第12話 真、娘と会う

 娘から電話があってからの休日。娘が帰ってきた。見知らぬ人間が来たからか、ふたりの姿は見当たらない。

 湯呑にお茶を注ぎ、ちゃぶ台に置く。

 少し見ないうちに化粧がうまくなっていて、自分が時間の流れから取り残されてしまっているのでは、と感じてしまった。

「向こうで知り合った同じ大学の男の子と、その家賃を節約するために、一緒に住んでて」

 俯いたまま、娘が語り始めた。

 今は簡単に同棲をするのだろうか。私が若かったころは、そんなことは……そんな奴も、いた、かな。

 学生の身で結婚していたやつもいたなぁ。

「ひ、避妊は、してた、つもりなんだけど」

 娘の肩が小さく震えていた。言いにくいことを言わせてしまっているのだな。

 だが、親として、事の成り行きを聞かねばならない。

「彼には話をしてあって、向こうの両親に話をしてくるって。その」 

 そうか。相手も親に説明に言っているのか。誠実な男のようだな。

「せっかく宿った命だし、その、あたしを生むためにお母さんがスゴイ苦労したって聞いでで」

 娘の声が濁り始めた。

 そうか、知っていたのか。私の知らないところで、妻から聞いていたのだろうなぁ。

 結婚しても、私たちにコウノトリは来なかった。

 妻は子供を欲しがったが、なかなかできず、不妊治療の末に授かったのが娘だった。

 娘を抱いた妻の嬉しそうな顔は、今でも鮮明に思い出せる。

 そうか。そうか。

 妻の写真に目を向けた。

 穏やかにほほ笑む妻は、この話を聞いたらどう思っただろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る