第4話 合格だ

 アナグマは、攻撃するとき以外は地面の中に潜っており、攻撃時のみ地上に姿を現す。つまり、攻撃の瞬間を見計らって、その一瞬でアナグマにダメージを与えなくてはならない。


 そこで役に立つのが「探知サーチ」である。探知サーチを使えば地中のアナグマが動く様子をエーテルの動きとして知覚できる。


探知サーチ


 カインは右の手のひらを地面につけて、地中のエーテル情報を読み込む。しかしうまく探知できない。


「――――っ!」


 より強く探ろうとするが、途切れ途切れにしか探知できず、正確な位置が測れない。


 しかし突然正確な位置が分かるようになった。エーテル体としてカインの脳内で処理されているアナグマは、急激に地上へ、もといカインの直下へと向かって猛進している。それも距離が非常に近い位置にいる。明らかに地上に上がって攻撃してくるつもりだ。


「やっばい…!!」


 カインは瞬時に横に飛ぶ。そのコンマ数秒後、先ほどまでカインがいた地中から、轟音とともにアナグマが現れる。


 もしまだあの場所で呑気に地面に手を付けていたならば、あの鋭い爪で体を引き裂かれていただろう。


 そんな考えが頭をよぎり、カインは少し身震いを覚えたが、すぐさま迎撃態勢に移る。再びアナグマが地中に潜る前に致命傷を与えなくてはならない。


 ここからなら風魔法「風刃ウィンドエッジ」を使えばアナグマの胴体は真っ二つにできるが、アストライアが「探知サーチ強化エンハンス以外の魔法は禁止」というわけのわからない縛りを科してきたため、風刃ウィンドエッジのような攻撃魔法は使えない。


 カインは腕と脚を強化エンハンスしてアナグマとの距離を一瞬のうちに詰め、右腕を大きく振りかぶる。しかし攻撃が当たる直前にアナグマは見事地中に潜ってしまった。結果、無情にもカインの右腕は空を切る形となり、その勢いのまま木に激突してしまった。


 すかさずカインは「探知サーチ」を行うが、アナグマは既にカインの探知範囲外まで潜ってしまった。


 そんなカインの様子を見て、ゲラゲラ笑う声が隣から聞こえてくる。


「先生なら先生なりにアドバイスとかないのかよ!」


 そういってカインはアストライアの笑い顔をにらみつける。


「あっはは!いやぁ、地中の探知サーチっていうのはそもそも難しいんだ。こればっかりは『慣れろ』としか言えないなぁ」

「ンな無責任なアドバイスがあるか!!」


 アストライアのあっけらかんとした態度にカインは思わずうなった。

 すると、


「ほら、そんな騒ぐから場所がばれたぞ。」


 アストライアがニヤニヤしながら地面を指さす。カインは慌てて探知サーチするが、その時にはすでにカインの目下一メートルもないところまでアナグマが迫っていた。


 カインは瞬時に足に強化エンハンスをかけて真上にジャンプする。


 直後眼下の地面がえぐれ、怪物が顔を出した。


 アナグマは鋭利な右腕の爪でカインを薙ぎ払おうとするが、あと数センチのところで届かない。


 ギリギリのところで攻撃をかわしたカインは、今度こそ確実に攻撃が当たるという確信とともに、強化エンハンスした右腕で目の前のアナグマの鼻のあたりを思いっきり殴った。


〈アアアアアアアグゥゥァァ!!!!〉


 アナグマは苦痛による咆哮を放ち、苦しい様子を見せたが、闘気を一切無くすことはなく、今度は先ほど空を切った右腕を逆に薙ぎ払い、空中にいるカインに裏拳をかまして横に吹き飛ばした。


 吹き飛ばされたカインの体はまたもや木に激突するが、風魔法で吹き飛ぶ勢いを相殺していたのと、全身に強化エンハンスをかけていたことで大事には至らなかった。


 そうしている間にアナグマは彼のテリトリーへと戻っていき、再びの攻撃の機を狙い始めていた。


「この魔獣の倒し方はもうわかったかい?」


 アストライアが立ち上がるカインに問いかける。

 カインは少し考えて、


「………カウンター、かな?」


と答えた。


「ピンポーン!正解だよ。アナグマを倒す一番簡単な方法は、アナグマが攻撃のために地上に出た瞬間を狙って攻撃をする、カウンター作戦だ。」


 アストライアが自慢げに語りだす。


「ただ、攻撃をかわそうと遠くへ逃げればこちらの攻撃は当たらない。かといってギリギリのところで避けるには自分の探知サーチ能力が足りない………とまぁ、カインは今こんな感じの状況だね。」


