第8話 動き出す陰謀1

 少し経った後、グレゴリーのキャラバンが村へ着き、商売を開始した。


 キャラバンの準備が終わると、カインとアストライアが少女の看病にあたっていた家にグレゴリーがやってきた。少女が【エルフ】であるから、気にかけていたらしく、無事を確認して少し顔をほころばせていたが、すぐに何かを思案するような顔で少女を見つめていた。グレゴリーは少し考えた後、口を開いた。


「――アストライア殿。私が思うにこの子は………」

「はい。おっしゃりたいことは分かっています。私もその考えに至ってました。」


 二人の深刻そうな顔を見て、カインは「その考え」とやらについて聞きたかったが、口を開くのを少しためらう。


 すると傍らの少女からうめき声が聞こえた。

 覚醒したのか、アストライアが声をかける。


「君!大丈夫かい?」


 するとアストライアの声に呼応するように、少女がうっすらと瞳を開く。


「―――こ、こは……?」


 少女は精一杯のかすれた声を出す。


「ここは君が倒れていた近くの村だよ。わたしはアストライア。君、名前は?」

「あれ?あたし、たしか崖から落ちて………?」


 少女とアストライアの会話は成り立たない。少女はいまだこの状況に理解が追い付いていないようである。


「まだどこか痛むかい?具合はどう?」

「………!!!」


 すると突然少女は何かを思い出したかのように寝ていた体を起こして、アストライアにつかみかかる。


「うぇっ!?」


 慌てるアストライアをよそに、少女は涙目で目の前の人間に訴えかける。


「お願いします!!!助けてください!!みんなが……!みんなが……!!」


 少女のあまりの必死さに面を食われるアストライア面々だったが、


「助ける?みんな?君、いったいどこから来たんだい?」


 なんとなく事情を察していたアストライアは少女に質問をつづける。


「あ、たしは、ぁ………」


 すると少女が突然ぐたりとアストライアの方へ倒れる。


「あ、あれ………?」


 彼女自身も自分が倒れた理由がわからない様子だ。


「―――はぁ。とりあえず、腹が減っては何とやらだ。君、明らかに栄養が足りてないよ。そら、食べ物は用意してあるから。」


 アストライアに体を預けたまま、少女がアストライアの肩越しにテーブルを覗く。


 するとそこには少女がみたこともないほどの「」があった。


 少女は目を輝かせてとりあえず目の前に食卓についた。



***



 フガフゴ。


 茂みの中、匂いをかぎながら二体の【オーク】が歩いていた。


「ミツケタゾ。」


 一体のオークが汚れた布切れを拾い上げる。検体αの着衣物だ。


 二体のオークが匂いをたどっていくと、ある村にたどり着いた。そこではちょうどエルフのキャラバンが商売をしていた。


「イイグウゼンダ。モドッテホウコクスル。」


 検体の回収と同時に新たな実験体の入手の算段がつくとは、いい報告ができそうだ。

 そんなことを考えながら二体のオークは村を後にするのだった。

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