第8話 転校生2

「お、転校生ちゃん。と、愛理.....」

「文恵と、園静!?なんだ......琴代海だけじゃないのか......」


文恵を見た詰田は少しムッとし、園静の時に分かりやすく落ち込む詰田。

園静はそれを聞いて、少し眉を潜めた。


「いやぁ、たまたま出会ったものだから、どうせなら賑やかな方が良いと思って。まだ転校初日だし、友達が居ないと寂しいだろう?」

「その人気者がか?あの様子だと、しばらくは話し相手に困らなそうだったが」


さすが園静、嫌な所を突いてくる。

しかしそれ以上は何も言って来なかったので、適当に誤魔化した。


「改めて、ロメリアだ」

「ロメリアです。宜しくお願いします」

「ちょっと、何でアンタが紹介してんのよ。アンタだって今日初めて会ったばっかでしょ?」


しまった。

何を自然と紹介してるんだ俺は。

少し笑って、「ボケただけ」的な雰囲気を出しつつ誤魔化したが......危なかった。

気を抜いたら俺がヘマしてしまいそうだな。気をつけないと。


「えっと......俺は隅人、琴代海ことよかい 隅人すみと

園静えんせい おさむだ」

小坂こさか 文恵ふみえ。よろしくー」

詰田つみた 愛理あいりよ。クラス委員長をやっているから、何か困ったことがあったら気軽に相談してね」

「インチョ......」

「委員長。クラスの皆をまとめる人?管理する人?偉い......?まぁ、よく分からんが長だ」


っと、しまったな......思わず癖で説明してしまった。

ロメリアがハテナを浮かべると、すぐに反応してしまうようになったのだった。これだと、慣れているみたいに見られてしまう。


「クラス委員長ってのは、クラスのリーダー的な立場の役職に就いている生徒の事よ。別にそんな、偉いようなものでも無いわ」

「なるほど、ありがとうございます。勉強になります」

「そんなに畏まらなくてもいいわ。ここにいるのは皆同じ歳の同じクラス。一緒にお昼を食べたのなら、もう友達ってことでどうかしら?」


詰田にしては、良いことを言ったな。

まぁ、まだお昼を食べているのは文恵と園静だけだが。


「俺の友達は琴代海だけだ。お前らは勝手に付いてきただけに過ぎない」


......園静が凄いことを言った。

こいつ、今までそんなことを思っていたのか。嬉しいようで、何だか恥ずかしいぞ。あと、友達を俺だけに絞るメリットが全く分からない。友達は多い方が良いと思うぞ園静。


「話を難しくしないでよ......別に良いでしょ友達くらい」

「いや駄目だ。この場で俺と友達なのは、琴代海ただ一人」


何て奴だ。

もうこんなやつは放っておいて、俺はお弁当を取り出した。

皆、各々が弁当だったり購買の物だつたりする。

ちなみに俺はロメリアが作ってくれた手作りの......はっ!まさかこれ、ロメリアとほぼ同じ物が入っているんじゃないのか!?

全く一緒という可能性も高い......そんなお弁当を見られては、確実にバレてしまう。

ええい!どこまでも危険が付きまとってくるな。


「ねぇ、ロメリアちゃんって呼んでもいーい?」

「はい。どのように呼んでいただいても構いません。ご自由にお呼びください」

「じゃあロメリアちゃん、お弁当なんだね。中身見してー」

「はい。どうぞ」


まずい。

文恵の軽率な行動により、俺の学生生活が危機を迎えようとしている。別に良いだろ人のお弁当くらい。何がそんなに気になるというのだ。


「私も見ていいかしら?」


詰田まで人の弁当を見たがる。


「ええ。構いません」


俺が構う。


「綺麗.....!プロみたい」

「ありがとうございます。しかし、私なんてまだまだです」

「いやいや、十分過ぎるって。食べなくても分かるよ。絶対美味しいじゃん」


文恵と詰田があまりにも褒めちぎるものだから、皆も気になって見に行ってしまった。俺もすかさずロメリアのお弁当を確認する。ふむ、確かに綺麗だ。今まで見ていたとはいえ、相変わらずとても美味しそうに思える。

