バイク窃盗
あっけにとられた表情が印象的だった。
コンビニでちょっとした買い物をしたのが悪かったのか、彼らの目に留まったのが運の尽きか。はたまた、彼女が油断してバイクのキーを差しっぱなしで離れたのがダメだったのか……。
すぐさま二人乗りして一目散に逃げた少年二人。前かごにはヘルメットが入っている。オレンジに黄色の線が入ったラメ入りの新品らしい。
タダ同然の戦利品をみて、二人は目を合わせてにやにやと頷き現場を去る。盗まれた!――という彼女の悲鳴がまた悦に浸り、前歯をちろりと出す。
彼らは悪ガキで有名だった。
しかも横浜のとある中学の、まだ在学中で十五歳になったばかり。受験勉強の気晴らしとして衝動的に敢行したのだ。
盗んでほやほやのバイクで高速道路を走る。気持ちいい。走れば走るほど現実から離れていける、そんな錯覚があった。
ハンドルを握る彼は無免許運転だし、勿論後ろの彼もそう。
ヘルメットは女性用で、彼らの頭が収まる程度の大きさだが、単純に被りたくないので被っていない。
こんな窮屈なものを被るより、今は快感の風にあたりたい。
国道で後ろの少年が彼の肩を叩いた。
「こんなにうまくいくなんてな」
「ああ」と彼も大声で返す。
「なぁ、これからどこ行く?」
「とりあえず、海行こ、海」
「海って江の島? やだよ。あそこ混んでるし、水着も着替えも持ってきてない」
まさか成功するなんて、思ってないもんな。
「んじゃ、みなとみらいは? 距離も近いし」
涼斗は唸る。
「ランドマークか……いいね。涼しいし、バエるし」
「おいおい……おまえまだSNSやってんのかよ。そろそろ卒業しねぇと――」
「解ってるって。ちゃんと落ちないようにやるさ」
彼はアクセルを思いっきり踏んで一気に速度を上げた。後ろの彼が、間抜けな声を出して運転手をギロリ。
法定速度を二十五キロも超過して、がらがらのクロソイドカーブを痛快に曲がる。ゲーム感覚でつい声が出た。口笛も吹いた。開いた口に風が入って心地よい。夏真っ盛り特有の生温い温度が、犯罪を犯したばかりの背徳感にかぎ爪を立てたような刺激が上乗せされていく。
やがて横浜港に
「おい涼斗、何してるんだ」
先に行こうとした彼が振り返ると、涼斗はスマホをかまえてシャッターを切る。バイクを撮っているらしい。
「さっさと行こうぜ」
「ああ」
彼の声に応じ、二人そろってエレベーターに乗り込んだ。
翌日彼らは逮捕された。
戦利品のバイクをSNSにあげ、墓穴を掘ったのだ。
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