人工知能

 加々良かがらが落ち葉集めをしていた時、こんな会話を小耳にはさんだ。


「ねぇ、知ってる? ようやく〝ミロ〟が出回るようになったって」

「え? いつから」

「三月入ってから。タイムラインでそんなの流れてたから、急いで近所のA店行ったよ。三袋、全部買っちゃったー。リナんとこはどう?」

「残念ー。うちのところはまだだよー。ねぇー、さーや。三袋あるんならあたしたちにも分けてくれなーい? ちょうど人数分あるし」

「えー、やだ」

「あーあ、断られちゃったよー。どうするリナ――」


 すれ違いざまにイチョウの山をひと蹴り。ああ、せっかく集めたのに。

 ぐしゃぐしゃと足元を踏み散らかす仲良し三人組にとって、足元のしゃがれた戦利品はどうでもいいのだ。

 茶色のヒールブーツが黄色の絨毯を踏み歩く音を楽しげに響かせて、彼女らはイチョウ並木道に正門を構える東京○○大学をくぐっていった。


 リモート授業が定例となりつつある昨今、今週は一味違うようだ。

 東京○○大学は定期考査なのだという。都内で有数の大学であるため、偏差値六○後半の生徒らは行儀良い。いくらか距離を取って通学してきている。自転車通学の人も不織布マスクを顔に貼りつけたまま、さっと構内に収まっていく。

 しかし、三月のまだ肌寒い季節とはいえ、未だマフラーにニット帽は重装備すぎやしないか? 最高温度は二○度まで上がると予報では言っていたのに。


 十数分ほどの成果を再び形作りながら、ミロか、と加々良は考える。

 会話の花を咲かせられるほど、今の若い人はミロを好むらしい。

 不足しがちな栄養素を満遍なく摂れると噂の麦芽ばくが飲料だが、今や転売ヤーにも引っ張りだこだという。二袋でなんと千円以上もするらしい。

 店内価格なら一袋三〇〇円強で済むのだが。


 ミロと聞くと小さい頃はたしかによく飲んでいた――飲まされたに近い――ものだが、世間一般に大人になっても飲むようだ。ネットで検索をかけると、前年比のは驚きだ。あまりの売れ行きに師走は疲れて生産がストップしたのだと記事には載せられている。

 流通の見直しを余儀なくされて三か月、満を持して生産を開始した麦芽飲料。こうなったのはコロナ禍のせいなのか、SNSがおだてたのか……。


 ――なんか、コロナ疲れで情報に踊らされすぎやしないか?


 一月中旬、こんな予測がSNSを貫いたことがある。

 一か月で新規感染者数は二七万一五七五人増加し、死亡者数も八二一〇人に激増する――予言めいた未来予測。

 GAFAの一角グーグルが、自社の人工知能A Iによるコロナ予測を載せ、一時期話題になったことは記憶に新しい。


 五十肩がツライ加々良はイチョウの樹の幹にもたれ、らくらくホンを取り出す。ぎこちなくスクロールしていつの日かスクリーンショットを撮ったアルバムを眺める。人工知能A I、破れたり――ふっと笑った。

 ふたを開けてみれば的外れ。新規陽性者数は約八万五○○○人、死者数は約二四五○人とのこと。予測の三割だった。



 緊急事態宣言は効かない! 

 そんな陰謀論めいた戯言を一蹴できるほど、人工知能A Iは当てにならない。

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