第6話


「すみませんイザベラ様… 奥様の気分を害される行為、私が代わりにお謝りいたします」


深々とイザベラに頭を下げるホセ。慌ててイザベラがホセを止める。


「気にしないでくださいホセさん。あのお方がこれから会うオウロさんの奥様なのですね」



「はい…」


なんとも悔しそうに返事を返すホセ。認めたくないという思いがヒシヒシと伝わってくる。


「さあイザベラ様、しばらく暮らすこの屋敷の案内をしましょう」


嫌な流れを変えようとホセが屋敷の案内をしてくれるという。その間にホセから出る話題は彼の主人のオウロの話しばかり、よほどオウロのことを信頼しているのだろう。



「… 我が主人は、オウロ様は、私を奴隷から開放してくださったのです……」


「えっ、ホセさんが奴隷だったなんて…」


事前に調べた情報で奴隷という人に売り買いされる自由のない立場の人間がいるということは知っていた。


だが、彼らミパ.ン.ルゴに奴隷という制度は無かった。昔はあったらしいが彼女の父親だった者がその制度を廃止したと聞いたことがある。


クスコにいた頃はほぼ夫婦とだけの生活だったため、見たことはあったが交流した事はなかった。


元とはいえ奴隷という立場だった人物との交流はイザベラにとって貴重な経験となった。


オイオイと滝の様に涙を流し話を続けるホセにイザベラは少し心配になる。


「それだけで無く、オウロ様は私を執事として採用してくださった…… この町でオウロ様に恩義の有る人間が一体何人居る事か……」


ホセの話だけで彼の主人のオウロが、いかにこの町のために尽くし、数多くの人々に信頼され導いて来たのかがわかる。


そしてホセは、イザベラに屋敷の案内をしながら有る絵の前で立ち止まった。



「イザベラ様、この絵をご覧ください」


ホセが案内してくれたそこにはイザベラにソックリな人物の肖像画があった。


いや、正にイザベラそのものだ。


そう、イザベラが蘇生転生するために必要だったDNAサンプルの非検体、新しい体の元だった人物こそ、 オウロの娘ローザその人だったのだ。


「貴方を初見した時は 本当に驚いた、お嬢様本人だと思ったほどに似ていたからです」


イザベラに向き直り話し出すホセ。


「始めて貴方を見た時の貴方の行動が、貧しく日々飢えと戦う孤児達に対してのほどこしでした。

失礼ながら貴方自身、そんなに裕福には見えなかった。ローザ様ではあり得無い事なのです。」



「……」


ホセの感情が昂っていくのが分かる。


「私は貴方に主人 オウロ様と同じモノを感じた。そして貴方なら、この申し出も受けてくれると勝手ながら確信しておりました」


そしてイザベラの瞳をまっすぐに見つめる。



「早速 オウロ様にお会いしていただきたい。」


ホセの案内でオウロが居る病室まで行く。そのオウロは、 ベットに横になり痛々しく咳き込んでいた。


頬は痩せこけ顔も蒼白、何ともいたたまれない姿だ。誰が見ても永くはないことが分かるほどに衰弱しきっている。



「旦那様、今日はローザお嬢様が御見舞いにいらしてくださいました」


ローザの名を聞いた途端に、今まで衰弱して弱っていたオウロの半身がはね寝起きる。


オウロがイザベラをその目に捉えると、みるみるウチに虚ろだった目に力が漲ていくのがわかる。


「…おお、おお!ローザか!、じ、実に、久しいな…… 元気だったか? 会いたかった…… お、お前に、そして……」



「…はい、お父様もご機嫌麗しく」



「…… うむ、き、今日は……ゆっくりしていきなさい」



心なしかオウロのトーンが下がっていた様に思うが気のせいだろうか。


オウロの病室から出るとホセが力強くイザベラの手を両手で握ってきた。


「……旦那様が笑っている顔を 久しぶりに見ました、貴方には感謝しております。イザベラ様ありがとうございました……」

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