第8話
それからイザベラは、毎日の様にオウロの看病をしていた。
忙しい毎日のため、当初の目的だったオウロの娘のローザにも会えずにいたが、そんな忙しい中でもオウロとは心を交わすことが出来たように思う。
そのイザベラの献身的な看病が功を奏したのか、オウロの容体も 回復に向かっている様にさえみえる。
「……ローザ、今日はいい天気だねぇ……」
「はい。とっても気持ちの良い陽射しです」
簡単な会話ならつっかえる事なく話が出来る様になったオウロ。だがその面影はどこか寂しげだ。
なぜならばオウロの妻ミダルダと娘のローザが、彼の元に見舞いに訪れる事は一度として無かったからだ。
たまにイザベラをオウロが、自身の娘のローザではないことに気づいている節がある。
そんな現実に絶望したのだろうか、哀れなオウロの良くなっていたと思われ容態が急激に悪化したのだ。
「だ、旦那様!!…… 」
ホセのオウロを思う悲痛の叫びが病室にこだまする。
「ホセさん、私ローザさんの所へ行ってきます。だからその間オウロ様の事を頼みます!」
「イザベラ様!?」
病室を飛び出すとイザベラは、オウロ危篤のその報を伝えようと、ホセから聞いていたローザの屋敷に急ぎ向かう。
イザベラが屋敷の中央の中庭を通ろうとした時、ミダルダとピエトロが、人眼もはばからずにイチャイチャと絡み合っている光景が目に入った。
オウロが死ぬとあって人目を気にする必要が無くなったと云うわけだ。
「あ、貴方は…… こんな時になんと云う事を、恥を知りなさい!」
だがミダルダはなんとも下卑た視線をイザベラに向けたまま、イザベラに見せ付ける様にピエトロとキスをして見せたのだ。
イザベラはこの者たちにはなにを言っても無駄だと悟り、軽蔑の眼差しだけをミダルダに残し、ローザの屋敷へ急ぎ向っう。
ローザの屋敷はなぜか人里離れた海岸近くの崖の近くに外観と見合わない様相で建っていた。
イザベラがローザの屋敷を訪れると朝早くだったせいか扉は固く閉ざされており、何度か扉を叩くと気怠そうに、中からローザと思われる人物が現れた。
「こんな時間にだ… !!」
そしてローザがイザベラを見て驚愕したのはいうまでもない。
「…… あ、貴方がイザベラね? あの人に聞いていたけど、本当に私にソックリなのね、驚いたわ……」
ローザ越しに屋敷の中を伺うと、屋敷の奥に怪しい煙と複数人の人物の姿が伺えた。
上半身裸の者や仮面をつけた者、素っ裸の者までおり屋敷の中をうろついている。
ローザ自身の顔にも何日も寝ていないのか、イボや隈、肌荒れが目立つ。それに何かの病気だろうか、所々爛れた様な、薔薇の様な症状まで伺える。鼻の周りも心なしか腫れているようだ。
そのローザや屋敷の中の状況から、彼女の日常がかなり荒んだモノだと伺えた。
ローザの年は24〜25歳くらいのはずだが、10歳以上老けて見えるのはその生活の歪みか。
「……まるで鏡を観ているようだわ。ねえ、貴方は自分とそっくりな人間を前にしてどんな気持ち?」
「そんな事は今は関係ない、貴方のお父様が 危篤なのよ。さあ 私と一緒に お父様の元に行きましょう!」
期間にして2週間程だがオウロの看病で情が移ったイザベラ、せめて今際の時くらいオウロの娘に会いたいという願いを叶えてあげたい。
だが そんなイザベラの訴えかけに耳を貸すどころか、失笑と共にローザが言い放つ。
「……ホセに言っておいたはずよ、父様が死のうがどうしようが私の知った事ではないの。今度はあの人が死んだ時においでなさいな」
「どうして?、どうして貴方達は…… ただ無償に愛する事が出来ないの?」
イザベラの頬を涙が伝う。
「貴方が小さな子供だった頃を思い出して…… ただ、ただ無償の愛に抱かれていたあの頃を……」
何を思うか目を閉じて黙り込むローザ。
「……まだ間に合うわ、早くお父様の元に、オウロさんの元に行ってあげて、お願い……」
「……」
だがイザベラの涙混の呼びかけにも無言で返し、ローザは屋敷の奥に引っ込んでしまった。
(この親子の間に何があったのかは分からないけど、まだ間に合う、きっと大丈夫……)
イザベラはローザは必ず来ると、わずかな望みを信じてオウロの元に戻って行った。
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