鬼の鬼退治

ゲコさん。

第1話

昔々ある山奥に鬼達が住む村がありました。

鬼、というと大体のお話では悪さをする妖怪ですが、そこに住む鬼達は温厚で、他の妖怪達や山の動物達と平和に暮らしていました。

ある時、平和な鬼の村に大事件が起きました。二つ隣の山に、荒くれ者の鬼達が住み始めたのです。

荒くれ鬼達は山を降りては近くの人間の里も田畑も都も荒らし、食べ物も財宝も皆盗んでいきました。逆らった人間は殺され、逆らわない人間でも肉の柔らかい子供や女の人を食べて殺してしまいます。

力の強い人間の男達や都のお侍さんが荒くれ鬼の集落に出向き退治する事もありました。しかし、荒くれ鬼達の中でその場所は有名らしく、倒してもまた、近くの浜の向うから新しい鬼がやってきて住み着いてしまうのです。

「どうしたらいいのだろう。」

穏やかな村の鬼達は、顔を揃えて話し合いました。山を越えた先の事ですが、とても他人事ではありません。

「このままでは我々も荒くれの仲間と勘違いされて人間に退治されてしまう。」

「荒くれの鬼達が我々の村も襲いに来るかもしれない。」

「山の中も荒らし回るんだそうだ。そしたら山の皆がかわいそうだ。河童くん達なんか、もうすぐ産卵の時期なのに。」

「何とかして荒くれ鬼達を追い出さないと。」

「しかし、どうやって?」

皆がうんうん唸りながら考えていると、ある物知りの鬼が言いました。

「人間達は鬼退治の話を本や昔話としてずっと伝えているんだと。その話を参考にして、荒くれ鬼共を退治したらどうだろう。」

「なるほど、人間達の知恵を拝借する訳か。」

そこで鬼達は狸や狐達に話を聞きに行きました。彼らはたまに人に化けて人の暮らしを覗いているのです。

「鬼どん、ありがとう。俺達の為にも何とかしようとしてくれるだなんて。」

「そういうことなら不肖私共もお手伝いします。」

狸と狐達は感激し、うろ覚えですが、知っている昔話を口々に鬼達に話しました。

「動物を率いて一緒に戦ったそうだ。」

「腹の中を針で刺して鬼を撃退したそうだ。」

「酒で酔わせてから倒したそうだ。」

「餅に白い焼けた石を混ぜて食わせたのも鬼退治だっけ?」

「そういや仇討ちの話も聞いたことがある。あれも食べ物を奪われ母親を殺されたらしいから荒くれ鬼の仕業だろう。」

「仇討ちの話なら私も知っています。あの話もお婆さんを鍋料理にしているから鬼に仇討ちしたんでしょう。」

ふむふむと鬼達は話を聞き、そして鬼の村長が言いました。

「よし、大体作戦が決まったぞ。山の皆に力を貸してもらおう。」

そして、決戦の日が来ました。

穏やかな村の鬼達は、数日前から荒くれ鬼の集落に新入りとして紛れ込みました。そして自分たちの村から持ってきた酒を荒くれ鬼の大将に渡して言いました。

「大将、いい酒が手に入りました。これで酒盛りしましょう。料理もお任せ下さい。」

酒の大好きな荒くれ鬼達は大喜び。料理が出る前から酒を飲み、酔い始めました。そこに穏やかな鬼達が大皿を持ってきました。

「餅と栗が焼けました。」

しかし餅に見えたのは焼けた真っ白な石。酔った鬼達が餅を次々と口に入れると、喉を大火傷しました。栗は鬼達に力を貸すと決めた栗達で、手を伸ばした鬼に向かって力いっぱいパチンと弾けます。

「大急ぎで食べるからですよ。さあ、ひんやりした果物をおあがりなさい。」

そう言って出された柿やアケビには蜂が潜んでいます。鬼の口に入った途端大暴れし、針でめった刺しです。

大混乱になった所で、穏やかな村の鬼達は山中に響く大声で動物たちを呼びました。

荒くれ鬼の住処を、熊や猪やマムシが襲い掛かります。山から離れ海へと我先にと逃げ出す鬼達が乗ったのは泥の船。次々と海に沈んでいきました。

その後、荒くれ鬼の集落のあった所は、スズメバチや熊やマムシが率先して住みつき、鬼達が新しく来る度に追い出し、やがてまた山には平和が戻ったそうです。

「…というようにして、我々は山の仲間と力を合わせ荒くれ鬼を追い出したのです。いやあ、人間って凄い事を思いつきますね。」

そう言って、鬼の村の村長は迷い込んだ人間にご飯を食べさせながらこの村の昔の武勇伝を語ってくれました。

迷い込んだ人間達は「それ、何もかも違います」と言おうか言うまいかとてもとても迷ったそうです。 


おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼の鬼退治 ゲコさん。 @geko0320

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