第7話 転校生
「おい貴様、最近また眠たそうにしているな」
教室。
俺の席で、俺はいつも通り机に突っ伏していた。
するといつも通り話しかけてくる
「放っておいてくれ。もう時期慣れる」
ロメリアのいる生活はとても楽しいものだが、いかんせん疲れてしまう。
美少女と一緒に暮らしているというだけで、純粋な男子である俺の心はもう破裂寸前だ。
それに加えてあの性格。しっかりしてるんだかおっちょこちょいなんだか、よく分からないような性格をしている。一人暮しというのがどれだけ楽だったかを思い知らされる毎日だ。
......とは言え、また独りに戻りたいとは思わないが。
家事や料理など、ロメリアが居ない時に比べて遥かに楽になった。それに、帰って来ると「おかえりなさい」と言ってくれる人が居るというだけで、どれだけ嬉しい事か。
まぁ、すぐに慣れて来るものだろう。
人間というのは、新しい環境に慣れる生き物だ。
「しかし、学校に来てそうそう眠ろうとするとは......学校は眠るために来ているわけでは無いのだぞ?」
「あぁ、分かってるよ。まぁ、確かにちょっと眠り過ぎかもな。たまには起きることにしよう」
園静のお陰で、少しやる気が出た。
よし、今日一日は眠らないという目標にしよう。
と、そんなことを考えていると、教室の前の扉がガラガラと音を立てて開く。
ゴリラが入って来たと思ったので一瞬驚いたが、よく見たら先生だった。
「おーい、席に着けー。今日は、なんと転校生がいる」
「「「え!?」」」
クラス一同が声を揃えて驚いた。
転校生......?こんな時期に?まぁ転校生がよく来る時期があるのかは知らないが、珍しい事であることには違いない。
クラスの皆も驚き、ざわめき始める。
「男子?」「女子?」「かっこいい人だといい」「可愛い子がいい」
異性によって様々な意見が発せられる。
すると先生の後ろからゆっくりと、その人は入って来た。
茶髪ロングの綺麗なストレート。まるで人形のような顔立ち。
美しく、気品のある立ち姿。
誰もが眼を奪われてしまうであろうその少女は、俺のよく知る人物だった。
「お初にお目にかかります。私は、ロメリア=アルメリアと申します。皆様、これからどうぞよろしくお願い致します」
スカートの端をつまみ上げ、足を交差してゆっくりと一礼する。
慣れた動きで挨拶をした少女に、盛り上がりを見せていたクラスが一瞬で静まり返った瞬間だった。
「───────ッ!!?」
......嫌な予感はしていた。
何となく、時期的にそうだろうと思っていた。
しかし、まさか現実に......本当にこんな事が起こりえるとは思っていなかった。
この上ない程ご丁寧な挨拶に少しの間を置くと、男も女も大いに盛り上がった。皆、可愛い子は好きなのだ。
「可愛いー!」「美人ー!」と黄色い声援が飛び交う中、その美少女と俺は目が合い、ニコッという笑顔を見せられた。
全く、これからどうするつもりなのだろうか。
──────────
朝のホームルームが終わると、皆は一斉にロメリアへと群がった。
ちなみに、俺の席は窓際から一列目で一番後ろの席だ。園静は俺のすぐ前。
そしてロメリアは......あろう事か、真隣だ。漫画かよ。
確かに俺の横の席空いてたけども、まさかそんなピンポイントで来るなんてことあるか?偶然だけとは思えない......もはや奇跡では言い逃れできないほどによく出来ている。
「ねぇ、前はどこ学校にいたの?」「どこに住んでるの?」「外国人だよね?その割には日本語ペラペラだね」
「え、えっと......」
尖った耳は髪で隠し、服装もいつものメイド服ではない。この学校の制服だ。よく似合っている。
.....一体どこで手に入れたのだろうか。
だがそんなロメリアは今、困っている様子だった。
群がるクラスメイト達が、皆思い思いの質問を投げかける。
そりゃあそんなに一度に質問されれば、誰だって困ってしまうものだ。
「こ、今年から日本に来たので......まだ色々と不慣れですが、皆様どうぞよろしくお願いします」
ロメリアは、わざわざ席を立ち上がって礼をした。
それに一瞬驚いた皆だったが、すぐにロメリアを受け入れてくれたようだ。
外国人。つまり、日本の事をあまりよく知らない。
まぁ、その設定ならわりと上手く通ることが出来そうだ。外国人どころか、外界人だがな。
しかしどこまで通用するか......外国人と言えど、さすがに電子レンジで驚く人はいないだろう。
そういう、どこの一般家庭でも当たり前のようにある物は知っているフリをするしか無さそうだ。
「どこの国に住んでたの?」「なんで日本に来たの?」
「申し訳ございませんが、今全てのご質問にお答えすることは出来ません」
ロメリアは、困ったような笑いをすると皆は黙り込んだ。
やっとロメリアが困っていることを察したのだろう。
だが、俺もロメリアに色々と聞きたいことがある。
授業開始五分前のチャイムが鳴り皆が席に着き始めた頃、俺はこっそりとロメリアに言った。
「次の休み時間、トイレに行くフリをして教室を出るんだ。後は黙って俺に着いてきてくれ」
「......はい」
ロメリアは俺に合わせてこっそりと返事をした。
こうでもしなきゃ、俺も悪目立ちすることになってしまう。ただでさえこんな美少女と話しているだけでも妬まれかねないというのに、今日初めて会ったはずの転校生と親しくなんかしてみろ。明日、俺の席に花が手向けられる事になるだろう。
ロメリアとの関係性は、絶対に知られるわけにはいかない。
「授業を始めます。挨拶」
国語の担当教師が教室へ入って来る。
授業の始まりの挨拶をロメリアは、俺を見て何となく真似したようだった。
「あー、転校生は今日からだったか。じゃあ教科書とかは隣に借りてね」
そう先生が言う。
そうか、ロメリアは教科書持ってないんだったな。
そして、隣は俺だと言うことに後から気づいた。
「す、すみません......」
「謝ることじゃ無いよ。仕方の無いことだ。それよりも......お前、読めないだろ」
「......はい」
そう、ロメリアは字が読めない。
言葉は通じるが、なぜか文字だけは読めないのだ。もし転移させた神様が居るのだとしたら、きっと中途半端に意地悪な奴だ。
それくらいの能力は与えておいても良いだろうに。
「すみません先生。ロメリア......さんは、まだ文字が読めないので、音読してもいいですか?」
「あー確かにそうだな。いいぞ」
ここで、外国人という設定が生きてくる。
なるほど、中々便利な設定を考えて来たな。
俺は、ヒソヒソと音読する。
何だかあまりから痛いほど視線を感じるが......隣のロメリアの方に気を取られている俺には、あまり刺さることは無い。
しかし、「それは何ですか?」とか「どういう意味でしょうか?」と、単語が出る度ほぼ毎回のように質問して来るロメリアは、とても可愛いが少し大変だった。なにせ、俺も本当にその意味で合っているのか怪しいような言葉ばかりだったからだ。改めて聞かれると、具体的には説明できないような言葉が多かったのだ。また、ロメリアに気付かされてしまったな。
「えー、じゃあ次。アルメリア君」
「は、はい!」
「次の行、読める?」
「はい!えぇと......」
読め無いんだろ?無理するな。
外国人ならまだ、日本語の勉強をして来ているかもしれない。
だが、ロメリアはそもそも世界が違うのだ。
言葉すら知らないものが多いロメリアが、読めるはずない。
だから、俺はこっそりと教えてやった。
先生にも恐らく俺の声は聞こえてしまったいただろうが、初めてということで見逃してくれた。
......これからロメリアに、字も教えてあげないとな。
「ありがとうございます......」
「......あぁ」
そんなこんなで、一限目の授業は終わった。
再び休み時間。
俺は、一足先に教室を出て、遅れて出てきたロメリアの誘導をする。さすがにトイレまで着いてくるような変態クラスメイトはいないようだが、一応人のいない場所へと向かった。
まさか俺が、美少女転校生を呼び出したとは思いもしない事だろう。
「単刀直入に聞く。なぜここにいる?」
「どうしても、スミト様と同じ『学校』というものに通ってみたかったのです。自分勝手に行動してしまい、誠に申し訳ございません」
先に謝罪の言葉が出るということは、少なくとも俺が望んでいない事だったというのを分かってはいるのだろう。
今まで主人に徹底的に仕えるように勤めてきたロメリアだったが、これだけは俺の意思に反した。
......ということは、それだけの強い思いがあるという事だ。
それほど、学校に通ってみたかったということなのだろう。
そんなの、許さないわけが無い。
「はぁ......まぁ、良いけどさ」
「え......?」
「別に構わないよ。だって、通いたかったんだろ?なら、それを止める理由はない。だが素性だけはバレるなよ。魔法とか、異世界とか、メイドとか、俺の部屋に住んでる事とか」
「はい。心得ております」
「なら良し。行こうか」
「......!はい!」
話はそれだけ。学校に通う上で、絶対に守って欲しいことを確認したかっただけだ。
ロメリアのことは信用しているし、とても良い子だと知っている。なら、何も問題は無いだろう。
──────────
昼。
「「「「「アルメリアさん!!!」」」」」
転校生を求め、男女もクラスも関係なく同学年の生徒達は一斉にロメリアへと群がった。
噂が広がるのは早いもので、二時間目の授業が終わる頃には、学校中がロメリアの噂で持ち切りだった。転校生というだけで話題にはなるのだが、しかも外国人。おまけに美少女と来たら、噂にならないわけが無い。
......正直、心配で仕方ない。
馴染むとか馴染まないとかではなく、皆の注目の的となってしまっているのだ。もはやアイドルと言っても差し支えないほどに。
少しのボロでもあれば、噂どころで済むような事にはならないだろう。
俺との関係、魔法のこと、異世界のこと、それは全てを隠しながら、偽りのプロフィールを公開することと同じ。
ただでさえロメリアは割とドジなのだ。これだけの数の人に質問攻めされ、ポロッと言ってしまってもおかしくは無い。
「何だ?貴様もアイツが気になっているのか?」
皆、ロメリアしか眼中に無いような中、俺に話しかけてくるような奴は限られている。
園静だ。
「いや、凄い人気だなと思ってな」
気になっていないわけがない。
だが、こんな状態ではロメリアだけを引きづり出すことは不可能に近い。それに、そのせいで俺との関係がバレてしまっては、元も子もない。
そして何より、ロメリアにも友達が必要だ。
家でなく、学校までも俺とだけつるんでいるようでは、何も変わらない。これを機に、気の合う友達を見つけてくれ。
「俺は気になっていたんだが......まぁ、また今度でもいいか。じゃ、俺達はどこか別の場所にでも行くか?ここじゃあ人が多くてうるさい」
「あ、あぁ......そうだな」
......ん?こいつ、今気になっていると言ったか?
