ぐーたらおししょーは、愛弟子に背中を揉まれる。
「あー、なるほど。カノン、操られてたのねー♪」
『いや、笑い事じゃねーんだけど!?』
あっはっはと手を叩くカノンに、ブレイヴが噛み付くように突っ込んだ。
全部終わってから、飛んで来たフリをして現れた街を管理する貴族を、カノンがしっしと追い払い。
壊した家屋や宿の人たちに、辺境伯の財産で建て直す約束をしてから。
宿を変えて、部屋の中で事情を説明したのだが、彼女はノリが軽すぎた。
「何、意識だけじゃなくて体まで乗っ取られた間抜けなのに、カノンのこと言えないじゃーん♪」
『オレは自分で気づいたんだよぉ!!』
「五十歩百歩だろ……」
「おししょーが珍しくまともなことを言ってますー!!」
この弟子も、大概失礼である。
「てことで、ちょっと一緒に村まで行って、魔物だけ入れないように結界を張って欲しいんだが」
「お安い御用だよー♪」
ビッと親指を立てるカノンに、ブレイヴがため息を吐く。
『まぁ、上手く行ったからとりあえずは良いけどよ』
「俺はこのしんどいのが後何回続くのか、と思うと、もう村に引き篭もって寝ててぇけどな……」
自分で言って、ティーチはポン、と手を叩く。
「そうだよ、どーせ俺を殺しに来るんなら、ブレイヴもカノンも村にいりゃ勝手に寄って来んじゃねーの?」
『相手が準備万端整えて来たら、勝てねー可能性が高くなんだろが!?』
「辺境伯の街の周りには、うじゃうじゃ魔物がいるよー♪ 放置してたら、ティーチの村以外全部滅ぶかもー♪」
「ウィズさんとかブレイヴさんのお妃様どうするんですかー!! 他のパーティーの人たちも!!」
「ただの冗談じゃねーか……」
総ツッコミを受けて、ティーチはうんざりした。
「大体お前らのせいなのによー……なんで俺が責められんだよー……」
ゴロン、とベッドに横になると、スートがすすす、と近づいて来た。
「お疲れ様ですよー! 肩をお揉みしますねー!!」
「おー」
寝転がるティーチの背中に乗ったスートに指先で背筋を押されると、絶妙な力加減で心地よい。
すると、枕に顔をうずめていて見えないが、それまで黙っていたアーサスがボソボソと言った。
「あー、まぁ、こんな至れり尽くせりの生活してたら、そりゃ村から出たくないっすよね……」
『人が政治とかで忙しくしてる時に、このクソ野郎は……!』
「それに関しては、カノン、ブレイヴに同感かもー♪ 吹き飛ばすー?♪」
「やめろや」
思わず口を挟んだところで、スートが背中を揉みながらも、何かを思いついたようにカノンに問いかけた。
「そういえばカノンさん、私、教えて欲しいことがあります!」
「何?」
「聖属性魔法を、強くする方法です!」
その言葉に、ティーチは顔を上げた。
「……俺の強化のためか?」
「そーです! だって、聖魔法が必要なんですよねー!?」
「やめとけ。お前にゃ向かん」
「なんでですかー!?」
スートが驚くのに、ティーチは薄く笑みを浮かべて背中の方にいるスートを見る。
「いくら練習してもヘボいだろ。それなら、もうちょっと自己強化の魔法でも練習させてもらえ。俺が守らなくて済むからな」
すると、彼女はむむむ、と頬を膨らませ。
「そんな口を利くおししょーは、こうです!!」
「いでででで!! おま、ちょ、やめ……ぐぉお!!」
いきなり指に全力で力を込める彼女に、ティーチは痛みで悲鳴を上げた。
その横で。
「じゃれてるっすねー……いや良いんすけど、ちょっと恨(うら)やま……羨ましいっすけど、それは置いといて、そんな否定するほどダメな提案じゃなくないっすか?」
『あー……いや、スートの他人への補助魔法とかの才能のなさは、マジで常人レベルですらねーんだよな……』
「可哀想で昔は言えなかったけどねー♪」
『それに、多分大丈夫だとは思うんだよ。カノンが解放された瞬間、力がちょっと戻った。もしかして魔王の野郎、パーティー連中を使って、俺の力を削ぐ封印でも作ってたんじゃねーか?」
「それは朗報だねー♪ じゃ、他の連中解放したらまた力が戻ってくるのかなー♪」
なんか重要そうなやり取りをしているが、ティーチはそれどころではなかった。
「お、前、ら、助け……ぐぎゃぁああああ!!」
「おししょーなんか! おししょーなんかぁあああ!!」
逆鱗に触れたらしく、スートにそこから十分以上痛みを与えられて、ティーチは気絶した。
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