ぐーたらおししょーは、文殊の知恵を借りる。


「スゲェ威力だな」


 射程といい速度といい、あんな武技は見たことがなかった。


「ていうか、風の槍術士なんじゃねーのか? なんで炎?」


 丘の裏で潜んでいる間にも、周りでボンボンと爆発が起こり、そのたびに熱風が吹き付ける。


 しかし槍の武技は曲射……矢のように弓なりに放てるものではなく、直線攻撃しか出来ないようで、今のところは安全なようだった。


 どうやら言葉通りにゾンビどもも吹き飛ばしているらしく、こちらを狙うというよりは、どちらかと言えば無差別攻撃に近い。


「レイザーは天才だからねー♪」

「いや、全然説明になってねーんだけど」

『アイツが神童って呼ばれてる理由はな……複合魔法の理論を、武技として使えるようにしたからなんだよ』


 自分たちに害がないことを認識しているのか、相変わらずのほほんと答えるカノンに対して、ブレイヴは難しい顔をしていた。


「魔法を、武技に? ……俺の黒い木刀と似たようなモンか?」

『ちと違うな』

「複合魔法はねー、ウィズが得意なんだよー♪ 練り上げた魔力と、魔法を放つための媒体、それに紋を掛け合わせて初めて出来る高等技術だよ♪」


 聞くところによると、その複合魔法自体が、理論も違う属性を調和させることも異常に難しいらしく、カノンにも出来ないらしい。


『レイザーはな、それをやってのけた』

「だから天才なんだよねー♪ あ、ちなみに理屈も誰にも分からないよ♪ ウィズの複合魔法を見て、ある日突然『出来た!』って言ってたから、本人にも説明出来ないの♪」

「何だそれ」


 規格外過ぎるだろ。

 それが、ティーチの率直な感想だった。


「炎と風の複合武技、アレ、味方だとめっちゃ頼りになるんだけどねー♪」

「対策とか突破方法は?」

「レイザーが疲れるまで、待つくらいかなぁ?」

「こっちに、まぐれ当たりがねーことを期待するしかねーのかよ……」

『アイツ飽きやすいから、ゾンビ焼き払うのに飽きたら出てくるんじゃねーか? ただ、近接戦闘もめちゃくちゃ強いぞ。正直、魔法なしで手合わせしたら、オレ勝てねーし』

「聞けば聞くほどあり得ねぇ……!」


 ブレイヴ以上の技量に、唯一無二の超遠距離攻撃、相手の方が圧倒的に有利な状況という三重苦である。


「……こっちもカノンの遠距離攻撃で対応するのは?」

「あはは、ムリムリ。カノンは広範囲を薙ぎ払うのは得意だけど、あそこまで攻撃届かないし、そもそも《地壁グラウォル》も貫かれるもん♪ 相性悪すぎて♪」


 地の属性は、風属性が弱点だからだろう。

 聞けば聞くほど不利な要素しかない。


「……よし、逃げるか」

『なんでそーなるんだよ!?』

「『三十六計さんじゅうろっけい逃げるにかず』って言葉知ってるか? 打つ手がない時はあれこれ考えるより逃げるのが得策って意味だ」

『逃げてどーすんだよ!?』

「追いかけてくるのを待つとか」

『追っかけて来なかったらどーすんだよ!』

「これ幸いってやつだな」

『ぶっ殺すぞ!』

「じゃあどーすんだよ!? 八方塞がりだろうが!」


 そもそも、ティーチの攻撃は届かない。


『あれ吸収しろよ! 風の鎧なら攻撃手段あんだろ!?』

「触れた瞬間爆発する上に、紋術の防御も突破するようなクソ速い上に目に見えない貫通武技を吸収しろってのかよ!? 失敗したら死ぬぞ!?」


 無茶苦茶言いやがる。

 そう思っていると、スートが口を挟んできた。


「おししょーならやれますー!!」

「根拠は?」

「バカレイザーなんかに負けるおししょーは私が見たくないからですー!! ボコボコにして欲しいですー!!」

「めちゃくちゃ私情じゃねーか!」


 ジタバタするスートの言葉は、何の根拠にもなっていない。

 

「ハッハー! 出てこいおししょー野郎! 雑魚雑魚かー!?」


 相変わらずボンボンと鳴り止まない炸裂音の隙間から、レイザーの煽りが聞こえてくるが、何を言われても無理なものは無理である。


「てか俺、なんであんなに敵対心を燃やされてるんだ?」


 大した絡みもなかったのに不可思議だな、と思っていると。


「あの子、スートのことが好きだったからねー♪」


 カノンがとんでもないことを、あっさり暴露した。


「ふぇ!?」

「そんな理由なのかよ!?」

「あの子ガキだもーん♪ 好きな子にはイジワルしちゃうし『おししょー』に取られた時は、それはもう凄かったよー♪」

『テメェ、カノン……そういうこと言ってやるなよ……』


 ブレイヴは暴露に苦い顔をして、スートは思いがけないことだったのか顔を真っ赤にしている。


「……いやでも、その話自体は面白ぇな」


 他人の色恋沙汰ほど、酒のさかなになる話もない。

 アゴの無精ヒゲを撫でながら、ティーチはちょっと……いやかなり興味津々だった。


「どうやって説得したんだ?」

「おお、おししょー!?」

『今、そんな話してる場合かよ!?』

「あのねー♪」

『テメェも話そうとするんじゃねぇ!』

「仕方ねーな。後でじっくり聞くか」


 この場で聞くのは諦めて、ティーチは思案する。


「あの武技さえ吸収出来りゃな……」


 そして可能なら、炎の性質ではなく風の性質を吸収したい。

 ブレイヴの言う通り、風の鎧なら遠距離攻撃が出来る様になるからだ。


 その上で聖気を叩き込む方法を考えなければならないので、課題は山積みだが。


 レイザーの基本属性が風であることを考えれば、爆発の前に吸収出来たら狙い通りに行くはずだ。

 が、吸収に失敗すれば、風の一撃に貫かれて一発で死ぬ。


「どうにか、風の攻撃の軌道か、レイザーの技の起こりをハッキリ見る手段がありゃ話は違うんだが」


 ティーチは、《武技吸収アビリティドレイン》から【纏鎧】を発現するまで、身を守る手段がほとんどない。


 その為、木刀による『さばき』と、動きを観察することによる『見切り』を鍛えていた。

 

 活かすには距離が遠過ぎるのだ。

 するとそこで、レイザーの攻撃にビビりまくって小さくなっていたアーサスが顔を上げる。


「あのー……見るだけで良ければ、僕の武技でなんとかなるかも……」

「お、そうなのか?」

「うす。《追跡ダートレ》の応用で《凝視ダースタ》ってのがあるんすよ。一人の動きを追い続けることしか出来ないんすけど、止まってる相手なら……」

「俺に使えるのか?」

「そこなんすよね……僕が見て合図を出すにしても、タイミング難しいすし……」


 不確定だが、多少はマシになる、といったところだろうか。

 それで一度試してみるか、とティーチが考えたところで、ブレイヴが口を開く。


『いや、それが出来るなら、オレの聖魔法でなんとかなるかもしれねー』

「そうなのか?」

『おう。カノンの洗脳が解けた時点で、少し力が戻ったからな』

「あ、《共鳴セントシン》のことかな♪」

『そうだよ。補助魔法や強化武技の適用範囲を広げたり、離れた位置で連携取ったりするための魔法だ。今のところ、意識の共有か、魔法の適用のどっちかしか出来なさそうだが』

「そいつを使えば、イケるな」


 アーサスの《凝視ダースタ》を、ブレイヴの魔法でティーチに適用してもらえばいい。


「よし。やってみるか!」

 

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