園静が他人に興味を持つなんて、珍しいな。
まぁ転校生だからそれもそうか。
俺は、ロメリアを教室に置いて出て行った。
園静はあまり人がいない場所を知っていた。
それは、屋上......に続く扉の前だ。
「普段は面倒だから、こんな場所には来ないが......今回は特別だ」
「へぇ、意外と広いんだな」
階段の踊り場......って言えばいいのか?
割と人が数人吸われるほどにスペースがある。
それに、なぜか不法投棄された机と椅子も二ずつあり、ホコリを払えば使えなくもない。
「静かでいいね。さすが園静だ」
「だろ?」
「伊達にボッチやってないねー」
「まぁな......って、なんだと!?」
眠たそうな、ゆっりとした声。
園静でも、ロメリアでも詰田でも無かった。
気付けば、いつの間にか文恵(ふみえ)がいた。
俺達をつけて来たのか......別に、普通に一緒に食べたいと言えばいいのに。
「驚かせないでくれよ......」
「めんごぉ」
まぁ、良いけどさ。
結局いつものメンバーとなってしまったな。
「文恵は人が多いの、苦手だったな」
「そー。あんな人が多い所で落ち着けるかっての。皆、物珍しいのが好きなんだね。あんなに群がっちゃって、転校生ちゃんが可哀想」
「だな」
......正直、まだ気になってしまっている。
ロメリアには、この環境に慣れて欲しいという思いもあるわけだが......まだこの世界に来て間もないというのに学校まで入学してしまって。
本当に、新しいことばかりのはずだ。
なら少しくらい、俺が助けてやってもバチは当たらないだろう。
「悪い。忘れ物した」
そう言って、俺は足早に教室へと戻った。
あんな様子のロメリアを放っておくなんて、間違った判断だった。
急いで教室の扉を開くとそこには、凄い数の生徒達が未だにロメリアを取り囲んでいた。
......俺は決意する。
覚悟を決め、言葉を発した。
「アルメリアさん、先生が呼んでたわよ」
そう言ったのは、俺では無かった。
横を見るとそこには、委員長である
詰田の声はこの場にいる誰よりもよく響き、ロメリアの耳へとちゃんと届いた。
「は、はい!」
一瞬で静まり返った教室を背に、二人は職員室へと向かって行った。
助かった......のか?
何にせよ、ロメリアは開放された。俺も後を追う。
「ちょっとアンタ、何ついてきてんのよ」
「えっ」
「いくらアンタと言えど、さすがにストーカーは許容出来ないわ」
職員室の前で、二人は立ち止まり、詰田が振り返って言ってきた。
バレていたか......まぁ、そりゃあ足音してるし怪しいよな。
「い、いやぁロメリア......さん、一緒にお昼でもどうかなぁ......って。でも、先生の呼び出しなら仕方ないな」
「馬鹿ね。あんなの嘘よ」
「え?」
「別に助けたつもりじゃないけど、あれだけ教室に固まられてると迷惑なのよ。委員長として、その根源を断ち切っただけ」
ロメリアを根源とか言うな。
「で、そんな訳だから。アンタにだけ特別にこの子を渡すってのも何かねぇ......」
「詰田も一緒にどうだ?」
「は?」
「心配なら、詰田も一緒にお昼ご飯を食べないか?と、そう言っているんだが.....」
駄目か......?
「......仕方ないわね。少しだけよ」
チョロいな。
ロメリアと詰田二人だけで仲良くお昼を過ごしてくれるのなら良い。だが、詰田は委員長として働かなくてはならない時がある。
なら、いっそ俺達の中に入れれば......文恵や園静とも仲良くなれるかもしれない。
俺は、二人をさっきの場所まで連れて行った。
突然他の人を連れて来て、怒るような文恵と園静ではない。まぁ、文恵はなぜかいつもムッとするが、大丈夫だろう。
実は詰田と文恵は、仲が良いと言うよりもライバルと言った感じのようなのだ。何かと争い、そして小喧嘩をしている。
まぁ喧嘩するほど仲が良いとは言うし、その類いなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます