第14話 真、彼氏と会う
リビングのテーブルを挟んで私と彼。娘は珈琲の用意をしている。
彼は膝に手を当てたまま、俯いている。左ほほが腫れているように見えるが。
娘の話では、彼も親に話をしに行ったということだが。ふむ。ひと悶着あったようだな。
「はい珈琲。お父さんはミルクだけだったよね」
とコリと置かれたマグカップ。私専用のものだ。
娘が生まれる前から、割れることなく使い続けていたものだ。
「このカップでよかったんでしょ?」
うむ、と頷く。
彼の前にもカップを置き、娘がその横に座った。
カップを手に取り、口をつけながら、並んだふたりを見た。
このテーブルに三人座るのは、久しぶりだった。もうないかと思っていた。
娘は何気なく珈琲を入れていたのかと思っていたが、ふたりの肩がやたらと固く見える。
まぁ、仕方がないとは思う。
ふたりの立場からすれば、やってはいけないことに思えるのだろう。
さて、どう切り出したらよいものか。
こんなこと、社会でも教えてはくれなかった。
ふと、彼が顔をあげた。
「その、ぼく、きちんと責任はとります、結婚、します」
戦慄く彼の口が、誠実さを伝えてくれる。
うむ、先手を取られてしまった。
「あ、あたし、大学やめて、子供産んで、ちゃんと育てるから!」
「ぼ、ぼくも大学を退学して働きます!」
前のめりなふたりに、珈琲がさらに苦く感じた。
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