皆がその弁当に見とれている隙に、俺は自分のお弁当の中身を確認する。

......同じだ。

ロメリアには悪いが、少しデザインを変えさせてもらう。

サラダなどのオリジナリティが溢れるものはすぐに食べてしまい、ミニハンバーグなどの冷凍食品は配置を変えて誤魔化す。

よし、これで少しはバレにくくなったはずだ。


「隅人はどんなお弁当?」

「いつも見てるだろ。同じやつだよ」

「最近隅人、見せてくれない。何か怪しい」

「ははは、そんな事ないさ。ちょっと恥ずかしいだけだよ。そんなに言うなら見せるから」


ほら。と言い、中身を見せた。お粗末な中身だ。

せっかくロメリアが作ってくれたというのに......すまない。後でちゃんと謝ろう。


「ふぅん......美味しそうでは、あるね」

「確かに。悔しいけど、配置はともかく料理だけで言えば私の負けかもしれないわね」

「......そ、そうか。嬉しいな」


我ながら嬉しくなさそうだ。


「皆さん、よかったらどうぞ」


そう言ってロメリアは、自分のお弁当を差し出した。


「いいの!?」

「嬉しい」


詰田と文恵は、喜んでロメリアのお弁当を少しつまんだ。

ロメリアの手料理を食べられるのは、一緒に住んでいる俺だけの特権だと思っていたのに......何だか、少し残念な気分だ。

まぁでも、毎日食べられるのは俺だけか。


「うまっ!?」

「美味しい」


ふふ、そうだろう?美味いだろう?

俺はこれを毎日食べられるんだぜ。羨ましいだろう?


「ありがとうございます」

「アルメリアさんは、料理が得意なのかしら?」

「は、はい。自分の中では得意な方だと自負しております」

「自負って......何だかアルメリアさんって、海外から来たにしては難しい単語を知ってるね。本当に外国人?って感じ」


......君のような勘のいいガキは─────


「わ、私は、日本語の勉強をしているので......単語とか、沢山調べました。もし間違っていたら、教えていただけると嬉しいです」


ロメリアが、そう返した。良い答えだ。

すると皆は笑顔になり、ロメリアを褒めたたえた。


「どれだけの期間勉強していたのかは知らないけれど、全く違和感ないわ。凄いわね」

「んー本当に凄い。日本語は、言語の中でも難しい部類だから、それだけ話せるなら十分だと思うよ」

「ふん......俺にはまだまだ適わないがな」


園静は褒めているのか分からなかった。

だがやはり、ロメリアを皆と会わせて正解だったかもしれない。

あの群衆の中から本当の友達を探させるよりも、こうして身近な人達から仲良くなって行ったほうがいいかもしれないな。

それに、この人達は俺の友達なのだ。つまり、俺の保証付きだ。良い奴らだと分かっている。

こうして優しく受け入れてくれることも、分かっていたのだ。


「まぁ、何か困ったら気軽に相談してね」

「私で良ければ、力になるよー」

「そうだな。まだ慣れないことばかりだろうし、そんな気を使うことは無い」


これは学校だけのことでは無いがな。

まぁロメリアは結構質問してくれるし、自分で学ぶ力もある。学校生活も、そのうちすぐに慣れてしまう事だろう。


「改めて......ようこそ、私達の学校へ。これからよろしくね。アルメリアさん」

「はい!よろしくお願いします!」


こうして、ロメリアは友達を獲得したのだった。

昼食後の授業というのは、これまた眠たくなるもので......俺はほぼ無意識下で授業を受けていた。果たしてそれは、授業を受けていると言えるのだろうか。

起きた時には、既に授業は全て終わっていた。


「それでは、気をつけて帰るように。以上」


今日最後の授業が終わり、帰りのホームルームもたった今終了した。

皆が帰りの支度をしている間、ロメリアはキョロキョロと辺りを見渡している。

どうしたのだろう?と思ったが......そうか。

俺と同じ道で帰るわけだから、そこを見られて疑われるのを警戒しているのか。

あれだけ人気だったんだ、ロメリアの帰り道が気になっている奴が居てもおかしくは無い。

......と、思っていたのだが。


「じゃあね、アルメリアさん!」

「アルメリアさんまた明日!」


などと言い残し、各々帰って行く。

気になるはするが、別にストーカーしてまで気になる訳では無い......と言った所だろうか。さすがにそこら辺の常識はある同級生で良かった。

まぁ、これなら堂々と......とまではいかないが、コソコソと一緒に帰るくらいの事は出来るだろう。

教室に誰もいなくなった頃。

文恵は中々居なくならなかったので、「大分遅くなるから、また明日な」と言って無理矢理帰らせた。頬を膨らませていたが、まぁいつもの事だ。


「ロメリア」

「ひゃ、ひゃい!」

「......」


そんな驚かなくてもいいだろ。


「帰るか?」

「え、えと......あの、は、初めまして。私はロメリアありゅめり──────」

「もう教室には誰もいない。部活してる奴らの目に入らなければ大丈夫だ」

「あ、そ、そうでしたか......すみません。戸惑ってしまって」

「気にするな。それよりもほら」


俺は、教室の扉の前に立つ。


「一緒に帰るぞ」

「は、はい!」


少し嬉しそうな顔をし、ロメリアは小走りで近付いてきた。まるで小動物だと思ったのは、俺の心の内に秘めておこう。

俺達は二人で下校する。

帰り道はいつも通りで、何も変わったことは無かったが、ロメリアと一緒だと何故か新鮮な気分だった。何だかこう、ドキドキするというか......少し照れくさいが、楽しい気分だ。

いつもメイド服のロメリアだと、逆に私服が新鮮であったように、制服姿も中々良いものだ。とても似合っている。


「スミト様......」

「ん?」

「からおけ......というのは何でしょうか?」

「カラオケ?」


どうしてカラオケという言葉が出てくるんだ?


