4話 その新居、豪邸につき。
目の前に立っている家は恐らく、フロンティア1の豪邸だろう。
そりゃ、プラチナの100リピアも払えばこうなると思っていたが、まさかほぼ全額払って家を建てるとは思っていなかった。....馬鹿すぎるだろ....
しかも、建てたのは「ラーグ工務店」そう、ラーグの家である。
ラーグに会ったとき、あいつが
「いや~お前にも大切な人ができたのか。お幸せにな」
とかぬかしやがったので、一発殴っておいた。まあ、大した威力じゃなかったが...
「これが私とディア―の家なんだね!それにしてもでっかいな~」
俺はベルに押し切られる形で同棲を渋々認めたのだが、色々大変そうなんだよな...
だって、こいつお嬢様で常識とか知らなそうだし!初めて会ったときも人ん家のドアを蹴破ったからな....
「おう...そだな...」
「ねえねえ早く入ろうよ!」
「おう...そだな...」
先が思いやられ、思わずbotになってしまった。....は?
それにしても広い庭だな。。前の俺の家には、庭という概念がなかったからか、新鮮に感じる。こんど薬草でも植えてみようかな。
広い庭を通り抜け、家...いや屋敷の前に立つ。貧乏性の俺は、あまりの大きさに圧倒され、冗談抜きで腰が抜けそうになった。危ない危ない。
そんな俺を横目にベルが玄関のドアを開ける。引き戸式のドアしか使ってこなかったから、ガチャっと引くタイプのドアに憧れがあったのだが、あっさり叶ってしまった。
ドアを開けると、そこには豪邸というイメージを具現化したような空間が広がっていた。え?ほんとに2人だけでここに暮らすの?掃除とか無理ゲーじゃない?
「おいベル、ほんとにここで暮らすのか?」
「いまさら何を言ってるの?それより部屋を見て回ろうよ!」
「おう!」
2階建てのこの家は先述した通り、フロンティアで明らかに目立つのだが、家の中の作りも素晴らしい。木造の建築でよくここまで作れたものだと感心するほどにラーグ一門の建築技術の高さがうかがえる。しかも、3か月ちょいで立て終えている。これほどの人物を『下町大工』だからという理由で王国から追放したアヴァロアがかわいそうだ。
ちなみに、『下町大工』の加護は木造の建築に特化しているため、レンガ造りの王国には似合わない。ラーグ一門が追い出されたのはそういう理由がある。
「やっぱ、ここの人達はすげえわ...」
家具もラーグのところで作ってくれたため、俺たちが運び入れる必要は無かった。
ここ3か月で俺の生活は目まぐるしく変化した。忙しいのだが、楽しい。そう思えるくらい充実していた。それもこれも全部ベルが来てからなんだがな。後で感謝くらいしとくか。
「きゃぁっ!」
そんなことを考えていると、1階の風呂場の方からベルの叫び声が聞こえた。何事だ?すぐにベッドから立ち上がり、急いで風呂場に向かう。
「どうした!」
「ディア―....助けて....黒いのが、黒いのが!」
「まさか、あいつがもうでたのか!まだ今日で初日だぞ。ありえない....って、お前
裸じゃねえか!」
急いで飛び出して来たため気付かなかったが、ベルはお風呂に入っていたらしく、
何も着ていなかった。
「そんなことは今いいの!それより黒いのがいるの!」
「わかったから、服を着ろ!俺が退治するから!」
「よろしくね!逃がしたら承知しないから!」
「任せろ!」
そう言い、風呂場のドアを閉め、殺虫剤を持ち部屋を見渡す。俺の視覚スキルを研ぎ澄まし、絶対に見逃さないように気を張り巡らせる。すると、シャンプーのボトルとボトルの間を俊敏に動き回る黒いヤツの姿を捉える。瞬間、ヤツにめがけ一気に噴射する!ただ、ヤツの生命力は凄まじく、一撃では死なない。
「逃がすものか!」
俺は、動き回るヤツへの攻撃の手を緩めない。体感10分(実際30秒)ほどの死闘を終えついに討伐した。
「やっったぞーーーー!ついに討伐したぞーーーー!」
関ケ原もかくやと、雄たけびをあげた。
ヤツはその後火属性の下位魔法である「ファイア」で焼き払われた。
「ディア―!やってくれたの?ありがとう!」
そう言い、ベルは抱き着いてきた。やたらスキンシップが多いが感謝の気持ちを表しているんだろう。気にしないことにした。
というか、ベルに感謝の言葉を言いそびれたな。水を差すのも悪いし、また今度にするか。
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