2話 その娘、怠惰につき。

「私はアヴァロア・ベルティアよ。気軽にベルと呼んでちょうだい」



・・・・・は?どういうことだ?


「おい!なんで、ここにアヴァロア一族が来たんだ?まさか...侵略に来たとか言わね

 えよなあ!」


「ちょっと待て、落ち着けラーグ。話を聞こう」


 俺も侵略に来たのかもしれないと一瞬思ったが、決めつけるにはまだ早い。

 アヴァロアが侵略するのなら、いちいち使者を送ったりしないだろう。ましてやアヴァロアのお姫様なんて論外である。


「おー!話を聞いてくれるのかディア―!いやあ、不愛想な人って聞いてきたから話

 も聞いてくれないと思ってたよ」


「いいから早く本題に入れ。聞いてやらんぞ」


「わかったわかった。あのね、私....王族を追い出されたんだ」


「どういうことだ?詳しく説明してくれ」


「あの国....アヴァロアは加護で人の優劣が決まるでしょ?それは王族も例外じゃな

 くて、王族内にもカーストみたいなものがあるの。私のお姉さまや1つ下の妹

 はどちらも強力な加護だった。でも私は違った、いや加護自体は強いんだ。

 でも、私の加護は七つの大罪だった。『怠惰』だったんだ」


「それで、疎まれて追い出されたわけか....でもなぜ今まで王族にいられた?

 加護が判明したときに追い出されるものだろう。王族なら隠し通せるとも思わない

 し...」


 ここで能力を使えよと思う人がいるかもしれないが、俺の知識は人と人の関わりまでは分からない。過去を見通せるわけじゃないからな。


「そうなの。本来ならすぐに追い出される予定だったんだ。でも、私の付き人だっ

 たアレッドが必死に父を説得し、かくまってくれた。アレッドと父は昔からの付

 き会いでアレッドに免じて見逃されてた。

 でも、去年の末アレッドが死んだ、いや、部下の手で殺された。同時に私が王族に

 いられる理由もなくなった。だから、父に追い出される前ににアヴァロアを出た。

 そんなとこかしら」


「なんとなくわかった。だが、一つ質問をさせてくれ。どうして俺の元に来ようと

 思った?いくらでも辺境はほかにはあるはずだ。それに、ここはその中でも発展が

 遅れている。来る意味が分からない」


「私はこの辺境に用があって来たんじゃない。ディア―、あなたに用事があってきた

 のよ」


 ああ、なにか面倒なことに巻き込まれる気がする。ましてや王族の娘ときたら何を言い出すかわかったもんじゃない。

 そう思い、恐る恐る口を動かす。


「悪いが、たぶん俺はお前になにもしてやれないぞ。如何せん、こんなボロ屋敷に

 住んでるくらいだ」


「なにもしてやれないって...あなた、なに言ってるの?あなたには『強欲』の加護 

 があるじゃない」


 待て待て、なぜこいつがそのことを知っている?一応、アヴァロアの役所では個人の加護のデータは残されているが、いくら王族の娘とはいえ、閲覧できないはず...

 ....あれ?こいつさっき、「不愛想な人って聞いていた」とまるで誰かから俺のことを聞いてきたかのような発言をしていたよな...


「お前、それは誰から聞いた?ここの人達からではないだろう?」


「なんか王国から出ていくときに、怪しい女の人と会って、あなたが今知りたいこと

 をすべて知ってる人『強欲』の持ち主がフロンティアにいるって言ってたのよ」


「つまり、お前はなにかを知りたくて俺を頼りに来たというわけか...で、何を知りた

 い?」


「それは....私とあなたの加護、七つの大罪についてよ」


 やはりか。『怠惰』の加護持ちでわざわざ俺に会いにこなければ知ることができないことといえば自然と限られてくるからな....やっぱ面倒なことじゃねえかよ!

 これ、話すとそこそこ長くなるんだよな...


「すまないが、出て行ってくれ」


「どうして!そんなに簡単に教え....」


「お前じゃない。ラーグ、お前に聞かれると面倒だ」


「おう、じゃあ例の件、家で待ってるからな」


「OK、またあとで」


 キングマッシュがお預けになってしまったのは残念だが、やむを得ない。


「すこし長くなるが聞いてくれ。これは七つの大罪の起源まで遡る」


 静かに聞き入るベルに淡々と説明を始めた....


 


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