第12話
イザベラがピエトロの案内で馬車の元に行くと、 そこには見知らぬ男の姿が有った。いや、どこかで見たことがある男だ。
「……貴方は……どこかで?」
「い、いや、始めてだが……
お、俺はピエトロの親友のミヒャエルて云うんだ、よ、よろしくな……」
挙動不審ではあるが、ミヒャエルの突き刺すかの様に鋭い視線に一抹の不安を覚えるイザベラ。
だが、ホセの身が気になって仕方のないイザベラは、彼等の馬車に乗り込んでしまったのだ。
今まで夫婦やホセ、オウロなどの善人としか親しく接してこなかったイザベラ。人を疑うということが無かった彼女が、ピエトロの嘘を信じてしまうのは仕方のないことなのだ。
そして馬車は手綱を握るミヒャエルの嫌らしい笑みと共に走り出す。
自分が行く事によってホセを救えるかどうかは分からないが、それでもイザベラは ホセの元に早く駆け付けたい一心だったのだ。
だがおかしい……
馬車に乗ることで冷静になれた頭が異変に気付く。
イザベラは、馬車がオウロの屋敷のある方向ではなく、別の場所に向かっている事に気付いたのだ。
そのピエトロたちの不審な行動に、彼女の人間離れした動物的な感覚が危険を知らせる。
「馬車を止めて!」
だがピエトロはそれを見越したかの様に、その懐から小型の火縄銃を取り出すと、その銃口をイザベラに向けた。
手先が器用なピエトロがイザベラに気付かれずに火縄に火を付けるのは容易い。
「コイツは最新型の小型の火縄銃でね、お願いだからコイツを使わせないでくれ」
銃を撃つ気はないがピエトロは、イザベラの人並外れた力を警戒しているのだ。
火縄銃からはチリチリと火縄が燃える音がする。
イザベラも火縄銃の事は知っている。それが危険だという事も分かる。だがいざとなった彼女の運動神経なら、初動を見切り交わすことも出来そうだが、
イザベラには彼らに聞きたい事があった。
「…… ホセさんの事は私を馬車に乗せるためのウソだったのね」
「そうゆう事。悪いけど君にはこのまま、僕達に付き合ってもらうよ。」
(一先ずホセさんに何事もなくてよかった……
あとはなんとかスキを見つけて逃げ出せればいいのだけど……)
嘘だと聞いて少し安心するイザベラ。それでも馬車は止まらない。
スキを伺うが、警戒心の強いピエトロにそのスキは伺えない。
そしてガタガタと揺られること30分、馬車は街外れに有るボロ屋の敷地内に入って行った。
「さあ 手荒い事はしたくない、大人しくそのボロ屋の中に入るんだ」
「……」
ピエトロの指示で建物がある敷地内に入っていく。イザベラの背中には今だに銃が突き付けられたままだ。
ピエトロの合図で見張りの男が2人近づきイザベラを囲む。
それまでにもピエトロたちから逃げるスキを狙っていたのだが、イザベラの前後左右を囲む様に男たちが着いていてはそれも無理からぬ事だ。
仕方なく彼女はボロ屋の中へ入って行く。
そのボロ屋の中には、何処からか連れて来られたのか、3人の娘が紐で括られたままの状態で監禁されていた。
「あんたもこれで縛らせてもらう」
イザベラも他の娘同様に、逃げられないよう紐で後ろ手に縛り付けられてしまったのだ。
「悪いが、君にはしばらくここに居てもらうよ。
逃げ様とは思わない事だ、ミヒャエルたちが見張りで残るからね。」
ピエトロの言葉通り、 ボロ屋には4人からの見張りが常備しており、逃げ出すのは無理そうだ。
「…… なぜこんな事をするの? 遺産の事ならホセさんに断ってあります。だから私をそっとしておいて……」
「フフン、それが通らない世界も有るのさ。それに…… 」
ピエトロがイザベラの体を舐め回すかの様に、足下から頭へと視線を這わせる。
ゾクっとした嫌悪感がイザベラの背中を駆け抜ける。ピエトロを心底軽蔑するイザベラの視線に、彼はいやらしい笑顔で応えた。
「君の体には価値があるということさ。
それと、その子達とはしばらく一緒に暮らすことになるんだ。まあ仲良くしてやってくれ」
(こんな若い子供達を……)
「年寄りの相手も疲れるんだぜ。まあ大人しくしていな、そうすれば痛い思いをしなくて済むからな。じゃあまた後でな」
そしてピエトロはミダルラの待つ屋敷に帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます