オフ会と彼女①

「もしかして、コーキさんですか?」


 何故か隣には美少女がいた。

 白のオフショルに、ジーンズのショートパンツ。

 露出が多くどこを見ても白い肌が見えるため、目のやり場に困る。

 聞くとまだ高校生だと言う。

 さすがに何かあったらまずい、相手は未成年だ。

 そんな事を考えている間にも、ジリジリと距離を詰めてくる。

 香水の匂いだろうか、頭がクラクラしてきた。

 どうしたんだ急に、なぜ俺のとこに来る。

 鏡を見なくても、自分の顔が赤いことは分かる。

 まさか年下にこんな緊張するなんて思っていなかった。


「コーキさん、この後一緒に抜け出しませんか?」


 俺はそんな彼女に対して何も言えなかった。



 ────────



「ねえ、暇じゃない?」


 描けない漫画家、三井絢香は今日も執筆スペースに介入してきている。

 釣りをしてから2週間たっただろうか、外はさらに暑く、熱中症で救急搬送される患者が連日、ニュースに上がっていた。

 昨日から甲子園も始まっており、地元の高校も盛り上がっている。

 世の中がそんな時でも、俺はいつも通り全く進まない小説を書いている。


「俺は忙しいんだよ」


 もちろん忙しいと言っても、小説は全く書いていない。考えているだけ。

 あれから家に来ては暇だと言って、外に出かけることがしばしばあった。

 と言っても、デートとかそんなにいいものでは無い。

 夕飯の買い物などをするだけだ。そこに愛も恋もあるはずがない。


「ねえ、あれからどうなの? こうして家には来てるけど最近読んでないんだよね。最新話読んで次の更新まで待つの好きじゃないんだよね」


「まあ、あんまり良くないかな」


 この2週間で、約500人いた読者は半分以下になっていた。

 正確に把握している訳では無いが、アクセス数が大幅に減少しているのが話数ごとのデータを見ると、一目瞭然だ。

 それも更新していく度、徐々に減っている。

 レビューも書かれなくなり、評価も少しづつ悪くなっていく。

 書いている作品を、打ち切ろうかと何度も思った。

 今小説を書いけるのは、読んでくれているユーザーとキャラクターへの愛があるからだ。

 もしどちらかでも欠ければ、その瞬間書けなくなるだろう。

 書き始めた頃は、自己満足で書いていたはずなのに、気づいたら数字ばかりを追っていた。


「そっか、あんまり良くなさそうだね。まあ私も同じようなもんだよ」


 書籍化なんて、そんな簡単なものではないことは分かっている。

 いくら自分がいい作品だと思っていても、それを決めるのは読者だ。


 どれだけ読者がいいと思っていても、他の目に止まらなければ読者は増えない。

 SNSだってそうだ、こうして拡散したりしているが、そのほとんどは読者ではなく作家だ。

 そのため、新たな読者に届くことは少ない。


「ほんとに商業作家なんてなれるんかな」


「まあ私の場合コンテストで、たまたま有名になってそこから人気が出たって感じだからね」


「俺も次は応募してみようかな。ただ今のままじゃ応募しても結果は見えてるんだよな······」


「いいじゃん、失うものはないし」


「確かにそうだけど、やっぱコンテストに参加するなら自信を持って臨みたいな」


「そういうもんですか」


 確かにやってみてもいいかもしれない。

 だが、あまりにも酷い結果だった場合、小説を書き続けることができるのだろうか。


「そういうお前は、漫画どうなんだよ。最近更新が止まってるけど」


 絢香はこの2週間で1回も投稿していない。

 前は3日に1回というペースで投稿していたのに。


「今は少し休憩。ちょっと疲れたからね」


 多分今の漫画に対してなにか思うことがあるのだろう。

 あまり深くは聞かない。何も出来ないし、アドバイスできることも無い。

 励ますにしても、何をどうしたらいのか分からない。


「そういえばさ、なんか創作活動してる人達のオフ会があるんだけど来ない? 今人数が足りないんだけど、ぶっちゃけ誘えるの幸樹くらいしかいないんだよね」


「めんどいからパス」


「そんなこと言わないでよ、先方には大丈夫って言っちゃったんだよー。もし来なかったら、恥ずかしいじゃん」


「俺だって暇じゃないんだよ」


「お願い! このとおり!」


 その場で土下座をしながら「お願い!」と何度も連呼する。


「はいはい、分かったから行けばいいんでしょ。いつなの?」


「明日! 12時からだよ」


「おい、また急だな。もっと早めに言ってくれよ」


「だって朝急に欠席の連絡が来たんだもん。あと幸樹なら嫌っていいながらも来てくれるって信じてたし。」


 どうやらそのオフ会は作家や漫画家、イラストレーター、作曲家まで幅広いジャンルの人が集まるという。

 と言っても人数は10人程度、そのほとんどが作家と漫画家らしい。


「私そろそろ帰るわ。明日よろしくね」


 絢香を玄関まで送っていく。

 扉の鍵を閉めると、明日の準備に取り掛かる。

 作品のことについて話すかもしれない。そう思い、プロット帳や設定帳をカバンの中に入れる。

 この時は、オフ会が波乱を巻き起こすとは思ってもいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る