともに三本の矢を束ねて上空に飛ばす。

 クリスの言葉にそれぞれ反応し、ランドルは『オオオっ』の言葉と、腕、肩、背中の筋肉が一回り大きく膨れ、ガントは目の前に、頭サイズの赤い球をつくり出す。


 三本の矢は、最高点に達するも勢いを殺すことなく、カマンディスぺラドの周り三点に突き刺さる。矢から黄色の線のような魔法が渦のように立ち上がり、動きを封じるように絡みつく。


 すでに並行して放たれたクリスの別の矢が、真っ直ぐ一直線にカマンディスぺラドに向かう。


 カマンディスぺラドとクリスの矢の射線上に、ガントが赤い魔力玉を放り、矢がその赤玉を、吸収するように、くぐると同時に、破裂音だけを残し、超加速し、見えない矢がカマンディスぺラドの胴体を狙う。


 超反射で両腕の鎌で身構えるが、金属を断ちきるような音とともに鎌を掻い潜って矢が胴体を貫いた。


 雄叫びをあげ、更に暴れ始めようとするが、クリスが指を鳴らす。すると、絡めていた魔法の線が消え、それに合わせて、ランドル渾身の剣が横なぎに首を刎ね、返す刃で袈裟懸けに両断した。


 迅がランドル達のそばまで駆け寄るまでの、一瞬の攻防で、カマンディスペラドとの戦いは終わる。

 へっ。終わったの? すげっ。すげぇー



 迅らが駆け寄った時には全て終わっていて、声をかける。


「センパイ凄ぇっす。流石っす」


 ランドルは息を切らしつつ


「おう。ジンか。着いたか。まっこんなもんよ」


 その息遣いから、迅らが到着するまで、相当な攻防が続いていたことが予想できた。マーナもクリスに労いの言葉を掛けている。


「お見事です」


 それにしても凄かった。連携がすごい。どれほどの時間であの呼吸を合わすことが出来るのか想像するに、このパーティーを尊敬せざるを得なかった。


「怪我はありませんでしたか? ランドルさん、ガントさんすぐ治癒します」


 マーナが負傷の有無も確認せず、二人に歩み寄る。双方大きな怪我もなく、すぐに治癒を施す。

 レンカはカマンディスぺラドの亡骸を見て、ガントに目をやる。


「はい。来ます」


 ガントがマーナの治癒を受けながら、探知魔法を繰り出しレンカに答えた。

 マーナは即効性の簡単な治癒魔法を即座に終えると、レンカと目を見合わせている。

 レンカが、緊迫したような表情で


「くっ。場所変えるよ。急いで」

「どーした姉御? 」

「バカ。みてわかんない。この場所ヤバイよ」

「迅さん、子供達つれてあそこまで走ってください」


 迅はわからなかったのだが、雑木林がこの場所を、窪地であることをわかりずらくしていたようで、マーナに従い急いで言われた少し登った高台へと全員で向かう。走りながらマーナとレンカが話しだす。


「罠。っていうわけでもないけど、こうゆう展開も予想していたって感じかねー」

「そうね。……クリスさん、『五条の集』つかえますか? 」

「はい……」

「いいでしょう。そのときが来ることも予想していてください」

「……はい」

「虎公、復活したかい。やるよ」

「へっ。完全復活よお」

「来ます。特大魔力反応」


 窪地を抜け出す前方の雑木林から、何者かが近づいてくるのが見える。 

 見ると人らしき一人と、両脇に魔獣を引き連れて。その男はこちらに歩みを止めることなく話始める。


「おやおやおや。皆さんおそろいで。結局こうなりましたかね。狩りの再開ですよ」


 男の声に反応した両脇の魔獣が、こちらに向かって突進する。


「なんだあれは? 」


 迅は向かってきた異形に巨大化したものを把握する。蜂だ。スズメバチの魔獣。五メートルくらいの巨躯を感じさせない速さで飛び立つ。威嚇するかのように迅らの目の前で、耳に不快な音を立てながら、上空に向かい旋回を始める。


「A級二体、それと魔人一体」


 マーナから全員へと声が響く。


「魔人だとっ! 」


 ランドルの声と同時に迅も思う。

 魔人といわれたあれは、迅が武器屋で会った紳士だった。

 あの時と同じように、口角をあげ不適な笑みを浮かべている。


「あれが使役者か」


 とにかくスズメバチはヤバイ、チビッコ達を高台に並び立つ林の影に一ヶ所に集めた。


「迅さんそのまま、そこにいてください」


 というや、マーナは迅を含めた・・・・・チビッコ達の周りに、四色のガラス玉のようなものを投げ落とす。

 そのガラス玉から天の方へ青白い線が伸び、中空で交差すると青白い四角錐状の、薄い透明の膜となり結界完成となる。


 だが、迅はとっさにその結界完成する直前に、その外に飛び出した。


「迅さん!何やって?! 」

「大丈夫。俺は死なない」


 チビッコ達を守る何らかが起きるだろうと踏んでいた迅は、予想通りの展開にすぐさま反応した。


 間違っても足手まといにはならない。

 それよりもあの魔人といわれた男が気がかりだった。


 クリスは、一体のスズメバチの魔獣に魔法を纏った矢を放っている。カマンディスぺラドの時とは勝手が違うようで、上空を縦横無尽に飛び回る魔獣を、捉えることは難しいようだった。


 もう一体のスズメバチの魔獣は、上空で、標的を決めたかのようの急降下し、ランドルに向かっていく。



「センパイっ! 」



 物凄い早さでスズメバチの魔獣は、ランドルに体当たりまがいに突っ込み、衝突の瞬間に合わせて、後方から巨大な針を前方に向けていた。ランドルは反射的に大きな剣の横腹で、それを受ける。ランドルの巨体が体ごと弾け飛ぶ。


「ぐおおっ!! 」


 だが、弾かれるも転倒はせず、何とか両足で地面を擦りながらも踏ん張る。



「こりゃあ、熱い展開だゼエ」


 余裕かハッタリかはわからないが、笑みをこぼすランドルに頼もしさを感じた。迅はランドルの無事を確認すると、横目でレンカを見ながら、マーナのもとへ走って向かう。


「虎公、下がってな! 」


 レンカがランドルに声掛け、走りながら早九字のようなものを唱える。

 唱えると同じタイミングで、剣を含めた九ヶ所に魔法が発現し、体も薄黒く変色し始めた。


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