「何人かの方に、『休日にカラオケへ行かないか?』と、お誘いを頂きました。『からおけ』というのは、地名なのでしょうか?」

「なるほど......まぁ、カラオケってのはとりあえず歌う場所だと思っていてくれ。詳しいことはまたゆっくり話すが、とりあえずは」

「歌う場所......ですか」

「行くのか?」

「いえ。丁重にお断りさせていただきました」


ほっ、良かった。

これで行くとか言い出したら、また変な気を張らなくてはいけないところだった。


「今はそれで良い。けど、そのうち知らない場所にも行けるようにならないとな」

「はい!」


元気な返事だ。


「スミト様、あんなに大変な所へお通いになられていたのですね」

「え?あぁ、まぁ......慣れちゃえばそんなに辛くはないよ」


大変か......確かに、今日のロメリアの様子だと、そんな感想が出て来てもおかしくは無いな。

知らない場所で、知らない人達に話しかけられ、知らないことを学ぶ。

今日だけで、一体いくつの初めてを経験したのだろう。


「そうなんですか......?でも、やっぱりスミト様は凄いです」

「ロメリアの方が凄いよ。だって、初めての事ばかりなのにもう馴染んで来ていたように見えたぞ」

「そう......ですかね。そうだと、嬉しいのですが......正直、大変でした。でも、それ以上に楽しかったです」

「そうか。それは良かった」


少しでも楽しいと思ってくれたのなら、俺としても嬉しい限りだ。

ロメリアが楽しんでくれる事が、今の俺にとっては一番大切な事だ。


「皆様が優しく接してくださったお陰です」


すると、ロメリアの表情が一瞬だけ曇ったように見えた。

明るい表情ばかり見せていたロメリアにしては、珍しい顔だ。


「私......あの場所で、上手くやっていけるでしょうか......」


不安......か。

無理もない。知らないことばかりで、学ぶことばかりのロメリアにとって、あんなに居心地の悪い場所は無いだろうからな。

だがロメリアは、自分の能力を軽視している。

ロメリアは、自分が思っているよりもずっと学習能力や適応能力が高いのだ。


「心配するな。俺が付いている。それに、ロメリアが決めた道なんだから、最後まで突き通さなくちゃあな」

「......はい!」

「ところで、どうやって入学したんだ?金なんて持っていないだろう?」

「それは───────」


ロメリアは、事の経緯を話してくれた。

校長に会ったこと、助けたらお礼をさてくれと言われたこと。そしてそのお礼として、学校へ入学させてもらったこと......ぶっ飛んだ話だが、ロメリアがここにいるという事実が何よりの証拠だ。

校長にそんな権利があるのか?金銭の全面的支援なんてありえるだろうか。こんな漫画のような話......いや、だが実際にそうなってしまっている。

ロメリアは入学した。それだけは確かだ。


「そんな事が......」

「......勝手なことは分かっています。けれど、どうしても......気持ちを抑えきれませんでした......申し訳ございません」

「だからいいって。俺は別にお前の主人じゃない訳だし、それはロメリアの自由だ」

「......本当にスミト様は、お優しい方ですね」


そんなことは無いと、何度言えば分かるんだ。

俺は......優しくなんか無い。

そんな事をロメリアと話をしていると、いつの間にか家に到着していた。

やはり一人で帰るよりも、時間が短かく感じた。

楽しかったという事だろう。

楽しい時間ほど、早く過ぎてしまうものだからな。


「ただいま」

「え、お、おかえりなさい......ませ?」


部屋に入る際に何気に放った『ただいま』が、ロメリアを混乱させてしまった。


「何言ってんだ。お前も『ただいま』だろ」

「そ、そうでした!た......ただいま、です......えへ」


か、可愛い......。

恥ずかしそうに言っているのが、何とも......っていやいや。俺はまた変態キャラを作り出す気か。

理性を保て、俺。


「ロメリア」

「はい......?」

「学校は、ロメリアが思っているほど単純なものでは無い。だが、その分楽しさもある。また聞きたいことがあったら、何でも聞いてくれ。俺で良ければ、力になるからさ」

「......!はいっ!」


こうして、今日の長い一日が終わった。

大変なことは増えるばかりだが、それは退屈な日々をひっくり返すような、刺激満載の日々とも言える。

これから楽しくなりそうだと、俺は少しワクワクしていた。

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