第11話
ミダルダ達の策略なぞ知る由もないイザベラは、新たな新天地へ旅立とうと、港の船着場に来ていた。
船着場のベンチに座りながら考える事は、オウロとその娘のローザの事ばかり。
(……オウロさんの娘のローザさんのことは気に成るけど、もう私にはどうしようもない事……
せめて最後に一度だけでも、オウロさんにローザさんを会わせてあげたかった……)
すっかりお人好しになってしまった今の自分を客観視して、この国を出る事に決めたイザベラだったが、それでもなお心に残る後悔の念が彼女を苛んでいた。
だがそんな彼女の様子を 影から伺う者がいる。
それは、ミダルダの情夫のピエトロの知り合いで、ミヒャエルと云うチンピラめいた男だ。
このミヒャエルは今で云う処の探偵の様な仕事ともう一つ、別の仕事を生業にしている。
それは人攫いだ。彼が攫い売り払った娘は三桁にものぼり、その界隈では有名なクズなのだ。
ピエトロから イザベラの動向を探って欲しいと頼まれていたミヒャエルは、屋敷を出たイザベラに張り付き、その動向を見張っていたのだが。
「やあ兄弟、お嬢ちゃんの様子はどんなだい?」
ミヒャエルが振り向くと、そこにはピエトロの姿が。
「ああ、どうやら嬢ちゃん、船に乗りたいようだな」
ミヒャエルの隣に移動するとピエトロは、遠巻きにイザベラの動向を伺う。イザベラは何か考え事をしている様でベンチから動く気配はない。
「うむ、船に乗られては厄介だな…… よし俺が彼女をこちらにおびき出そう」
「おびき出すてどうするつもりだ? あのお嬢ちゃん異様な程に感が鋭いんだ。俺も何度 バレそうになった事か……
この俺ですら距離を置いて見張っていることぐらいしか出来なかったんだからな」
イザベラの人間離れした超感覚が半径10m以内の異変を彼女に知らせてくれる。
「俺に考えがある。なに、任せておけ。」
ミヒャエルから離れピエトロは、自信有りげに イザベラの元に近づいていく。
そしてイザベラの手前まで近くと、大根演技そのままに考えていたセリフを言う。
「ああイザベラ、 こんな処に居たのかい!」
まるで偶然にそこで会ったかの様に装い、イザベラに話しかけて行く。
「……あ、貴方は?……確か……」
ピエトロにあまりにも興味が無かったせいか、その存在を忘れかけていたイザベラ。
「……い、嫌だな、忘れちゃったのかい? オウロ様の屋敷で庭師をしていたピエトロだよ。屋敷の中庭で会っただろう」
「…… そういえばそんな人が居ましたね。その貴方が一体私になんの用なのですか?」
「うっ、…… 」
イザベラの事務的、毅然とした態度に言葉が詰まるピエトロだったが、なんとか持ち直し話を続ける。
「そ、そんな事より ホセが大変な事に成っているんだ!」
「ホセさんが?」
「ああ、ミラルダ夫人の怒りを買ってね、あのままじゃ奴さん 大変な事になるぞ…… 」
ピエトロの話しでは、ホセがミラルダに何らかの罪を被せられて、投獄されたとの話しだが……
これはもちろんピエトロの作り話しである。
ピエトロはイザベラが屋敷に居た時、執事のホセとだけは仲良くしていた様子を陰から見ていたのだ。
その人を騙す事においては天才的な才能を有しているピエトロ。
大根とはいえ人の弱点を見抜きそこをつく巧みな話術と、イザベラの一際純粋で人の世では足枷とも成りえる優しさが災いし、彼女はピエトロの話しを信じてしまったのだ。
側から見れば大根演技そのものの分かりやすいピエトロの陽動だが、親しかったホセの名を出されては話は違う。
自分が行ってもどうしようも成らないかもしれないが、それでもイザベラは行かずにはおれないのだ。
イザベラは踵を返すと、なんと、ホセの元に走り向かおうとするではないか。
そんなイザベラの腕をピエトロが慌てて掴む。
「おいおい、まさか走って行く気なのか?!」
「離して!」
ピエトロの静止を振り払おうとするイザベラ。
ピエトロは予想以上に強いイザベラの、振り払おうとする力に少し引き摺られ驚きはしたが、ここで逃しては作戦が成り立たないと踏ん張り粘る。
「落ち着くんだイザベラ! 僕の乗って来た馬車が向こうに停めて有る、それに乗って行こう。」
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