第16話
「……」
イザベラは茫然自失気味に港の船着場に向かって歩いていた。それは人を殺してしまった事を後悔してのことではなく、''能力解放"による一時的な副作用の様なものだ。
彼女は生きるために障害となると判断した相手には、なんの躊躇もなくその力を振るうだろう。
そんな彼女の前方から一台の馬車がやって来る。
黒塗りの馬車で中の様子は伺えない。そして思わぬ人物に出会う事になる。
馬車がイザベラの隣に停止すると、中の者が馬車の扉を開く。
「イ、イザベラなの?」
その聞き覚えのある声にイザベラは、顔をあげて相手の顔を確かめる。
「…… ローザ……」
イザベラが行方不明に成った事を聞いたローザが、母を問いただし、ピエトロたちが屯すという人攫いのアジトに向かう途中だったのだ。
「……無事ではなさそうね…… 何があったのかは貴方のその成りを見れば一目瞭然ね」
「……」
ローザは頭から足先まで返り血で真っ赤になったイザベラを見ながら言う。
「さあ早く馬車に乗って、そんな血塗れの貴方を誰かに見られては事だわ」
「……」
イザベラは少し考える素振りを見せたあと、働かない頭で警戒しながらも、馬車に乗ることにした。
そして馬車はイザベラを乗せると、ローザの屋敷に向かって走り出す。
ローザはいつものごとく、なぜか顔を隠すかの様にヴェールを付けている。そのためその顔を伺い知る事は出来ない。
「とにかく貴方が無事でよかったわ」
「……貴方は、なぜ私を助けるの?」
なぜ彼女は私を助けようとするのだろう?またどこかに監禁でもされるのだろうか……
まだ"能力解放"の副作用で頭が働かないイザベラは、彼女の真意は分からないが聞いてみる事にした。
「フフフなぜかしら、私にも分からないわ……」
「……遺産なんていらないわ。だから、お願いだから私の事はほっておいて……」
イザベラは俯きながら心のままを吐き出す。
「遺産の事はもういいの、私は貴方とはゆっくりと、お話をしてみたかったのよ」
「私と?……」
ヴェール越しではローザの瞳にどんな真意があるのかは分からない。でもなぜかイザベラは、彼女が悪人には思えなかったのだ。
しばしの沈黙と共に、ローザとイザベラを乗せた馬車は ローザの屋敷に到着した。
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