3話 その記憶、忘却につき。

....つまり、俺たち七つの大罪の持ち主は大きすぎる力の代償に失ったものがそれぞ

れあるということだ。俺の『強欲』でいう戦闘能力の低さがいい例だ。まともに剣すら振れない。不便なものだ....」


「くかぁ....」


 こいつ....寝てやがる!人がせっかく話してやってんのに...


「おい!起きろ」


 そう言い、ベルの肩に手を乗せる。すこし乱暴な女だと思っていたが、体の線は細く、女性らしさが垣間見える。

 肩にかかった王族らしい金髪のロングヘア―とまだあどけなさが残る顔に思わず見とれてしまいそうになった。寝ていれば可愛げがあるのに、損してるやつだな。

 髪を撫でようと手を乗せると突然、頭にこれまでで最高クラスの激痛が走った。


「くっ、ああ、はうっ、」


 ——い...また...

 

 なんだこれは....激痛とともに、人の声のようなものが一緒に流れ込んでくる。それはどこか懐かしい響きを含んでいる。



.....とめ......あえ....よ...に


 

 ダメだ....所々聞き取れず、何を言っているのかは分からない。それでも、心のどこかでは理解できているような感じがするのが不思議だった。



 ...たい......な.....か.....ね―—


 

 そこで声は途切れてしまった。頬をツーっとつたう熱いものを感じる。意味は理解できないのに、愛おしく、守りたいと感じさせる自分でも初めての感情だった。涙を流したのは何年ぶりだろうか。

 すると、目の前が突然、温かく柔らかいもので包まれた。


も色々あったんだね...でも大丈夫。ここには、フロンティアにはキミ

 を苦しめるものなんてないよ」


 いつの間にか起きていたベルが膝をついていたた俺を抱きしめる。その鼓動の音さえ今は愛おしく懐かしく感じる。

 ああ、涙が止まらない。初対面の女の子に慰められるなんて...頭のおかしい奴に見えるかもしれない。でも、そう思われてもいいほど今はただ、こうしていたかった。

それは空白の時間を埋めるように・・・






「いやぁ、いきなり泣き崩れていたから驚いたよ~」


「その件は本当にすまない。」


 あの後、俺が落ち着くまで2人で抱き合っていた。今思えば情けない限りだ。

 だけど、遠因はこいつが俺の話を聞かずに、寝ていたことである。許さねえ

 照れ隠しで質問を投げかける。


「で、お前が知りたいことは知れたのか?」


「うーん...よく分かんなかったな...」


「そりゃあお前、途中から寝てたからよく分かんないだろうな!」


「いっ、いや寝てないし!瞑想してただけだし」


「人の話を聞いて瞑想する奴がいるか!」


「いるもん!ここに」


「ああ、もうめんどくせぇ。さぁ、帰った帰った」


「帰るってどこに?」


「そりゃあお前の新しい家だろ」


「新しい家ってここだよ?」


「いや、どこだよ」


「だから、ディアーが今住んでるここだって」


 は?This is my houseという意味か?

 おいおいおいおい、冗談はよしこちゃん....古いか...


「いや、冗談じゃないし、寒いよ...」


「加護の力でもないのに、人の心を読むな!」


 ったく....こいつの相手をするのはほんと疲れる....


「つうか、俺の家は2人で暮らせるほど広くないぞ。それに、恋人でもない男女

 で2人きりはさすがにまずいだろ」


「家なら大丈夫よ。今日話してくれたお礼に新しい家を建ててあげるし」


「は?家を建てる?そんなこと、簡単にできるはずが...」


「アヴァロア家の財力をなめてもらっちゃ困るわ。家を出ていくときにプラチナの

 100リピア相当の切手は持って来たわよ」


「プ、プ、プラチナの100リピア⁉」


 もうダメだ...わけが分かんねえ....


 




 



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