 自慢げに語っているが内容は的を射ているためカインは何も言い返せない。


 するとそんなカインの目の前に短剣が飛んできた。剣術の修行の時にいつもアストライアが使っていた短剣だ。


「そいつを地面に刺して探知サーチしてごらん。少しは戦いやすくなるよ。」


 そう言ってアストライアは短剣を指さす。

 カインはそれを拾い上げ、言われたとおりに地面に突き刺し――。


「―――探知サーチ。」


 するとどうだ。先ほどまでとは比べ物にならないほど、地中の様子がクリアに感じ取れた。


 見える。今までよりはっきりと、見える。


 アナグマの動きが、一挙手一投足、手に取るように感じ取れる。

 アナグマがこちらの方へ進んできている。

 前とは違う。

 今は、あとどれくらいでアナグマが地上に到達するのか、どのタイミングで避ければ反撃カウンターできるかを、正確に測れる。


 次で終わらせる。


 ―――3,2,1………今だ!


〈グァァァァオオオォ!!〉


 咆哮と同時にアナグマが地上にでてくる。

 カインは剣を抜き、少しだけバックステップをする。

 その眼前をアナグマの爪が通り過ぎた。


 そして今、がら空きになったアナグマの胴体が、カインの目の前にあった。

 カインは手に握る短剣に力を込める。

 すると短剣が緑の光を放ち始めた。エーテルの輝きだ。

 そんなことに気付いていないカインは、目一杯短剣を振りかぶった。


「だぁぁらぁぁぁぁ!!」


 一刀両断。


 短剣の刃の長さではありえないがしかし、目の前のアナグマは上半身と下半身との二つに分かたれた。


 先ほどまで騒いでいた怪物の上半身が、声もなく倒れていく様子を見て、カインは少し呆然としていた。


「………な、何だこの剣……?」


 パチパチパチパチ。

 拍手をしながらアストライアが近寄ってくる。


「おめでとー!試験合格だね。無事で何よりです。」


 そういってカインに治癒魔法をかける。

 自分の体から痛みが引いていく感覚を味わいながら、カインは尋ねる。


「アストライア……この短剣は………?」

だよ。」

「魔剣……?」


 魔剣とは、はるか北にそびえる山脈、アッパー領に居を構える【ドワーフ】によって作られる、エーテルを込めることによって何らかの力を発揮する剣である。魔剣はドワーフにしか作れず、市井しせいに出回ることはめったにない。


「ちなみに魔剣にはドワーフによって銘が打たれるんだ。その魔剣の名前は、“カルンウェナン”。大昔の剣士が愛用していた短剣と同じだそうだよ。」


 カインは改めて手に光る魔剣を見つめる。


「ふ~ん。っていうか、なんであんたがこんなもん持ってるんだ?」


 そう聞くと、ちょうどカインの治療を終えて立ち上がったアストライアは、不敵な

笑みを浮かべ、「聞きたいかい?」と嬉しそうにこっちを見る。


 これはアストライアが自慢話をするときの顔だ。こうなるとこちらの回答にかかわらず自慢話を聞かされる羽目になる。


「………グレゴリーさんのところに戻るまではその話を聞いてあげるよ。」


 すっかり体の痛みも引いて、万全の状態に戻ったカインは、そそくさとキャラバンに戻る。

 そんなカインに脇目も降らず、アストライアは話を始める。


「これはわたしがカインに会う前の話でね。ドラゴンを倒した時の話だ!いやぁ~いつ思い出してもあの戦いは楽しかった。実はさ、あのドラゴン………ってねぇ、聞いてるかい?」


「あぁ、聞いてるよ。すごいな。どらごん。うん。びっくりだ。」


 カインはとりあえず返事をする。


「おいおい、この話のすごさに気付いてないなぁ?さては。すごかったんだぞ。あいつを持っててさぁ!そんで―――――」


 以下省略。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る