オフ会と彼女②

「よろしくお願いします」


 家から徒歩10分、駅前にあるカラオケ店でオフ会は始まった。

 参加人数は俺と絢香を入れても5人と、だいぶ聞いていた人数より少ない。


「じゃあ挨拶から始めよっか。今回のオフ会の幹事をさせてもらう天野あまの浩一こういちです。僕は小説家として活動していますのでよろしくお願いします」


 見た目は20代後半くらいだろうか、自分より少し歳上に見えた。

 挨拶が終わると、全員拍手をする。

 基本的にはこういう挨拶の時、拍手をやらない派だが、今回は参加人数が少ないため、やらなかったらすぐにバレてしまう。


「初めまして、イラストレーターをしています、安永やすなが圭太郎けいたろうと言います。今は大学1年生です」


 いかにも爽やかな好青年だ。

 1年生ということはだいたい5歳年下だ。

 学生と聞くと、少しだけ若く見える。あの頃が羨ましい。


「えーっと初めまして、三井みつい絢香あやかです。知っている人もいると思いますが、『白日の世界』の作者です。よろしくお願いします」


「えー! そうなんですか?」


 1人の女子の声が部屋中に響いた。


「初めまして! 中里なかさとありさと言います。現在高校3年生で、イラストレーターをしています。それよりも私、絢香さんのファンです!」


 そう言って絢香の手を取り、握手をする。

 まさかオフ会にリアルJKが来るとは。


「ああ、ありがとう」


 普段から褒められるのが苦手な、絢香は少し戸惑っていた。

 時折こちらにめんどくさいと、アイコンタクトを取ってくる。


「えーっと、じゃあ最後土岐さんお願いしていいですか」


 このままだと自己紹介が出来ないと感じたのか、天野さんが進行をしていく。


「えー、初めまして。土岐とき幸樹こうきです」


 みんなの視線が一気に集まる。

 あまり大人数に見られるのは好きでは無い。

 緊張して手が震えるのを何とか抑え、挨拶をしていく。


「現在は、小説家として活動しています。あまり人気は無いですが、これから頑張っていきますのでよろしくお願いします」


 拍手が起きると、ほっと胸を下ろす。

 やはり何度やって慣れない。

 それに小説家と言っても、絢香以外誰も知らないだろう。


「それでは、オフ会の方を始めさせていただきます!」


 こうしてオフ会が始まった。

 始まったはいいが、基本的にコミュ障なので、初めて顔を合わせる人に何を話したらいいのかわかならない。

 すごいよな、初めて会った人と簡単に話せる人って。


「初めまして土岐さん、小説は何を書いているんですか?」


 最初に話しかけてくれたのは、天野さんだった。


「一応、異世界ファンタジーを」


 おい俺、もっと話を膨らませろよ。

 聞かれたことだけ答えるなんて、小学生でもできるわ!


「そうなんですか、僕は異世界は書いたことは無いんですけど、今現代ファンタジーを書いていますよ」


 よし、次こそは話を広げるぞ!


「そうなんですか······」


 はい、コミュ障限界です。

 絶対に第一印象悪いじゃん、どうしよう······今後読んでもらえないかも。


「何固まってんの?」


 助け舟を出したのは絢香だった。

 あまりに見るに堪えなかったのだろう。


「相変わらずのコミュ障だね」


「うるさい、しょうがないだろ」


「あー幸樹は、今『凡人だと思ったら英雄でした』っていう作品書いてるんですよ」


「という事はコーキさんですか? SNSのアカウントからいつも見てますよ!」


 驚いた、自分の作品を見てもらっている人が近くにいたなんて。

 ただ、現在進行形で読者が減っていってる作品だ。あまり見ていると言われても素直に喜べなかった。


「戦闘描写が特に凄いですよね。主人公が敵を無双していくシーンなんて、スカッとして面白いです!」


 そうなんだ、みんなそうやって言う。

 もちろん作品の魅力を知ってくれていて嬉しい、しかし絶対に恋愛描写が下手くそだって思っている。

 ただ、そんなことを言ってしまったら、オフ会ここの空気を悪くしてしまうからね。

 一言だけ「ありがとうございます」と返した。

 というか絶対に印象悪いよな。


「あのー」


 また声をかけられた。

 もう俺の残りHPは少ないぞ。


「もしかしてコーキさんですか?」


 隣に座ったのは中里ありさ。ああ、さっきのJKか。

 チラッと横を見ると、中里さんはものすごく距離を縮めていた。

 白のオフショルにジーンズのショートパンツ。

 俺も男だ、顔より先にその露出された肌に目がいってしまった。

 自己紹介の時に少しだけ見たが、改めて見るとものすごく整った顔をしていた。

 黒髪の艶のあるセミウェーブがまた可愛さを引き立たせている。

 メイクは少ししているが、なくても全然可愛いだろう。


「コーキさんでいいですよね?」


 首を少し傾け上目遣い、計算された可愛いさだ。

 青く輝いている大きな目と長いまつ毛が、とても印象的である。

 彼女は少しづつ距離を縮めて来るが、顔を合わせることも出来ないため、目のやり場に困る。

 香水の匂いだろうか、少しクラクラする。


「ああ、そうだけど」


 ようやく声を絞り出す。


「コーキさん、この後一緒に抜け出しませんか?」


 一瞬何を言っているのか分からなかった。

 抜け出す? どこに?

 頭が追いつかず、返事ができない。


「冗談ですよ!」


 中里さんは笑っていたが、俺はそれどころではなかった。


「びっくりしたよ」


「コーキさんって、『凡人だと思ったら英雄でした』の人でいいんですよね? さっきちょっとだけ会話が聞こえたんで」


「うん、そうだよ」


「私あれ好きですよ! 特に戦闘シーンが面白くて」


 ああ、お決まりの展開だ。

 そりゃそうだよな、いきなり批判なんてしにくいよな。

 別に批判されたい訳では無い、ただ一線を少しだけ踏み込んでくれる人がいると気が楽だというだけ

 ある意味これは自分のわがままだ。


「でも──」


 その一言で少しだけ胸のつっかえが取れた気がした。

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