第10話 真、散歩をする
肌寒くなる季節こそ、缶コーヒーの旨さが増す。
木枯らしが吹き始めた近所の公園に来たのだが。
「トラッキー、はいよーですわ」
「ひゃっはー、ロデオロデオー!」
トラの首の後ろに乗り込んだふたりが叫んでいる。トラはというと、面倒そうにひげを垂らしてぽてぽてと歩いている。
幸いにしてだれもおらず。
あの子たちの体が小さい分声も小さく、周囲の家々も少々寒い今は窓もしめているだろう。
「滑り台に突撃しますわよ!」
「ぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷー(突撃のラッパらしい)」
運動不足の虎がもっくらもっくら滑り台に歩いていくさまが、どこかくたびれた勤め人に見えてしまうのは歳を取ったからなのか。
しかし、トラの上のふたりは楽しそうだ。
「梯子にレッツゴーですわ!」
「死して屍拾うものなしー」
ビーちゃんはたまにぶっそうなことを言う。死んでしまってはダメではないのか、というか君は神様ではなかったか。
トラがふたりを乗せてのそのそと梯子を上っていく。
あぁ、娘も幼き頃はつたない足取りで滑り台をよじ登っていたなぁ。
上っては滑る。
これを繰り返すだけ。
だが娘は飽きもせず、ずっと滑り台から離れなかった。
それほどまでに固執する何かが、私にはあっただろうか。
日々に流され、無意識で生きていたような気もする。
だが、不思議と繰り返しているのだなぁ。何か執着するものがあったのかもしれない。
「いあいあ! 五十六億七千万、ですわ!!」
「闇にこぞりてー主はきませりー」
滑り台のてっぺんから声がする。
……色々混ざっているようだが、君たちが主ではないのかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます