ぐーたらおししょーは、辺境伯直轄地に着く。
一度村に戻り、結界によって魔物を寄せ付けないように計らった後。
ティーチたちは、最初に隣街に向かうより遥かに短い時間で、辺境伯の街の近くにたどり着いていた。
「……めちゃくちゃ便利なモンだなぁ、ゴーレムって……」
「そうでしょ♪」
カノンが作り出した巨大な虎型の土人形。
その背中に乗って、ティーチたちは村への往復と辺境伯直轄地への旅程をわずか二日で消化したのだ。
疲れ知らずで動き続けるゴーレムに乗って移動したおかげで、魔物もほとんど相手にせずに済んだのである。
「レイザーがいれば、もっと楽なんだけどね♪」
「そうなのか?」
「うん♪ あの子は《風》の力が使えるからね♪」
レイザーというのは、確か、勇者パーティーで槍術士を務めていた少年の名前だった。
スートとさほど変わらない年齢ながら、神童と呼ばれるほど武術に優れている、と聞いている。
「レイザー……」
なぜか、スートが微妙そうな顔をする。
何かあるのか? とそちらに話題を振る前に、ブレイヴがカノンの言葉に同意した。
『カノンは昔から、風だけは苦手なんだよな……』
「元々の適性が土だからねー♪ 相性悪いんだよ♪」
片目を閉じながら、カノンは得意げに胸を反らすが、それは自慢するようなことなのだろうか。
地水火風の四属性。
それらは相関相剋(そうかんそうこく)の関係にあり、地は水に、水は火に、火は風に、風は地にそれぞれに強い。
それに聖と闇の相反関係を加えた六属性が、武技や魔法の基本なのである。
「その風の力が使えると、なんかあるのか?」
「この子が空を飛べるようになるよ♪」
風の魔力をゴーレム生成時に加えることにより、翼が生えるらしい。
翼があるだけで虎に似せた土の塊が空に浮くとは思えないのだが、おそらくは浮遊魔法的な特性を獲得するのだろう。
確かに、空を飛べればさらに速いだろう。
ブレイヴたちが世界を駆け巡れた理由にも納得した。
ーーー知らないことが、世の中にゃいっぱいあるもんだ。
ティーチはそんな風に思いつつ、周りの平原を眺めながら、カノンに問いかけた。
「ていうか、俺と戦った時に、何でこのゴーレムを使わなかったんだ?」
「え? せっかく|戦う(あそぶ)なら、自分でやったほうが楽しくない?」
「……そんな理由だったのか?」
もしこいつを使われていたら《武技吸収(アビリティドレイン)》を使えず、かなりマズかったのだが。
ティーチが吸収出来るのは、直接ぶつけられた力の塊だけだからだ。
しかしカノンは、ポニーテールを揺らしながら首を傾げ、キョトンとした表情を浮かべる。
「他にどんな理由があるの?」
ーーー洗脳されても、本当に性格そのものは変わらないらしいな。
これまでの道中や今の彼女の言動から、ティーチがそんな風に思っていると。
『だから言ったろ? カノンは調子に乗せたらやりやすいってよ』
「昔から変わらないですねー!」
さほど関わりがなかったので知らなかったが、ティーチは口々に言うブレイヴとスートを見て、納得した。
「……まぁ、お前について行こうと思う奴は変人だらけだってことは、薄々察してたけどな」
『うるせぇな! テメェも大概変人だろーが!』
「おししょー! どーゆー意味ですかー!! お口が悪いとお昼ご飯抜きにしますよー!?」
「お前もたいがい俺を罵倒してるのに、理不尽だと思わねーか?」
「全然思わないですー!! おししょーがダメダメなのはただの事実ですー!!」
何の屈託もなく満面の笑みで言われて、ティーチは口をへの字に曲げた。
まるで自分は変人ではないと言いたげだが、それを口にすると本気で昼飯を抜かれかねない。
口は災いの元なので、ギリギリで止まるのは大事である。
一言多い性格は直らないので、たまに先日のようにスートの怒りに触れて酷い目に遭うが。
『ヒヒヒ。形無しだな、おししょー』
「調子に乗るなよ毛玉。踏み潰すぞ」
『やめろ!』
笑うブレイヴを、目を細めながら踏んづけると、彼は本気で焦った声を上げる。
「何でもいいけど、お昼食べるならこの辺で早めに食べた方が良いと思うよー?♪」
「しょ、食欲ないんすけど……おぇ……何でっすか?」
虎ゴーレムの額に描いた紋を手で擦って消し、土塊(つちくれ)に戻しながらカノンが言うのに、虎に乗っていて酔ったらしいアーサスが、青い顔をしながら問いかける。
「ここから先はねー、魔物うじゃうじゃ地域だからー♪ 街の壁から誰も出れないくらいにねー♪」
「……瘴気の影響か」
『だなぁ。多分核になってたカノンがいなくなったし、増えてるってことはねーだろうが、消えてなくなるもんでもねーしな』
魔物大量発生(モンスターハザード)の影響は、村の辺りではあまり感じられなかったが、それはあくまでも聖気が強い地域だったからだ。
「この辺りは、昔、隣の国と戦争してた影響で死霊も多いしねー♪ 土の気が強いから、カノンは調子いいけどー♪」
辺境伯領地は、隣の国との国境を守護するから辺境と呼ばれているのだ。
かつ、武の強い者や王の血縁に近い者が辺境伯に封じられるのは、先陣を切って戦闘する『国の壁』だからである。
「なら、飯にしよーぜ。……ていうかアーサス、お前二日間ずっと乗り物酔いしてたな」
「なんか……動いてるもんに揺られるの、慣れないんす……うぇ……」
ヘタレな性格といい、ずいぶんと弱点の多い暗殺者である。
「休んでて良いけど、吐くなら向こう行けよー」
「うっす……」
フラフラと近くの岩に向かうアーサスに少し同情しつつ、ティーチは煮炊き用の枝を集めるために、周りを散策し始めた。
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