おししょーは、嫌な予感を覚える。
「うぇえええええええ!? ゾンビーーーーッ!?」
昼食を終えて歩き、辺境伯直轄の街が小高い丘の上から見えたところで、スートは悲鳴を上げた。
「うん♪ この辺は血が流れた土地が多いから、死霊系が多いって言ったでしょ♪」
「いや、だからって言っても、これは中々ヤバくないすか……」
カノンが腰に手を当てて、街の周りを見回す横で、アーサスも頬をひきつらせている。
『あー、テメェにしてみたらそうかもな。死霊系に闇の技は効果薄いし』
「そういう問題じゃないっす……」
正直、ティーチにしてみても予想以上だった。
街の周りは開拓の途中なのか元々なのか、丘と地続きの平原になっているのだが……。
「まぁ、壮観だな。見渡す限りゾンビの群れか」
その平原の地面が見えないくらいに、動物から人間から魔物が死霊化したものまで、様々なゾンビがひしめき合っていたのである。
「よくあの中から出てこれたな、カノン」
「虎ゴーレムに乗ってたら関係ないからね♪ 轢き潰して出てきたよ♪」
「なら、こっからもそれで行こうぜ」
「気持ち悪い話しないで下さいーーーー!!! いやーーーー!!! あれの中を突っ切るなんて冗談じゃないですー!!!!」
聖騎士のくせに、死霊系の魔物が苦手なスートがうるさい。
「いやでも、突っ切らねーと街に行けねーぞ?」
「そうだよー♪ それに、そろそろ退治しないと流石に中に食料運ぶことも出来ないしさー♪」
「……そういや、なんで退治しなかったんだ?」
「ブレイヴの体を乗っ取った魔王にダメって言われたから♪」
大変分かりやすい理由だった。
「別に支配するのが目的、ってわけでもねーのか……」
籠城させて餓死を狙うのも、常套手段ではあるとは思うが……そんな周りくどいことせずとも、この国の玉座を取った時点で滅ぼせそうなものではある。
不思議に思っていると、ブレイヴが肩の上で吐き捨てた。
『あのクソ魔王は、人間が苦しんでるのを見るのが好きなんだよ』
「そうなのか?」
『多分な』
「ただの予想かよ」
ティーチは呆れつつ顎の無精ヒゲを撫でつつ、改めて街に目を向ける。
辺境伯直轄の街を直接目にしたのは初めてだが、分厚い土を積んだような壁が街の周りに
それだけでも壁として機能しそうな土台の上に、さらにレンガで出来た壁と物見塔、凹凸のある上端部が見える。
「あの壁が凸凹してるのはなんだ?」
「弓や魔法を撃つための隙間だね。ああすることで、防戦能力が上がるんだよー♪」
「へぇ。お、何か動きがあったぞ?」
物見台の上にいた兵士が、こちらを指さして何かを下に怒鳴ると、今言った壁の隙間から何人かが顔を覗かせた後に、慌ただしくなる。
「……なんだ?」
「んー、多分、カノンが見えたからじゃないかな♪ 一応これでも辺境伯だし♪」
「ああ、そういやそうだったな」
彼女は明るく魅力的な女性ではあるが、威厳などというものはカケラも感じないので忘れていた。
「あの壁の向こうはどうなってるんだ?」
「壁の厚さより少し狭いくらいの廊下があるよー♪ 人が二人すれ違えるくらいの♪」
「結構分厚いな……」
高さといい幅といい、そして両端が見る限り、近くに行くと両端が霞むくらいの長さがありそうに見える。
あれが街全体を覆っているというのなら、中の広さは想像もつかない。
「もし攻めようと思ったら、めちゃくちゃ苦労しそうだな」
「あれ、カノンが土台を作ったんだよー♪ 紋術で結界も張ってるから、結構強い魔法でも壊れない鉄壁だよー!♪」
「マジかよ……」
その壁自体もヤバすぎる代物だったが、作ったカノンも大概ヤバい。
よく勝てたな、俺、と思っていると、ブレイヴが気楽な調子で口を開く。
『ま、攻めるようなことにゃならねーけどな。中の住民まで皆洗脳されてるわけじゃ……』
ねーし、と続けたところで、壁の凹凸の凸の上に、誰かがバッと飛び乗って姿を見せた。
小柄だ。
目を細めてジッと見つめると、どうやら手に長い槍を持っている。
「子ども、か?」
少年のように見えるその姿に、ブレイヴとスートがピタッと動きを止めた。
「子ども……?」
『それに槍……オイ、まさか』
二人の言葉に、カノンが額に手を当ててそれを見ながら、ニコニコと口にする。
「あ、レイザー♪」
『「やっぱり!?」』
「レイザーって……元勇者パーティーの?」
先ほど話に出てきた、風の槍術士の名前だ。
「なんでここに!?」
『まさか、魔王の野郎……!』
「もしかして、カノンが負けたから派遣されてきたのかな〜?♪」
嫌そうなスートと、戦慄するブレイヴと、呑気そうなカノンがそれぞれの反応を見せたところで、風が軽く吹き、それに乗って拡声された声が届く。
声は、大きく槍を振る少年の動きと連動していた。
『よー! カノン! それにそこにいるのは、もしかして雑魚スケかー!?!?』
ーーー雑魚スケ?
威勢の良い彼の言葉を受けて、ブレイヴとカノンがスートを見る。
『呼ばれてんぞ、スート』
「あはは、あんなところからよく分かったねー♪」
その言葉に、スートはぶんぶんと首を横に振って、泣きそうな声で言った。
「やっぱり言ったー!!! 私は、雑魚スケなんて名前じゃないですー!! バカレイザー!!!」
言い返すスートだが、ティーチは正直、嫌な予感しかしていなかった。
操られている元勇者パーティーの少年。
カノンが作り出しためちゃくちゃ固くてデカくて高い壁。
そして、その外周にみっちりいるゾンビ。
ーーーまさか。
『ていうか、これもしかして。レイザーをどうにかした上で、ゾンビどもとあの壁突破しないといけねーんじゃ……?』
「嘘だろ……」
ブレイヴが嫌な予感を言葉にして呻くのに、ティーチは軽く冷や汗が頬と背中を流れるのを感じていた。
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