引き算

 はい、みなさーん。PCに電源ボタンは押しましたかー?

 大丈夫そうですね。じゃあ、授業の前に引き算の復習をしまーす。


(ホワイトボードに二つの数式を書く音)


 はい、黒板に書かれている式を読んでみましょう。

 123-2=?

 答えが分かる人ー。はい、後ろの旭山くん。

 121。正解でーす。


 じゃあ次、15-2=? これの答えは何かなぁ。

 はい、榊原さん、どうぞ。

 13。そう正解でーす。


 ふふふ、どうしてこんなに簡単なことをやるんだろうって顔、してますね。

 しかも算数の授業ではなく、情報の授業で。

 これはですねー、大人になればなるほど、またネットにのめり込めばのめり込むほど、この引き算――特にが死にたくなるほど嫌いになるんですよー。『承認欲求』という数の悪魔に囚われてしまうと……


 ご存知の通り、ネットの海にはたくさんのサイトがあります。

 匿名掲示板、SNS、動画サイト、ブログなどなど。挙げれば切りがありません。

 その中には大抵、他人を評価する・されるものが多いです。

 文字であれば感想コメントや応援コメント、数字であればさらに軽く、タップ一つで〝1〟増やせます。

 けれど、増やすことが出来るということは、減らすこともできるわけです。

『承認欲求』というのは、この数字の増減を過剰に気にするようになるです。


 一桁の引き算が、嫌いになる?

 大人ってそんなにバカなの?

 ……ふふふ、皆さんも、あと数年、いや、スマホを持って何らかのSNSアプリを落とせば数日でほとんど同じになりますよー。


 いやいや、そうはならない自信がある?

 そうですねー、最初はみんなそう思うんですよー。けれど、大の大人にとってこの一桁の引き算は、とても恐ろしいんです。

 時には「0+0=0」や「0-0=0」というごく当たり前の状態でも、死にたくなるらしいんです。これはもう、末期ですよ?

 数字とにらめっこしすぎて、時間だけが過ぎていく。

 気分も減退し、やる気もなくなり、最悪病院へ……。「0-0=0」という数字をみるだけで、現実に悪影響を及ぼすこともあるわけです。

 先生は、これを「数字依存症」と呼ぶことにしました。


 解決法ですか?

 そうですねー、ただの数字だと思え!――というのが最善の治療法なんですが、如何せん数字に捕らわれた方々は、往々にして頭が悪くなるんですよー。

 足し算信仰によって慢心していって、目が腐り落ちて失明すれすれ君です。

 特に、目立つ色で塗られた数字は要注意ですよー。

 赤や青ってだけで、頭の悪い人はなぜか特別な数字だと思い込みますからねー。


 さて、前置きはこの程度にして、そろそろPCは立ち上がりましたかね?

 じゃあ、まずは「数字依存症」になった方たちを見に行ってみましょうか。検索欄にこのように入れてみてください。



 ツイッター、カクヨム、なろう。

 なんでもいいですよー。

 ほらぁ、ずらぁーと出てきてますねー。見てください!

 青い☆の数字に依存する、ピラニアみたいな人たちがいっぱい――

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